表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リーネの冒険~異世界の女の子と入れ替わった俺のTS娘生活~  作者: RCAS


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/15

精神操作でガンガンいくぜ!

 翌日の午後。

 新しい訓練が始まる。


「昨日言った通り、今日からは体の硬さを取るところから始めます」


 開口一番、リゼが木剣を手に宣言した。


「聞いていませんでしたけど、具体的には何を?」

「受け身です。落馬した時に死なないための、最低条件です」


 柔軟体操かと思いきや、もっと実践的なものだった。


「それに剣の稽古でもいずれ使います。乗馬を抜きにしてもちょうど良かったのかもしれません。構えてください」

「は、はい」


 リゼが木剣を上段に構えている。

 嫌な予感がするが、従うしかない。

 俺が剣を構えた瞬間――視界が反転した。


「うわっ――!?」


 鋭さというより、純粋な質量による一撃。

 ボールのように弾き飛ばされ、視界が砂で埋め尽くされる。

 次の瞬間、背中からドスンと地面に叩きつけられた。


「ぐ、ふっ……!」


 肺の空気が強制的に吐き出され、呼吸が止まる。

 目の前がチカチカする。痛いとかそういう次元じゃない。物理的な衝撃で、脳が揺れる。


「受け身を取れないとそうなります。理解できましたか?」


 頭上から降ってくる、絶対零度の冷徹な声。

 見上げれば、リゼが涼しい顔で見下ろしている。

 なるほど、思ったよりスパルタだ。だが、この程度の理不尽がなんだ!


 サラリーマン生活を舐めるなよ! 終わりのない会議、人格を否定してくる上司、逃げ場のないプレッシャー。

 それに比べれば、単純な身体的苦痛なんて清々しいもんだ! 精神的な重圧より軽いもんだぜ!

 砂を吐き出し、呼吸を整えて立ち上がる。横でクララが悲鳴を上げそうになっているが、無視だ無視!


「もう一度、お願いします!」


 反射的に受け身を取れるようになるための鍛錬だ。『集中』を使って上辺だけを繕ってはいけない。

 ――それならこれだ! 『不屈』!

 意思力を強化する精神操作魔法だ! やる気の出ない時の活入れ用だが、これをフル稼働させる。


「良い気迫です。体が覚えるまで繰り返しますよ」


 それからは、終わりのないサンドバッグの時間だった。

 打たれる。飛ぶ。転がる。そして視界が回る。

 肩から落ちて砂利の味を知り、背中で着地して内臓を揺らされ、腰から落ちて痺れが走る。

 そのたびにリゼの指導が飛ぶ。


「顎を引いて!」

「力まない! 衝撃に抗おうとするから痛いのです!」

「地面と喧嘩しないでください。流れに逆らわず受け流して」

「重心を制御してください!」


 口で言うのは簡単だが、この貧弱な体で実行するのは至難の業だ。

 何度も何度も砂に沈む。

 全身の関節が悲鳴を上げ、服は砂と汗で見る影もない。


 だが、数十回を超えたあたりで、ふと感覚が変わった。

 地面に叩きつけられる瞬間、無意識に体が丸まるようになったのだ。

 衝撃を一点で受け止めるのではなく、面で分散させて逃がす感覚。

 完全に防ぐことはできなくても、致命傷だけは避ける。そのコツを、体が覚え始めた。


 リゼも鬼じゃない。

 俺の上達に合わせて、ギリギリ受け身が取れる絶妙な加減で飛ばしてくれている。

 ここまでお膳立てされて、音を上げるわけにはいかないだろう。


「はぁ……はぁ……!」


 訓練が終わる頃には全身が砂に塗れていた。

 もう一歩も動けない。大の字に寝転がる。


「よろしい。最初よりは、ずっとマシです」


 見上げれば青空。

 逆光の中で、リゼが頷いているのが見える。


「体は貧弱ですが……やはり、リーネお嬢様には才能がある」

「才能、ですか?」

「気迫と意思力です。負けん気の強い男児でも、ここまでひたすらに食らいつくのは難しい」


 褒められたのはメンタル面か。

 ズルしているし、中身がオッサンだから素直に喜べないな。




 夕方。

 部屋に戻る頃には、体を動かすのも一苦労だった。

 余りの疲労で、死んだようにベッドに横たわっていると、クララが入ってきた。


「リーネお嬢様。ずいぶんと……頑張られたようで」


 感心半分、呆れ半分といった顔だ。

 少し前までは深窓の令嬢。それ今や汗まみれのスポ根少女だ。

 そのあまりの変化は誰でも驚くだろうさ。


「自分で言い出したことだから、やり遂げないとね」

「夕食の時間ですが……」


 飯か。腹は減っているが、ナイフとフォークを使う気力もない。

 それに、固形物を腹に入れると消化のために血液が胃に集まってしまう。

 頭をクリアにしておきたい夜の訓練にそれはまずい。


「できれば、お粥がいい。部屋に持ってきて」

「かしこまりました」


 クララが下がった後、俺は天井を見上げた。

 午前は勉学、午後は鍛錬、夜は魔法の訓練。ハードワークも良いところだが、不思議と充実感がある。

 自分でやると決めたことだ。それなら、なんとしてでもやり遂げないとな。




 粥を流し込み、身を清め、準備完了。

 ノックと共に、夜の部担当のリゼ先生が入室してきた。


「『身体強化』の訓練を始めます」

 

