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美魔女のとっておき

閲覧ありがとうございます!!

これからもマイペース更新ですが気長に更新をお待ちください。

誰も言葉を発せずにいた。

鳥の鳴き声すら聞こえない中、魔女の言葉が空気を裂く。

「そうか、もう昔のこととなってしまったのか」

何かを懐かしく思うような声色で呟いた後、ふうとため息をついた。

視線をこちらに寄越し、倒れこむ俺と気を失ったままの少年を交互に見据える。

軽く笑ったあと、身体を魔鬼に向き直しこう言った。

「プレゼントだ、受け取れ……ヒール!」

魔女の持つ杖の宝石が、ちゃらちゃら音を立てて揺れながら淡い光を放つ。

その瞬間、脚に力が入るようになったのを感じた。

驚いて立ち上がると痛みすらどこにもなく、まるで今までの攻防が嘘になったようだった。

横たわる少年の顔の傷もなくなり、心地よさそうにすやすや寝ている。

俺は再び魔女の方をうかがう。

即効性、持続性、そして強力さ。

これら三つの要素が完璧にそろったヒールを扱うことは、サポートを専門とする伴侶のなかでも神の領域に達した者ですら難しいことだと、聞いたことがある。

ましては万能型の魔法使いがそれを習得するなど、夢のまた夢どころか、有り得ないことだとも聞いた。

俺はただ茫然と、目の前に居る”例外”を目で見ることしか出来なかった。

「ヒールは、魔力を治癒力に変換する呪文であると同時に、著しく魔力を消費することでもあるのだ」

魔女の言葉に、俺は気づかされる。

これほどに効果の強いヒールとなれば、消費する魔力は半端ないだろう。

耳がとんがっているエルフでもなければ、魔物でもなさそうである。

元々の固有魔力の多い種族ではない人間で、加えて年老いているとしたら、いくら凄い魔法使いだとしても体への負担はかなり大きいだろう。

そんなはずなのに、いまだ魔女は平然とそこに立っている。

顔色も変わっていなければ、汗の一つもかいていない。

「だが、私ぐらいになると自分以外の魔力すらも奪い取れるようになるのだよ。例えば……」

ドスン、と大きな重いものの倒れる音がした。

見ると、魔鬼が一匹、魂を抜かれたかのように地面に倒れていた。

そして、まもなく魔鬼がぼろぼろ崩れて消滅していった。

「……魔力を力の源とする、魔物とかな。」

ただ見ていることしか出来なかった。

幾度考えようと、何もわからなくなるばかりだった。

この魔女は何者だ。いったい何者なんだ。

俺は圧倒的な強者の圧に飲まれるような、畏怖の念さえ抱いていた。

グオオと、震え裏返った咆哮が魔鬼の喉奥から響く。

次に、俺に向かって一心不乱に駆け出した。

魔鬼の目の焦点は俺を捉えては震え、じっと杖を構える恐怖に怯えるようにも見えた。

「それで、見ていたんだが。お前は攻撃魔法が使えないんだったな」

魔女がふわりと空中に浮き、散歩を楽しむかのように優雅に魔鬼の方向へ飛んで向かった。

近づいてくる天敵に恐れをいなし、魔鬼の足が止まりかけたが、今度は全身を真っ赤にして汗を大雨のごとく噴き出し震える全身で俺を討とうと再度走り出した。

どうせこの魔女に殺されるのならば、せめて格下の俺だけでも殺す気なのだろう。

魔女と魔鬼の距離はどんどん近づいていき、丁度すれ違うというところで魔女が杖を横にして振りかぶり、二体の身体がちょうど重なるというところで空気を切るかのように杖を空振らせた。

その瞬間、二体はお互いに一歩ずつ離れた間隔で停止した。

ひどく目を疑う光景がそこにあった。

今、あの人は何をした?

空気を切ったのみで、攻撃魔法で刃を繰り出しているようにも見えなかったし、呪文さえ唱える様子はなかった。

ただ杖を魔鬼のごく近くで空振っただけ、それなら、それならばなぜ今魔鬼の首は切り落とされているのか?

