俺は無段のかるた選手。7年ぶりに大会出るまであと1日
あれから、2週間後。
何もないゴールデンウィークが明けた5月の初めの金曜日。光輝はいつものようにお調子者Aとインテリ系メガネBの3人で下校していた。
「なあ、光輝。今度の日曜、カラオケいかねーか? シャイニングアイドルスター縛りのカラオケだよ。どうだ?」
シャイニングアイドルスターズ、通称・シャイドル。光輝らがハマってるアイドル育成型スマホゲーの略称だ。とても、魅力的なお誘いなのだが。
「あー、悪い。俺、今度の日曜、ちょっと野暮用があってな」
「はあ? お前、土曜はバイトあるけど、日曜は空いてるじゃないか。急にどうしたんだよ? 女か? 女でもできたのか!?」
「そんなんじゃねーよ。一応、俺の進路にも関わることかもしらねーし、少なくともお前の考えてるようなことじゃねーから」
お調子者Aが鬼気迫る表情で俺に押し寄せる。光輝はそれに少したじろぐ。こいつ、3年に上がって、どんどん必死になってきてるなー。
「忘れてるかもしれないが、僕らも3年だ。模試や何かあっても不思議じゃないだろう。僕も明日は英検2級の試験だ」
インテリ系メガネBがメガネをクイっと上げる。
「まあ、そういうことだ。一応、合格みたいなのすれば、学校に届け出みたいなの出さなきゃいけないみたいだから、その時にでも知られるだろうし、知りたかったら教えてやるよ」
「もしかして、光輝、推薦入試かなんかか?」
「いや、さすがにそれは早すぎるだろ…………それに繋がるようなものかもしれないとだけ、今は言っておくよ」
「へ? お前、なんかやってたっけ?」
「まあ、ちょっと…………ただ、どう説明すればいいのか…………」
別に隠してるわけじゃないが、これまでの経緯を説明すると、またここまでの話を言うことになると思うので、とにかく説明がめんどいなと光輝は2人に煮え切らない受けごたえをしてしまう。
「とにかく、今日もその準備やらで早く帰らなきゃならねーんだ。また、誘ってくれって言ってたのにマジでわりぃな」
「そ、そうか。なんか、忙しそうだな」
そう言って、光輝は二人と分かれて、帰りの電車に飛び乗り、帰路に就く。
帰宅してから、花山家の離れの町家の合鍵を使って、和室へと向かう。今日は練習の開催日じゃないので、誰も来ない。結姫は大学の講義が夕方まであるので、帰ってくるまでは光輝は払いの素振り、アーリーを使って、一人取りで練習をする。
そして、結姫が夜に帰ってくると、1試合だけ付き合ってくれた。この日は俺が3枚差で勝利した。まあ、なんとなく取り方を変えていたようには感じたので、勝った気にならないが。
大会前日の土曜はかささぎ橋かるた会の練習日。この日は子どもは希望者のみ、どちらかというと社会人や主婦など大人向けの日なので、この前よりも賑やかになる。とはいえ、光輝は変わらずアーリーを押したり、選手を指導したりして練習の時間を過ごした。
久しぶりに結姫以外の人と取るべきかと思ったけど、この日に来る人たちはこの貴重な週末を使って、この日、この場所でしか練習できない人たちだ。それを自分のために使うのはなんか違うなと思ったのだ。もしかしたら、光輝や相手にとっても貴重な機会かもしれないが、大会前だからこそ、光輝はいつも通りに過ごしたかった。
結局、この練習後の夜にいつも通り結姫と一試合取っただけだった。この日は1枚差で運命戦負け。相変わらず枚数差以上の実力差を感じてしまうのだが、光輝自身、この一週間は納得の取りができているという実感を得たまま、総文祭・大阪府代表チーム選抜選手選考大会の当日を迎えた。




