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無段のかるた選手、7年ぶりに大会にエントリーします

 大会当日、光輝(みつき)は会場である春日山高校に来ていた。ここは大阪府内の公立校ではトップクラスの進学校だ。偏差値低めの私立高校に通う光輝には無縁の高校だ。こんな機会でもなければ行く機会はない。

 そして、校内の会場である柔道場の場所を探し、校内をさまよう。歩き回った先に見つけた柔道場へと入ると、出場予定の他校、会場校である春日山の部員が集まっていた。見慣れない光輝の姿を見て、奇異な目を向ける者もいる。


『思ったよりもアウェーな雰囲気になりそうだな……』


 そして、光輝を見て驚いた人物がもう一人。


「「えっ?」」


 同時に言葉を発したのは結姫(ゆき)だ。


「ど、どうして、みーくんがここにいるの……?」


 光輝が言う前に結姫に言われてしまった。


「いや、これ出るから」


「だって、この前、断ったじゃないの!」


「あれ? 親父から聞いてない?」


「え? おじさま?」


(ゆき(ねえ)のこの様子だと、あのクソ親父言ってないみたいだな。あるいは花山のおばさんには言ったけど、おばさんが伝え忘れたか……)


 結姫の様子に光輝は思案する。


「親父がこの大会のグループリーグだっけ? 1位通過できたら、1万円分のYouTuneカードくれるっていうからさ」


「あー、なるほど。確かにみーくんなら、そっちの方が釣り餌としては効果的ね。さっすが親子ね、よくわかってるわ」


 結姫がジト目であきれたような口調で言う。


「正直、総文祭で岐阜に行くとか面倒だから、興味ないんだけど……1万円分とかガチャ3回ぐらい回せるし、余った千円分は適当に曲とかダウンロードして……」


「はぁ、とりあえず、エントリー済ましちゃいなさいな。エントリーできないと、そのYouTuneカード獲得の権利ももらえないんだから」


「おっ、そうだね」


 というわけで、結姫が促しつつもエントリー用紙が貼られてある受付のテーブルへと案内してくれる。その受付の席には結姫とたいして年は変わらないだろうか? 黒のリクルートスーツを着込んだ若めの女の人が座っていた。その女性が俺に気づくと、


「おはようございます」


 と、物腰柔らかな態度に加えて、澄んだ声で朝の挨拶の言葉を光輝に送った。


「あ、おはよう、ございます」


 光輝はそんな彼女の引き込まれそうになるほど柔和な感じの中にある凛としたものを感じ取って、緊張もあって身構えた格好で挨拶を返してしまう。

 光輝が隣にいる結姫に目配せで「誰?」と問いかけると、


「大会の配信とかで見たことないかな? 明星会のエースの桑野舞さんよ」


「え、マジで!? いつも和装の姿しか見てないから、全然気付かなかったです。あー、その、すいません!」


「いえいえ、気にしないで。改めまして、桑野です。あ、結姫ちゃんが連れてきたってことは翔国高校の四条君でいいのかしら?」


「あ、はい。翔国の四条です……」


 光輝が少し遠慮気味に言うと、舞は「四条君ね」と参加者名簿のところに書いて名前と校名にチェックを入れる。


(そうか、この子が会長の言ってた……なんか、おとなしそうな子だけど……)


 舞は「四条光輝」と書かれた名前と結姫としゃべってる光輝を交互に見比べて、何か思案しているようだった。


「本当は私が運営の手伝いする予定だったんだけど、この通り急に舞さん来ることになってね。私、暇になっちゃったから、みーくんの試合見れるの楽しみ~♪」


「いや、他のとこの試合見たりとか札の整理とかいろいろやることあるだろ? 仕事しろよ」


 その割には結姫はカチッとしたフォーマルな服装じゃなく、カジュアル風の私服といった感じだ。服装に関しては特に指定がなかったのかもしれないが。


(なんか、この二人のやりとり……姉と弟みたい)


 会長が見込んだ人物がどれほどのものかと見定めていた舞だったが、見せられたのは二人の仲睦まじいというよりも微笑ましい様子に思わず笑みを浮かべた。


「あっ、そういえば着替え! もうすぐ、始まるっていうのにのんびりしすぎちゃった」


 舞はハッと思い返して、光輝に着替えの場所の案内をするが、


「あ、ノープレブレムっす。俺、このままで大丈夫なんで」


 光輝は高校の制服のカッターシャツの首元を締めているネクタイを緩めながら言い、そのまま、その場でネクタイをはずす。


「荷物とかはあの辺に適当に置いてたらいいんですかね?」


「う、うん。どうぞ」


 と、舞に確認をしてから、結姫の分も置いてある場所の方へと荷物を置きに移動するのだった。


 ――結姫の視点――


 受付を終えたみーくんが淡々とした様子で荷物を置きに柔道場の壁際へと移動しにいった。私、花山結姫は自分の荷物を置いてる場所を指示した。その様子を舞さんとしばらく眺めてると、


「ねえ、本当に制服のままでいいの?」


 舞さんがそう聞いてきた。競技かるたは名人・クイーン戦など一部のタイトル戦は和装だが、通常の大会や練習はジャージで行うことが多い。

 こういった学生の大会だと、そのまま学校指定の体操服を着たり、ジャージの上にクラブのTシャツを着用するケースが多い。この日、参加している春日山、桜花女子はそういうスタイルだ。


「あー、みーくん、普段からこんな感じです。バイトとかで遅い日は帰ってから制服のままっていうことも珍しくないですね。普段もジーンズとかでとってますよ。なんか、ジャージはパジャマみたいで嫌いらしいです」


「なんか、いろいろ変わった子ね」


「アハハ、私もそう思います。でなきゃ、私なんかと6年も付き合ってませんって」


「付き合って? もしかして、あの子って結姫ちゃんの彼氏?」


 舞さんから何気なくそう聞かれて、私の顔がボッと赤くなった。


「い、いやいやいやいや! 私の練習を6年も付き合ってるって話です!!」


「あー、かるたの練習ね。なんだ仲よさそうだったから、付き合ってるのかと思っちゃった」


「そんなわけないじゃないですか! 仲いいって言っても、みーくんはその~、弟みたいなもんですよ! 小さい頃からの付き合いですし」


 何気なく聞いた舞さんだったけど、私のあたふたした様子を楽しそうに眺めていた。この人、黙ってれば基本的に凛とした大和撫子っぽい女の人であこがれるんだけど、意外と子どもっぽいところあるのよね。


(なんか、まんざらでもなさそうな様子だけど……? あれ? 制服のままで取るにしても、本当にそのままなのかしら? ここ、柔道畳以外、何もないけど……)


 この時には舞さんはすでに考えうる準備不足に気がついていたが、私はみーくんが大会で試合することと舞さんにみーくんとの関係を聞かれたことに浮かれて、すっかり失念していた。

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