ああ我が踏み台人生
「今までありがとうございました」
そういって去っていったのは3年来パーティーを組んでいた年下の3人だった。
別に仲違いをしたわけではないし、大した事情もなかった。ただ、俺があいつ等についていけなくなっただけだった。
初めて出会ったとき、あいつ等はまだ駆け出しの冒険者で、よく俺のことを兄貴兄貴と追いかけてきた。俺もさすがに慕われて悪い気がするはずもなく、どこへ行くにも着いてきたそいつ等とはいつの間にか自然とパーティーを組んでいた。
知り合いが死んでは後味が悪いからと地理や魔物の特性を知らないあいつ等にいろんな知識をたたき込んで、武器の使い方を教えて、旅や裏の関係も教えていたら、あいつ等は俺にとって大切な人間になっていたんだ。
そうしてともに旅をして、着実に成長していくあいつ等は、背を預けられるくらいに強くなった。
そして気がついた。いつの間にかその背にかばわれることが多くなったことを。旅を先導するのが俺ではなくなったことを。一人が剣術で俺を負かし、一人が俺の知る限りの魔法を覚え、一人が俺より上手く交渉するようになって、ようやく俺は自分が足手まといになったのだと気づいた。
それからの俺の行動はパーティー解散に直結だった。僻み、も合ったのかもしれない。けれど一番恐れたのは、足手まといになってあいつ等の命を脅かすことだ。かといって、俺に合わせていては何の成長も出来ない。
そういって、俺はあいつ等と分かれた。
実はこんなことは珍しいことではない。どうやら俺は梅の木という奴だったらしく、昔はやれ魔法の覚えが早いだの剣筋が良いだのと褒めやされていたが、大きくなるにつれて俺の特異性は平凡という中に埋没していった。ともに育った少し鈍くさい幼なじみとともに故郷を旅立ったが、あいつもまたいつの間にか俺のことを越えて、一人別の道に向かった。いまではなんと隣国の英雄だそうだ。
随分と遠いところに行ったものだ。
そして、実はあの3人も、ギルドからの特殊な依頼を受けてドラゴンの住まう山へと旅だって行ったのだったりする。あのドラゴンは昔から悪評が高かった為、きっとあいつ等は帰ってきた頃には英雄として奉りあげられているだろう。交渉の上手いあいつがいるから、その辺りは上手くやりそうだな。
そう思えば俺の周りは妙に名をあげる奴が多い。妹は俺が描いていた絵を真似ていたらいつの間にか首都にある美術学校からお呼びがかかり今では宮廷画家として忙しく働いているし、初めて受けた仕事の吟遊詩人は今やあちこちに引っ張りだこの有名人。あの幼なじみの後にパーティーを組んだ魔術師はクエストで見つけた遺跡の解析が認められ学術都市に招かれていった。他にも何人もの有名人がいることに今更ながら戦慄する。
なぜサインをもらわなかった!
くぅぅっ!とハンカチを噛みしめていると、誰も突っ込んでくれないことに寂しさを覚えた。虚しいぜ俺。
しばらくひとりぼっちを味わうことを覚悟した俺は、目線をあげて少し笑った。
自分の人生の役所なんてたかがしれている。俺がいてもいなくても世界に与える影響なんて大したことではないだろう。けれど。
俺だって誰かの踏み台になることぐらいできるんだろ?
「なぁ、お前さんひとりか?」
そういってぼろぼろの小さな子供を腕に抱き抱える。
ああ、きっとこの子も遠くへ行くんだろう。
そんな予感を感じつつ新たなともに名前をつけてやった。
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踏み台人生最高じゃないかははんと開き直り、その後多くの才能ある人を出世させていく。それが認められ魂に導く者の運命を定められるがそんなことは本人の預かり知らぬこと。大抵、初期パーティーで強く頼りになるが中盤辺りから伸びがなくなりいつの間にか2軍に下がっているというそんな人。でも
この人がいないと主人公が旅立たず、物語が始まらないというまさかの超キーパーソン。