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管理人室には苦情が来ます。

作者: 浮月重月
掲載日:2026/07/07

7月7日、誤字報告を確認。修正いたしました。ありがとうごさいます。

内線電話が鳴っている。真夜中は勘弁してほしいが。


ここのアパートは数年前、老朽化で取り壊す予定だったものを土地建物ごと業者が買い、

外壁の修繕や内装の大規模改修を行って一人暮らし専門の賃貸住宅にしたらしい。


前任の管理人が二週間ほど前に急に退職したとかで、後釜で俺が採用された。

住み込みの管理人なので、こんな風に緊急の内線がかかってくるのはちと面倒だが、

給料は前のバイトが馬鹿らしくなるほどもらえるし、コンビニも最寄り駅も近い。


前に住んでたところもかなりの年代物で、壁が薄いわ周りの建物が高層で薄暗いわで、

冬場は寒い、夏場は暑いでかなりキツかったから思わず飛びついた。


ここは徹底的に手を入れたんだろう、暑い寒いはまったくない。騒音もほぼない。

大半の家具も完備されてるし、ここへ持ち込んだのは着替えと貴重品一式ぐらいだった。

家賃は全住人が振込なので、ため込んだりするやつが出ない限りは回収の手間もない。

近所の住民との連絡や、住人へのお知らせ、インフラがらみの日々の確認が主な業務だ。

管理会社への報告も楽なもんだ。


内線電話を取る。


「ああ、夜分遅くにすみませんね」

「いえいえ、どうされました?」


まあ、急ぎじゃないなら朝にしてほしいなとは思う。


「上の階だと思うんですけど、なんか変な音がしてるんですよ、いや声かな」

「上の階ですか、あ、恐れ入りますが何号室のどちら様でしょうか」

「あ、失礼しました、101号室のひらさかです」

「そうすると201号室か、隣の202号室ですかね、音の出どころは」

「こんな遅くに何されてるのか分かんないですけど、お手数ですが管理人さん、

 注意とかしてもらえませんでしょうかね?かどが立つのも気まずいんで」

「そうですね、あまりキツく言うのもなんですが、

 皆さんお互い気持ちよく暮らしたいですし」


電話を切った後、マスターキーを持って管理人室を戸締りし、

扉に「巡回中」の札をかける。


二階への階段を上がって202号室の前を通るが…明かりはついていない。

201号室もついていない。二軒とも寝ているのか?


後ろを振り返ってみたが、203号室も204号室も明かりはついていない。

チャイムを鳴らさず、201、202号室の扉に耳をそばだててみた。


…二件とも何も音はしていない。聞こえるのはせいぜい俺の呼吸音だけだ。

平坂さんだっけか、単に体調不良で耳鳴りでもしてるんじゃないか?ハハ。


管理人室に戻ってきた。

「在室中」の札に変えて、鍵を開ける。


ふと手にしている鍵を見た。

「101 管理人室」と書いてある。


え?


確かに内線だった。

確かに「101号室のひらさか」と名乗っていた。


誰だよ。

起きてた他の部屋の奴の悪質ないたずらか?

ふざけやがって。

朝になったら文句言いに行ってやる。


「101号室のひらさかです。変な音聞こえました?」


その声は俺の耳元で聞こえた。

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