表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リーネの冒険~異世界の女の子と入れ替わった俺のTS娘生活~  作者: RCAS


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/36

冒険者登録

 数日の準備期間を置いて、またグレインフォールにやってきた。

 厩で馬を預けるところまでは前と同じだが、今度は荷物が少なくない。

 軽装の防具や衣類、武具の手入れ道具。それに日用品もいくつか。


 自分のバッグを背負うと、以前来たときとはまるで印象が違う。

 旅人としては軽装だが、こうして肩に重みが乗るだけで気分が変わるものだ。


 街路を抜けると、あの匂いがした。

 酒と汗と油。それから獣脂の臭い。

 冒険者ギルドの前に立つと、先日と同じ看板が俺たちを見下ろしている。交差した剣と杖。これが剣と魔法を示すのなら、いよいよテンプレファンタジー世界の住民としての第一歩だ。


「今度は先頭で行くよ。言い出したのは私だからね、リゼ先生」

「いいでしょう。それと、訂正が一つ。先生はいりません、今からリーネお嬢様と私はある種対等な仲間でもあるのですから」


 リゼは俺の護衛だが、建前としては同じ冒険者仲間だ。

 ということで、呼び方を変えようという話になっていた。

 しかし――。


「リゼも私のことをお嬢様って言ってるじゃん。それも直さないとね」

「そうですね。では行きましょう、リーネ」


 お互いに笑みを浮かべ、扉に手をかける。

 そして入ったホールは、前に来たときと変わらない。安酒の匂い。煮込まれる粥の湯気。革が擦れる音。怒鳴り声と笑い声。

 これが、これから俺が馴染まなければならない現場の空気だ。

 中へ入れば、また視線が刺さる。だが、それは一瞬だった。


 ――なんだ。あの時のお嬢さん方か。


 俺たちを覚えていそうな冒険者は、目だけでそう言っているみたいにちらりと見て、すぐに自分の用事へ戻っていく。

 まだ見ているのは、俺たちを知らない連中だろう。


「……またあんたらかい。今度は何用だ?」


 カウンターに、先日世話になったボルクがいた。話をするにはちょうどいい。そう思って近づく。


「冒険者登録をしたいと思って来ました」

「……はあ。社会勉強じゃなかったんですかい? まさか冒険者登録とはなぁ」


 ボルクは一瞬、呆けたような顔をしたが、すぐに渋面へ戻った。

 そして真面目な顔になり、諭すように話し出す。


「まっ、物好きのお貴族様ってのは、稀にだがいる。とはいえ――だ」


 言葉を切り、挑戦的な表情で俺を見つめてくる。


「すぐへこたれて消えますがね」


 現実を知れば、そうなるだろう。少し調べた限り、泥臭い仕事が多い。

 だが、それは承知の上だ。


「へこたれるかどうか、それを試しに来たと言ったら?」


 大袈裟な言い方かもしれないが、俺は挑戦者としてここに来た。

 やりたいことも、調べたいこともある。けれど結局、それを支えるのは生活力だ。社会に出て生きていく力がなければ、どうにもならない。


「……まっ、良いでしょう」


 ボルクは鼻で笑った。だが、その笑いには少しだけ感心も混ざっている気がした。

 そしてカウンターの下から分厚い帳面を引っ張り出す。革表紙に、何度も開閉された皺が刻まれている。


「先に説明しときますがね。うちの登録料は銀貨二枚だ」


 銀貨二枚――数字を聞いた瞬間、頭の中で勝手に換算が始まる。

 領都の町人が半月は生きられる金額だったはずだ。


「結構取るんだね」

「冒険者ギルドの商売ってのは、命の値付けでもあるってことだわな」


 そう言ってボルクは肩を竦める。


「古びたお下がりの剣一本ぶら下げて、夢見てますって面の奴を減らすための足切りでもある。銀貨二枚も工面できねえなら、最初から剣なんざ握らん方がいい」


 そりゃそうか。

 この日のために準備した衣服の中には、ハードレザーの胸当てみたいな防具もある。

 革製とはいえ、それなりの値段がする。それと比べれば銀貨二枚は大した金じゃない。


「実に正論だね。ということで、はい――銀貨四枚。二人分」


 小袋から銀貨を四枚取り出し、机の上に置く。思えば、俺がこの世界で自分の意思で払うのは初めてだ。

 冒険者ギルドへの登録料が初めての支払いとは、実に面白い人生を歩んでいるじゃないか。

 まあ、リーネになった時点で、面白すぎる人生なんだが。


 ボルクは銀貨を一瞥し、指で弾いて確かめる。


「確かに受け取った。しかしな、これは嬢ちゃんの金じゃないでしょうや?」


 金の出所の話だ。俺が稼いだ金かどうか? という意味だろう。


「それはまあ……金稼ぎする機会なんて、そもそもないですから」

「元はと言えば社会勉強って話でしたな? なら、普通の奴らがどうやって冒険者になるのか、そのルートを知っておいたほうがいい」