重い首が地面に音を立てて落ちた。

魔女は振り返り、腰を抜かして震えあがる俺を一瞥し微笑みながら反応を楽しんでいるようだった。

「いいことを教えてやる、『バリアは意外とよく切れる。』ってな。」

そう言い放ち、俺の方へ何歩か歩いて近づき、杖の先端を見せつけた。

恐る恐る凝視すると、そこには確かに刃状の透明のバリアが生成されていることが分かった。

俺はまたもや思考が停止した。

バリアが切れる、バリアで攻撃が可能なんて、思いもしなかった。

それに俺はたった今、恐ろしい偶然が頭に浮かんだ。

魔力を相手から根こそぎ奪い取ることで、実質的な攻撃の役割を果たしたヒール。

鋭い刃のようにしてのようにして静かに相手の首を刈り取る、物理攻撃の役目を果たしたバリア。

「バリアなんかで攻撃ができるなど、思いもしなかったって顔してるな」

杖を自分の方へ戻し、にやりと口角を上げて俺の言葉を待っている。

まるで今俺の考えていることが分かり切っているかのように、なにか少しの期待もにじんだ表情をしている。

だが、俺の口は魚のように間抜けにパクパクするのみで、舌も回らぬので言葉を発したくても発せない。

聞きたいことがある、あなたは……あなたはもしかして

「そうだ、私も使えないのだ。攻撃魔法が」

雷に打たれたかのような衝撃を受けた。

魔女は続ける。

「だが、使えないなりに努力を重ねて、結構すごいところまできたとは自負している。そんでこの世界の人間の中で魔法が私より上手く使える人はたぶん居ない。」

まあ、魔物を含めたらまた別の話になってくるぞ。あいつらは、身体が魔力でできているのだから……などをぶつぶつ呟く魔女を横目に、そろそろ起きてもよさそうな少年の様子を伺う。

……もしかしてこいつ、寝たフリしてる?

その辺にあった木の棒で軽くつついてみると、びょーんと高く飛び上がって驚いたような声を上げた。

寝たフリではなかったみたいだ。

「おう、おはよう」

魔女が軽く目覚めの挨拶をする。

俺も声をかける。

「おはよう、身体は大丈夫か?痛いところはないか?」

むにゃむにゃいまだ夢見心地っぽくあいまいな返事をする少年にどことなくイラっとして、ちょっと軽くビンタをしてお目覚めをさせてやる。

パチンと音が鳴った。

「おお、意外と物理派なんだな」

呟く魔女の声をかき消すように、声を荒げる。

「なにすんの!もう、人生で最悪の目覚めだよ。」

不機嫌そうに眼を擦り、俺を見た後横の魔女を不思議そうにチラ見……したあとすぐに再度目線をばちっと魔女に戻した。

きれいな二度見だ。

驚きで言葉が出ないみたい。

それはそうだ。あんな失神するほどの攻撃を受けてから、宿屋にすら行ってないのに無傷でピンピンしてる。

ちょっと怖いまであるだろう。

しゃがみこんで少年の様子を見ていた魔女が立ち上がり、ほっと一息ついた。

「さて、ひと段落したようだし、私はこれで失礼したいところだが……ちょっとな、そこの魔法使いに類まれなる運命を感じたわけだ。そこでだ、明後日、早朝、ここに来てくれ。稽古をつけてやる、もちろんタダでな。」

思ってもみなかったことが叶おうとしている。

俺はもちろんこう答えた。

「は、はい。もちろんです、光栄です。」

魔女は満足げにうなずいた後、付け足すように一つ言い放った。

「あ、それと条件だが。必ず二人以上のパーティーを組んでから来てくれ。」

そう言ったきり、魔女はどこかへテレポートして行ってしまった。

残されたのはひ弱な魔法使いと、謎の盗賊少年。

心にちくりと不安が走った。

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