 昼はスパルタだが、夜は優しい指導となる。

 魔法の習得は気づきが大切であり、ゴリ押しができないからだ。

 

「昨日と同じです。ベッドの上で、楽な姿勢で座ってください。背筋だけは伸ばすこと」

「……はい、できました」

「では、目を閉じて手を組み、脱力。そして魔力の循環を意識してください」


 座禅のようなスタイル。

 内なるエネルギーを回す。気功に近いイメージか。


「循環……脱力……」


 いつもは自分の精神に放出している魔力を、体内に留めて巡らせる。

 血管を流れる血液のようにイメージするが――。


「止めてください」


 鋭い声で止められた。


「乱れています。筋肉が反応していますよ。むりやり肉体に魔力を流し込めば内側から傷つきます」


 今日もダメか。無意識に力が入っていたらしい。

 漫画の主人公なら一発成功なんだろうが、残念ながら俺にそこまでのセンスはなかった。

 まあ、俺は凡人だと理解しているし、まだ二日目だ。地道にやるさ。


 


 そこから、試行錯誤の日々が始まった。

 午前の勉強は楽勝。午後の受け身も、三日もすれば様になってきた。

 だが、魔法だけは一進一退だ。


 そして四日目の夜、事件は起きた。

 なかなか循環しないことに苛立ち、少し強めに魔力を押し込んでしまった時だ。


「いけない! 止めなさい!」


 リゼの制止より早く、腕の内部で何かが膨張するような感触――。


「く……っ、あ……!」


 腕をつったような痛みだが、それがワンランク上の激痛となっている。

 リゼが慌てて腕をさすっているが、脂汗が止まらない。

 ――くそっ! これが『身体強化』の代償か。


「今日のところは、ここまでです」


 強制終了。異議なしだ。

 リゼは厳しい顔で告げた。


「焦りが制御を乱しましたね。自分の内面を感じる内観ができなければ、習得は不可能です」


 内観、か。

 リゼが去った後、俺はベッドの中で考え込んだ。

 進捗が悪ければやめるという父との約束がある。今のままではそれに触れるかもしれない。

 どうする? 根性論は通用しないと分かった。なら、別のやり方で攻略するしかない。


 ――待てよ?

 『集中』を魔法の訓練に使えばどうなる?

 同じ魔力というリソースを使うから同時使用は無理だと思い込んでいたが、試す価値はある。

 固定観念に縛られていては打開できない。

 痛む腕をさすりながら、翌日の夜を待った。




 翌日、夜。

 リゼ監視の下、俺はいつものように座禅を組んだ。

 だが、今日はアプローチを変える。


「……」


 口の中で、音にならない声で呟く。


 ――『集中』。


 世界からノイズが消えた。代わりに、自分の心臓の音がドラムのように響き始める。

 肺が膨らむ音。肋骨のわずかな軋み。血流の音。全身の解像度が、一気に上がった。


 体の深部にある、言葉では形容できないこれが……魔力だ!

 それを脈動に合わせて流す。

 肩、肘、手首。回路図をなぞるかのように意識を滑らせていく。


「まさか、これほどとは……」


 リゼが何か驚いているが、今は雑音だ。

 腕は通った。しかし、全身への循環を阻害している何かがある。

 ……見つけた。詰まっているのはこれか?

 場所は、腰――いや、骨盤?

 

 ――なるほど、そういうことか。

 俺の心は男のままだ。しかし、無意識のうちに男という前提で体を認識していたのかもしれない。

 でもこの体は女だ。当然だが骨格が違うし、男にはない子宮などがある。

 

 精神の地図と、肉体の地形がズレているってことだ。

 その違和感が、無意識のブレーキとなって魔力の流れを堰き止めていたんだ。


 原因が分かれば、対処は簡単。俺という意識を書き換える。

 今の俺は女であり、子宮という臓器がある。ありのままに受け入れろ。

 カチリ、と何かがハマる感覚があった。瞬間、堰を切ったように魔力が全身を駆け巡った。


「ふぅ……」


 『集中』を解除すると、全身から心地よい脱力感が広がった。

 それでいて確固たる力のようなものを感じる。成功かな?

 でも、その感覚はすぐに霧散する。素の俺ではまだ女の体をイメージできないからだ。


「リゼ先生。これは長丁場になりそうです。でも原因は……先生?」


 返事がない。

 顔を上げると、リゼが目を見開いて固まっていた。


「……! 失礼。少し、驚いてしまって」

「驚く? 私が優秀すぎて?」

「……」


 冗談のつもりだったが、リゼの顔は真剣そのものだ。


「続けてください。今の感覚を全身に定着させるのです」


 どうやら、予想以上の成果が出たらしい。

 いいぞ、順調だ。使える手段はガンガン使っていこう。

 

 俺は再度『集中』を使い、自分の体を内観した。

 魔力の流れを制御することで、この肉体がどうなっているか、感覚で知ることもできるようだ。

 日々の食事と鍛錬の結果だろう。筋肉もしなやかになり、女性特有の柔らかさも育ち始めている。

 

 ……ふむ。ここにきて体が成長を始めた。

 苦行の対価としては悪くない。この体が完全に仕上がった時、どんな景色が見られるのか。

 まだやりたいことをやれていない。だがそれもあと少しと言ったところ。

 密かな楽しみが、また一つ増えたな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