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リーネの冒険~異世界の女の子と入れ替わった俺のTS娘生活~  作者: RCAS


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9/15

遠回りが近道だ

 アルベルトの目がすぅっと細められた。

 父親としての驚きと、代官としての計算が同時に動いている顔だ。


「乗馬、そして『身体強化』……か」


 否定ではない。事実確認だ。

 俺はこくりと頷く。


「はい。最初はただ馬に乗りたい一心でした。でも、それなら『身体強化』ができた方がいいという話になり、それも含めてお父様とお母様に許可を取れ……リゼ先生にそう言われました」


 アルベルトは俺を見据えながら考え込んでいる。

 その横で、エレオノーラが不安そうに口を開いた。


「でも……危険なんじゃないかしら。『身体強化』の習得は騎士家の人間としては、確かに必要なことだけど……」


 エレオノーラの目にあるのは純粋な心配だ。

 俺はまだ『身体強化』については本で読んだ知識しかない。

 全ての補助魔法の基礎らしいが……やはり負担はあるか。


「その通りだ。まずは通常の鍛錬で体を鍛えて、そのあとに習得していく魔法が『身体強化』となる」


 アルベルトが言葉を引き継ぐ。

 体作りが先、魔法は後。それはリゼに聞いていた通り。


「騎士家の人間として評価に直結する魔法でもあるしな。それは男であれ女であれ、だ。しかし、今のリーネの体では……」


 アルベルトは眉をひそめて、それから結論を出した。


「習得は難しいと言わざるを得ない。これは父としてではなく、騎士としての見解だ」


 あっけなく却下! これはいつもの娘大好き過保護パパではない。現場を知るプロとしての判断だ。

 となれば、ぐうの音も出ない。参ったなこれは。


「お父様……どうしても駄目でしょうか?」

「現状では、許可できるものではない。」


 娘のお願い攻勢も不発か。

 となると、地道に体作りから始めるしかない。

 冷静になれば焦る必要もない。それなら地道に――と考えていたその時、扉がノックされた。


「失礼します」


 それはリゼだった。

 相変わらず無表情だが、雇い主の前ではさらに強固な仮面を被っているかのようだ。

 でも、許可を取るための協力を頼んだ覚えはなかったけどな。

 何か気になることでもあるのだろうか?


「ちょうどいい。娘が乗馬を望んでいる。身体強化も学びたいと言うが、お前の意見を聞きたい」


 アルベルトが即座に水を向ける。

 リゼは一度だけ俺に視線を流し、すぐに雇い主へと向き直った。


「リーネお嬢様のお体では、危惧される通りのことが起きるでしょう」


 ダメ押しされた。

 ……と思いきや、彼女は言葉を継ぐ。


「しかし、その集中力には非凡な才を感じます。その芽を伸ばさないのは、損失に成り得ると愚考する次第です」


 ナイス、リゼ先生!

 その集中力は精神操作というズルをしているだけだが、評価されるなら儲けものだ。


「まさか、リーネが……それは本当か?」

「はい。実際に稽古を見ていて感じたことです。体作りの優先に変わりはありませんが、その才覚を鍛えるという意味で、『身体強化』の習得を同時並行で行う意味はあるかと存じます」


 アルベルトの瞳に驚きが混じる。

 彼は俺とリゼを交互に見定め、数秒の沈黙の後、決断を下した。


「いいだろう……ただし、条件を付ける」


 許可が下りた!

 だが、タダではないらしい。


「第一に、リゼの監督下のみで行うこと。自己流は禁止だ」


 即座に頷く。

 剣の稽古ですでに痛感している。自己流にろくなことはない。


「第二に、進捗が見られない場合は中止する。焦りは怪我を呼ぶだけだ」


 これも正論だ。

 俺のズルを才能と勘違いしたからこその許可だ。結果が出なければ止められるのは当然だな。


「第三に、無理だと思ったら即やめる。自分で限界をねじ曲げないことだ。これはリゼの目から厳しく見定めさせる」


 これも認めるしかない。

 クララから報告がいっていたのかもしれないな。心配されながら体を動かしていたのは事実だ。


「これらを条件とする。良いな、リーネ?」

「お認めいただき、感謝いたします。決して条件を破らないことをお約束します」


 素直に頭を下げる。

 これは親子を超えた、家中としての契約に近い。

 頭を上げると、アルベルトが真っ直ぐに俺を見つめていた。


「リーネ。私たちは、お前を止めたいわけではない」


 エレオノーラの声が重なる。


「あなたが前を向いてくれるのは、本当に嬉しい。でも、怖さもあるのよ……。だけど、今まで過保護に過ぎた……というのも理解しているわ」


 その声には震えが混じっている。

 良かれと思ってやったことが空回りしていた。その反省を娘に伝えるのは、親として勇気がいることだろう。


 ――本物のリーネならどう答える?