 ボルクは銀貨を片付けながら、話を続ける。


「金がねえ連中向けの仕事ってのがある。荷下ろしだの掃除だの、解体場の片付けだの。そういう日雇いを回してやって、ちまちま貯めて登録する貧乏人も多い」

「冒険者登録をしていなくても、ギルドから仕事が出るってこと?」

「あくまでも雑務であって依頼じゃない。ギルドは街の口利き屋でもあるんでね」


 社会システムに組み込まれていると思ったが、想像以上に公共的な顔も持っているようだ。

 そして、この流れなら分かる。ボルクがどこへ話を持っていきたいのか。


「その仕事をしてみろってことかな? 現実を知りたいというのなら、本当の意味で現実的なルートを辿れってさ」

「理解が早くて実に結構。知らねえよりは知っておく価値はあるでしょうよ。ここは剣を自慢するだけの場所じゃない」


 別に最初から名声を上げたいわけでもない。むしろ願ったりかなったりだ。


「リゼはどう思う?」

「よろしいかと。何事も経験です。仮に騎士を目指すことになるとしても、雑務を覚える価値はあります」


 横にいるリゼに確認すれば、賛成のようだ。

 ――なら決まりだ。


「やらせてもらおうかな。でも、登録はまだ終わってないよね?」

「おっと! 俺としたことが話に夢中になってましたな。これに名前を書いてくだせぇ」


 渡されたペンで台帳に名前を書く。終えたらリゼにも回し、そちらも完了。


「……ふむ。では、これからあんたらはギルドの管理下に置かれることになる。今までのお客様対応はしないが、それでいいな?」


 多少は丁寧だった言葉遣いが、ぶっきらぼうなものへ変わる。

 だが、嫌な感じはしない。こういう親父だと分かっているなら、むしろこっちのほうが良いくらいだ。


「冒険者証を発行する前に、ちょっとした面談を行う。得物は何を使うか、そしてどんな技能を持っているかを聞いておかにゃならんからな」


 ということでボルクに案内され、ギルドの奥の部屋へ通された。

 場合によっては冒険者をまとめて集め、何かの仕事を回すことがあるらしい。そのときに情報が要る、ということだった。

 面談は何事もなく終わり、またホールのカウンターに戻って来る。


「これが冒険者証だ。無くすなよ」


 ボルクが小箱から薄い木札を二枚取り出す。

 片面に何かを意味する刻印があり、裏面には通し番号らしき数字が書いてある。


「再発行は銀貨一枚。高く感じると思うが、身分証としても使える便利な物をなくすような奴には、当然のペナルティってやつだな」

「気を付けるよ」


 冒険者証を受け取る。

 ただの木の板ではなく、油を付けて磨かれていた。

 これそのものに銀貨一枚の価値はない。だが、手の込んだものだと分かる。


「それで依頼に関してだが、それを決めるのは騎士様の役目という話だったな?」

「あまりにも危険な依頼は受けないというだけですが、概ねその通りです」

「そのあたりはこちらでも上手く調整するさ。代官家のお嬢さんを傷物にしたら何を言われるか分からんからな」


 政治的に面倒を背負いこみたくない、ということだろう。

 ボルクはそう言って、俺を見てくる。


「なら、ボルクさんが推奨する仕事から始めてみるよ。貧乏人が辿るコースってやつ」

「殊勝な心掛けだ。そうだな……なら、解体業務なんてどうだ? 今からでもできる仕事だぜ」


 ボルクがニヤリと笑う。

 ――お嬢ちゃんに務まるかな? そんな顔だ。


「言ってしまえば魔獣の解体さ。肉粥を前に食ったと思うが、それの材料だ。臭くてきつい仕事だが冒険者をやるには解体ってのは必須技能でもある。覚えておいて損はねえよ」


 前に食べた肉粥の匂いが、鼻の奥に蘇る。あの獣臭をまた嗅ぐのか……正直、勘弁してほしい。

 でも必要なのは分かる。ハンターになるなら剥ぎ取り技能は必須だからな!


「やりますよ。やり遂げて、私が本気ってのをボルクさんに認めさせてやります」

「威勢だけはいいようだ。だが、決まりだな」


 ボルクはカウンターを軽く叩いた。


「今日は受付も暇だ。新人の顔見せにはちょうどいい。俺が直々に案内してやる」


 そう言ってカウンターから出てきたボルクは、通路を歩きだす。


「ついて来な。解体の作業場はこっちだ」


 ボルクの後を追って通路を進むと、奥からむっとした空気が流れてきた。脂と鉄、それに獣臭がきつい。

 思わず鼻を摘まむが、隣を歩くリゼは平然としている。騎士の仕事にも魔獣狩りがある。慣れているのだろう。


 薄暗い通路の突き当たりに、もう一枚の扉が見えた。

 ボルクが手をかけると木がきしんだ。

 その隙間から、濃い血の匂いが、さらに強く、はっきりと溢れてきた。


 ――これは、精神操作で活入れしないとだな。


 そんなことを考えながら、俺は扉を潜っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