光輝のA級デビュー高校選手権個人戦⑥ 光輝の鮮烈A級デビュー!
一方、試合会場。
試合が始まり、光輝と里華子の対決は若林の懸念通り里華子の低い手の素早い守りがるたに苦しめられる。序盤は里華子がリードで試合を進める。だが、何枚か取られても光輝は冷静だった。
(上手い守りだ。押さえ手でもあれだけ速く取れるもんなんだな…………)
低い手で囲うように手を出す守りがるたに面食らった光輝。しかし、互いの場の出札や手の状況は見えていた。
(だが、しかし…………)
「たごのうらに~」
里華子の右手が低めに出札を覆うように出る。そして、決まり字まで読まれたところで手を降ろす。
シュパッ!!
その刹那、その出札を覆っている里華子の右手の指と指の隙間を光輝が右手の人差し指と中指を上手くねじ込ませて出札を抜きさった。
(なっ!? どこから手を入れまして!?)
里華子は鮮やかに抜かれて、目を疑った。
仮に早く手を出されたとしてもあの角度なら、覆っている手が相手の手に押されて自分の取りになるはずだったからだ。ところが光輝はどこにそんなスペースがあったのかとばかりに里華子が覆っていたわずかな隙間を搔い潜って抜き取った。
(いくら、早く手で囲って、素早く抑えても決まり字になるまでは手は浮いたまま。それに押さえ手じゃ手が下りるタイムラグがある。払いか突きなら、取りのスピードを落とさずに出札へと向かっていける……!)
もう、光輝は見切ったとばかりに里華子が覆う手に惑わされることなく、攻めの意識100%で取りに行く。
怪我の功名か、ここ2週間ほど結姫相手に強引に取っていたかるたが役に立っていた。また、守りがるたの里華子にとっては条件反射で反応する光輝陣の短い札に手が届かない。
(右手一つで囲える範囲は限られてる。その穴さえ見つければ、無理に攻めにいく必要もない。それに、相手に攻める気がないのなら、守る必要もないな!)
囲い手の穴を突き、取りを重ねる光輝。
里華子は変わらず手を覆って取りに行くが、上段の札を触ってしまうお手付きなどを犯して、差をじわじわと広められる。すると、里華子の覆う手が浮き出して、守るべき札のガードもゆるくなってきた。こうなると、光輝の独壇場だった。
しばらくして、浦安の間から札の束を持った光輝が出てきた。その姿を見て、結姫はほっとした様子を見せるものの、ふふんと隣にいる若林に勝ち誇ったような顔を見せる。
「翔国高校の四条で13枚差です」
受付にいる若林に勝敗の結果と枚数差を申告する光輝。
「おつかれさま。思ったより快勝だったわね」
「たまにゆき姉が手加減してくれる時に慣れてるからな」
「えー、手加減じゃないよー」
種明かしをすると、結姫がビハインド時の練習として、自陣右側に札を集めて囲い手を駆使して守りモードに入る。その時の囲い手の鉄壁さは舞と同等である。そんな囲い手を破ったり、囲われる前に自分の手を入れるといった取り方も光輝は体得しているのである。
このビハインド時の練習は他にもベテラン選手並の浮き札を大量に出すといったものがある。ちなみに光輝は上段の札は結姫が上手く素早く守るので、浮き札パターンの方を苦手としている。
「わたくしがザコでしたわ…………」
遅れて、里華子が白目の放心状態で浦安の間から取り巻きたちに抱えられて出てきた。
「…………」
そして、光輝は自分よりも先に終えた勝者のカードに目をやる。
東京文化大付・目黒さやか 20枚差〇
一同、さすがとしか言いようがないと笑うしかなかった。さらにもう一つ、目をやると、
桜光女学園・一色千里 15枚差〇
ここもさすがの結果だった。光輝が対戦カードの表から目を離した先に見えていたのは一色千里の姿。まだ、試合中のため、さすがの彼女もだんまりしているが、不敵に笑いつつ、目はこう言っていた。
「そうこなくっちゃ!」
目線で問いかける千里に光輝も少し笑みを作って目で返事をした。
続いて、3回戦(ベスト16)は目黒クイーンが東浦和高校(埼玉)の川田達也に食らいつかれたものの最後は12枚差と危なげなく下すと、一色千里は西大寺学院(奈良)の小林一樹相手に手こずるものの6枚差で勝利。二人は準々決勝を前にして小休止といった感じだ。そして、四条光輝は越前南高校(福井)の川原義之相手に16枚差と圧倒して勝利した。
「すごいね、みーくん。川原君相手に束勝ちなんて」
実はこの川原という選手。福井仕込みの強烈な攻めがるたが武器で過去のA級大会では準優勝の実績もあり、昨年の名人位西日本予選でも入賞しており、次第の名人候補と言ってもいい位置づけだ。
「いや、いきなりお手から始まってさー。感じでは負けてるんだけど、なんか、その後、10連取ぐらいしたんだっけ? その後も相手、お手してくれてさ。いつの間にか勝ってたよ」
あっけらかんと言う光輝に隣で聞いてた組み合わせ表のあるテーブルで受付をする若林は唖然としたような表情となり、
「いや、結姫ちゃんから話には聞いてたけど、本当に強いのね、四条君って」
「いや、そんなたいしたもんじゃないですよ。今回も相手のお手に助けられたようなもんですし……」
「よく言うわよ。私なんて、結姫ちゃんに束負けしかしたことないのに」
「えー、そうでしたっけ?」
「この嫌味な謙遜は姉ゆずりってことですかー」
若林が少しいじるような口調で言う。結姫と光輝は互いに「えー、そんなことないですよー」と苦笑し、若林は「冗談よ」と笑って誤魔化す。
8強入りの顔ぶれがそろったことで、周囲も「翔国の四条って誰?」みたいなことを言う人が増えていく。
そんなやりとりを遠くから静かに無表情で眺める人物がいた。
「…………あの人、わたしよりも札の鼓動を感じられましたのね」
目黒クイーンがボソッとつぶやいた。
「さやかさん、どうかしたのですか?」
その目黒クイーンの反応に問いかける男子が一人。誰も寄せ付けないオーラを放っている目黒クイーンに近い男子。彼氏や同級生というよりは昔ながらの関係といった感じだ。自分の試合以外で少しでも他に関心を寄せることが珍しいようである。
「なにか気になることでも?」
「ううん、なんでもないですの。行きましょう、石崎。次の試合です」
「はい、さやかさん。少しでもこの大会を楽しみましょう。高校生の間にしか出られませんから」
「でも、普段の公認大会となんら変わりませんの」
この石崎という男子は目黒クイーンのことは良く知っているが、特別親しい、といった関係ではないようである。周囲が腫れ物を触るような感覚ではないが、どこかよそよそしいのは変わらない。ただ、彼もこの大会に出場しているA級選手である。




