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リーネの冒険~異世界の女の子と入れ替わった俺のTS娘生活~  作者: RCAS


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8/20

乗馬と身体強化

 リゼが屋敷に乗り入れてきたあの日から、俺の思考はどうしてもそこへ吸い寄せられてしまう。

 剣の稽古中だというのに、集中力が散漫になってしまう。


 乾いた蹄の音。揺れる筋肉。圧倒的な生命力。

 恐らくは、この世界における最速の移動手段。あれを使いこなせるかどうかで、今後の行動範囲は桁違いに変わる。


 馬は移動のための動物だけではなく、一種のステータスにして騎士の証明! 最高級の財産として数えることもできる。

 そして馬と言えば騎兵! とある戦争映画を見てから、騎兵突撃のようなことをしたいとずっと思っていた。

 まさに男の浪漫の一つ! だが、この世界でなら、それが叶うかもしれない!

 

 もちろん簡単なことではない。この貧弱な体で乗馬をするのは、あまりにもリスクがあることは理解できる。

 だが、その背中に跨がりたいという衝動は、恐怖を遥かに上回っているのだ!

 俺は素振りの手を止め、呼吸を整えてから口を開いた。


「馬に乗ってみたいです」


 稽古終わりのタイミングを見計らい、リゼに切り出す。

 あくまで純粋な好奇心を装って。


「代官家の人間として、乗馬は必須技能です。しかし――」


 リゼは俺の体を頭から足先まで、まるで品定めするようにじっくりと眺めた。

 その目は冷徹だ。


「今のリーネ様では、あまりにも危険です」


 即座に却下された。まあ、そうだろうな。


「手順が必要です。もし落馬すればただでは済みません。下手な落ち方をすれば手足が折れます」


 折れる、か。

 自分の腕を見る。白くて細い、見るからに頼りのない腕だ。

 確かにそうだ。数百キロの質量制御に失敗してひどい落馬をしたならば、簡単にポキっといってしまうだろう。

 だが、それしきで引くほど淡白な感情じゃない。

 男の浪漫の前には、押し通らねばならないことだってあるのだ!


「では、どうすれば乗れるようになりますか?」


 諦めるという選択肢は提示せず、どうすれば可能かを問う。

 上目遣いで、少しだけ熱意を込めて。

 この教えを請う姿勢を見せられれば、教師役のリゼも無下にはできないはずだ。

 リゼは顎に手を当て、少し考え込んでから妥協案を出してきた。


「まずは相乗りで様子を見ましょう」


 よし、第一段階クリア。

 しばらくして、リゼが自分の馬の手綱を持って引いて来た。

 クララが後ろでハラハラしているが、リゼというプロが監督する以上、大事故の確率は低い。

 俺はリゼに抱えられるように相乗りし、馬上の人となった。


「訓練場を一周だけです。この子は賢いですが、絶対はありません。指示には従うこと、いいですね?」

「分かりました。お願いします、リゼ先生」


 殊勝に頷き、馬が歩き出す。その瞬間、視界が一変した。

 歩く程度の速さとはいえその臨場感は凄まじい。

 股下に伝わる筋肉の躍動。生き物特有の温かさと、不確定な揺れ。不安定だが、不思議と怖くはない。頬を撫でる風が心地いい。

 徒歩では味わえないスピードと、世界を見下ろす視界。

 

