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俺は無段のかるた選手だったが、何年もクイーン候補の幼なじみとの練習に付き合ってたら、いつの間にか有段者相手に無双するどころか名人級の選手になっていた  作者: かるたー
俺は無段のかるた選手。初出場した高校選手権で無双して、無敵の現役女子高生クイーンにも勝利してしまう
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光輝のA級デビュー高校選手権個人戦④ 一色千里という女の子

 嵐のような千里とのやりとりが終わると、それこそ嵐が過ぎ去った後のように静かな時が流れて、セミの声が鳴り響く。


「…………みぃ~くぅぅぅん」


 静寂とセミの鳴き声のコントラストしかない空間でいきなり呪詛のようなおどろおどろしい声が聞こえた。それに驚いたのかジジジジィ!!とセミが大げさに鳴きながら飛んでいく。光輝(みつき)は背筋が凍った。

 ただ、冷静に振り返ると茂みに隠れていた声の主はすぐわかった。


「ゆ、ゆき(ねえ)か…………な、なにしてんの?」


「なかなか戻ってこないから、熱中症で倒れてるんじゃないかと心配して見に来たんだけど……」


 なかなか戻ってこないといっても、実はあれから10分も経ってない。


「一色さんとこんな薄暗い場所で逢瀬を楽しんでたとはね~? へ~? ふーん?」


 結姫(ゆき)は刺々しく光輝を問い詰め、それに光輝は苦笑するが、そこで光輝はハッと気づく。


「ゆき姉、千里知ってんのか?」


「ん? そりゃ知ってるわよー。ことおいかるた会の一色千里五段でしょ。2年前に女流選手権優勝してるし、A級入賞経験もけっこうあるんだから、みーくんこそ名前ぐらいは聞いたことない?」


「いや、全然。でも、どっかで見たことあるなーとは思ったんだよな。ということはどこかの大会の配信で見たのかな?」


「タイトル戦にもよく出場するからね。他の公認大会にはあんまり出ないんだけど、なぜか、あの子、大阪大会には毎年、出場するのよねー。地元に近い中国地区の大会にはあんまり出ないのにね」


「なんじゃそりゃ」


「一言で言えば変わり者ね」


「俺も人のことは言えないと思うが、それはなんとなくわかる。しかし、聞けばゆき姉や舞さんみたいな超A級選手じゃないか。なんで、そんなやつがこんな俺にも気さくに話しかけてきたんだろうか? もともと、人懐っこい性格なんだろうけど……」


「え? 彼女、むしろ、気難しいって評判よ」


「は?」


「クイーンの目黒さんほどじゃないけど、タイトル戦に出場してもいい意味では無欲で、悪い意味で言えば無関心、必要以上に人と関わらない感じ。私が知ってる一色さんって自分以外には興味がないって感じかな」


「そ、そうなのか?」


 少なくとも先ほどの光輝への反応を見る限り、誰とでも隔たりなく仲良くしそうな雰囲気で、そんな人物とは思えないと光輝は思うのだった。


「大阪大会やタイトル戦に出る時は同会の選手が少ないっていうのもあるんだろうけど、あんなに楽しそうにしゃべる姿はちょっと珍しいんじゃないかな……」


「そんな人に試合で当たるといいねって言われたんだが、俺は前世で何かをしたのかねー」


「みーくんと当たりたいって…………もしかして、小学生の時にみーくんとやったことあるとか?」


「あっ……」


 光輝は当時はあまりにも圧倒的過ぎて、相手のことには無関心だった。ライバルといえるような存在が同年代にいなかったからだ。

 当時の光輝にとっては母に喜んでもらえるような結果を残すことと、結姫に勝つことを目標としていたため、言い方は悪いが同世代は眼中になかった。その中の一人に千里がいた可能性があると二人は気づいた。


「でも、今となっては一色さんの方が実績は上だけどね」


「そりゃ、そうだろ。なんなら、かるたの強さも断然上だろうに」


「ねえ、みーくん知ってる? 今日、出てる目黒さんってクイーンになってからはもちろん、ここ2年間ぐらいは公認大会での負けがないってこと」


「あー、なんか聞いたことあるな。今、30連勝ぐらいしてるんだっけ?」


「最後に負けたのが彼女が中学2年の時の2年前の山口大会なんだけど、その時に負けた相手が一色さんなのよ」


「え?」


「目黒さんはそれを最後に公認大会では負けてないってことなの」


 とんでもない相手にマークをされたと光輝は戦慄するのだった。


 ***


 一色千里は勧学館へと戻り、浦安の間や選手控室のある二階へと上がった。


「ウフフ。四条くんと話せちゃった~♪」


 普段は気難しいと評判の彼女のルンルン気分で軽快なステップで階段を上る姿に役員の大学生や大人たちは皆一同、唖然としていた。

 二階ではひと際、注目を集める存在が浦安の間から試合で使われた札を持って現れた。黒のジャージにトップスには黒のレースやフリルのついたブラウスとやや地雷気味の漆黒の衣装を纏ったクイーン・目黒さやか。

 A級同士の対決にも関わらず、27枚差と圧倒的どころではない支配的な大差をつけて順当に1回戦を突破したようだ。


「退屈ですわね…………今日のお相手も少し差がつけば、あきらめたように手が止まるんですもの」


 しかし、大差の勝利に浮かれることもなく、慢心することなく、ただ、そうつぶやく。無表情で相変わらず何を考えてるのかわからない。興味がないのか、そもそも感情の起伏が少ないのか。

 彼女はクイーンになってもそんな感じで協会の人たちも扱いに困っているようだ。良くも悪くもいつもと変わらない佇まいで次の試合に備えるといったところだろう。


「高校生も大学生も大人も変わりませんのね」


 感情のこもってない言葉には少し寂しさを纏っているようにも見えた。

 そして、無表情の目黒クイーンが階段を下ろうとしたところで、軽快な足取りで階段を上がっていくハイテンションな千里という対照的な二人のA級の実力者がすれ違った。だが、いずれはクイーン戦でも顔を合わすであろう邂逅にもお互い意に介さずで終わった。

 しかし、基本的にお互い他人に無関心のように見えて、目黒クイーンの方は違った。すれ違った千里を見て、ゆっくりと振り返り、


「あの人、わたしの音を乱す人…………」


 そう、ボソッとつぶやいた。千里がご機嫌な様子に戸惑う周囲をよそに目黒クイーンが少しでも他人に言及することも珍しい。そんなレアな光景に勧学館は異様な空気となり、静かにざわついていた。

 その朝一番の大差で敗れた選手だろうか、放心状態で現れ、同校の部員が「あれは相手が悪いって」や「仕方ないよ……」と同情するしかないといった光景が繰り広げられた。

 そんな周囲の喧騒をよそにワルツを踊るかのような軽快なステップを踏んで1回戦の組み合わせ表を眺める千里。


「うーん、まだまだかかりそうかな~」


 それだけ言って、組み合わせ表のある場から離れた。


「早く四条くんと当たりたいな~! ラ~ラララ、ラ~♪」


 千里は7年ぶりとなる光輝との対戦をこの近江の舞台で。それだけしか興味がなかった。なにせ、そのためにかるたを続けてきたのだから。

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