 一瞬そんなことを思うが、愚問だ。

 この変化は俺が作り出したもので、リーネはこの世界には存在しない。

 なら、俺の言葉で両親に伝えるべきだ。例えそれが、嘘に塗れた事実であっても。


「お母様……過ぎたことは良いのです。見るべきは今であり、未来なのですから。お父様。許可してくださり感謝します。そして、約束を順守することを誓います」


 偽物だとしても……いや、偽物だからこそ言うべき言葉がある。

 本当の意味で『今』を変えるなら、リーネという『俺』をここで定義する。

 いつまでも病弱お嬢様ってのは、やり辛いからな。


「リーネ……」


 エレオノーラが涙ぐみ、手で両目を覆った。

 アルベルトはどこかスッキリとした表情になり――そして、苦笑した。


「これで話は終わりだな? だが、リーネのそのような言葉使いは嬉しくもあり悲しくもある。特別な理由がないのなら、いつもの話し方に戻してはくれないか?」


 おっと! クソ真面目に話し過ぎたか。とはいえ必要なことだったからしょうがない。

 色々と理屈は捏ねたが、結局のところ、俺のロールは決まっている。

 今後も可愛いお嬢様を続けることに変わりはない。そこだけは自覚が必要だ。


「分かった。何もない時はそうする。これでいいんでしょ? お父様! お母様!」


 二人の顔が一気に崩れ、温かい笑みが広がる。

 ホームドラマのような団欒。

 家族のわだかまりが解けて、大変結構!


「それでは鍛錬についてはリゼに一任する。後は任せたぞ」




 場所は移って、俺の自室。

 ここからはリゼとのマンツーマン指導、実技研修の時間だ。


「まずは身体強化の基礎と体の硬さを解すところから始めます。乗馬はその後、いいですね?」

「分かりました」


 遠回りだが仕方ない。

 それに『身体強化』は、今後何をするにも必須の技術になるだろうからな。


「最初に知っておいて貰いたいことがあります。『身体強化』は力を増やす魔法ではありません」

「ではどのような魔法なのでしょうか?」


 本にはパワーアップ系っぽく書かれていたが、どうやら違うらしい。


「人によって違いがあるのですが、私の感じ方で話します。言うなれば正しく通す魔法……とでも言いましょうか。魔力については知覚できていますか?」

「はい。体の中に何とも言い難い力のような何か……それがあることは理解しています」

「それなら話が早い。その力を全身に張り巡らせ、循環させることで発動できます」


 リゼが右手をすっと前に突き出した。


「これが『身体強化』です。私の腕を横から押してみて下さい」

「はい。……これは」


 ビクともしない。

 いや、動かすことはできるが、重い。

 女の細腕なのに、丸太のような重量感がある。


「骨の形、筋の流れ、呼吸のリズム。そこに魔力を合わせることで、重さと硬さを作ることができる。そのまま押し続けてください。今、魔力を抜きます」

「あっ、軽くなった」


 ふっ、と抵抗が消えた。

 先ほどまでの重さが嘘のように、リゼの腕は簡単に動く。


「まずは腕だけでいいので、同じことをできるようになって貰います。それをだんだんと全身へと拡張するのです」


 なるほど、これが『身体強化』か。

 魔力の循環が重要ときた。確かに自己流でマスターするのは難しそうだ。


「午前は勉学、午後が鍛錬となれば夕食後に時間を作り、そこで訓練するのがいいでしょう。自由な時間がほぼ消え去ることになりますが、よろしいですか?」


 リゼが覚悟を問うてくるが、俺は内心で笑った。まるで問題なし!

 どうせこの世界にネットもゲームもない。だから自由時間なんて最低限で十分だ。

 それに、自分のスペックが上がり続ける魔法の訓練だろ? むしろレベル上げみたいで、こっちの方が娯楽と言える。


「大丈夫です。ご指導お願いします」

「よろしい。では始めましょう。まずは――」


 こうして、乗馬への道は『身体強化』習得という新たな課題へと接続された。

 遠回りこそ近道だ! ここはポジティブに考えるほうが建設的と言える。

 家族の絆が深まったのは、リーネとして生きていく上でも良いことだしね。

 こうなれば、是が非でも『身体強化』を習得してやる! お馬さんは、それまでお預けだ!

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