 ああ、これだ。

 今の俺に必要なのは、この感覚だ。

 脳髄が痺れるような高揚感。やはり、これは手に入れるべき力の一つだ。


 一周はあっという間に終わった。

 地面に降りると、足元がフワフワする。三半規管がまだ適応できていないらしい。

 夢から覚めたような喪失感がある。


「ありがとうございました。……すごく、楽しかったです」

「平常心は保てていたようですね。筋は悪くない、と評価しておきましょう」


 いつもは堅物のリゼから、珍しく合格点が出た。

 だが、俺の狙いは体験じゃなくて習得だ。

 この高揚感を、ただの思い出にしてたまるか。

 ここからが本題になる。


「できるなら、一人で乗ってみたいです」

「今のリーネ様は華奢なだけでなく、体に硬さがあります。それでは当然許可できません」


 正論だ。この貧弱もやしボディでは危険というのは、最初に話した通りだからな。

 さらには硬さと来たか……確かに言うほど柔軟じゃないんだよな、この体って。

 となると、体を柔らかくしつつも、さらに別のアプローチで解決するしかないだろう。

 元より考えていたことでもあるしな。


「それなら――魔法による補助があれば、どうでしょうか? 例えば『身体強化』のような」


 切り出した瞬間、リゼの眉がピクリと動いた。

 反応があるってことは、指導要領の中に入っていたのかもしれない。魔法のある世界で武器を使うなら、強化魔法との併用は基本のキのはずだからな。

 フィジカルの弱さを補い、長所を伸ばせる。『身体強化』とはかなり重要な魔法ということはすでに学んでいる。

 これさえ習得できれば乗馬だけでなく、あらゆる物理的危機に対する保険になる。

 もし乗馬が断られても、こっちを教えて貰えればおつりが来るってもんだ。


「……魔法強度にもよりますが、使えるのなら許可は出しやすくはなります。私も、ご両親も」


 やっぱりな、『身体強化』は重要だ。使えるだけであらゆるハードルを下げる、まさに魔法の手段だ。

 

「ですが、リーネ様は『身体強化』を使えるようには見えません。集中力は並外れていますが、それだけです」


 俺の精神操作を見抜いていたのか、凄いな……。

 そうであるなら、やはりリゼに師事するのは正解だろう。

 『身体強化』についても、詳しく教えてくれるはずだ。


「剣を扱うにも必要な魔法なのでしょう? 教えてください! お願いします!」


 俺は深々と頭を下げた。

 金を支払っているのだから――と、いうような考えを持ってはならない。ここは誠意をもって懇願する場面だ。

 この行動は予想外だったのか、リゼは黙り込み沈黙が周囲を支配する。


「まずは体を鍛えるのが先なのですが……では、こうしましょう。まずご両親に願い出てください」


 その言葉を聞いて顔を上げると、リゼは一瞬だけ困った顔を見せていた。

 しかし、すぐにいつも通りの無表情に戻り、話を続ける。


「許可が出たら『身体強化』を教えますし、体作りが終われば乗馬の訓練もします。勝手な判断で怪我人を増やすのは、私の仕事ではありませんから」


 条件としては、それが一番だろうな。

 流石に乗馬は剣の稽古の範疇を越えている。許可を取るのは当然だ。

 

「分かりました。許可をいただいてきます」

「よろしい」


 リゼは愛馬の首を優しく撫でる。

 その人と獣の信頼関係を目の当たりにして、俺の胸に熱いものがこみ上げる。

 言質は取ったぞ。あとは両親へのプレゼンを通すだけだ。




 訓練が終わっての休憩時間。

 自室に戻る際のドアノブに手を掛けたときに、ふと自分の手を見た。

 白い指先、爪の間に砂が入り込んでいる。

 馬の身体に触れた時の埃と、手綱の革の匂いが微かに残っている。


 深窓の令嬢にあるまじき汚れだが、それこそが今を脱却しようとする意思がもたらした成果でもある。

 ただ守られるだけのお人形ではないことを証明する。それが自由への第一歩だ。

 両親への説得がどうなるかは未知数だが……勝算はある。

 リゼも言っていたように代官家の人間なら、乗馬はできて当然だからな。むしろ習得できるならしてほしいと思うはずだ。


 夕食の時間。

 温かなスープの香りが漂う食堂という名の会議室で、俺はタイミングを見計らって口を開いた。

 ターゲットは父様と母様。この家の最高決定権者たちだ。


「お父様、お母様。お願いがあります」

「どうしたんだい、リーネ? 改まって」

「できることなら叶えてあげたいけど、なあに?」


 二人の視線が集まる。

 そこにあるのは純粋な愛情だ。今でこそマシになったが、最初は壊れ物を扱うような対応を俺にしていた。

 だからこそ、伝え方には細心の注意を払う。感情論ではなく、未来への投資として話せば許可も取りやすいはずだ。

 姿勢を正し、真剣な眼差しで――かつ、娘としての愛らしさを最大限に利用して告げた。


「乗馬を習得したいのです。つきましては、そのための基礎として――リゼ先生から『身体強化』の魔法を教わる許可をください」

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