光輝のA級デビュー高校選手権個人戦② 朝のエントリーと開会式で見た絶対的女王
名人・クイーン戦でもおなじみ近江神宮の勧学館に到着し、受付を済ませる。その間に結姫は運営を手伝っている大学かるた界の知り合いとかに声をかけられたりしている。
「結姫は今日、なんで来てるの?」
「聞いてよー! 私の弟くんが今日、A級デビューするのー! だから、心配で行かなきゃねって!」
結姫は「きゃー!」と頬を両手で抑えながら、普段よりもテンション高めの声でそんなことを言う。
光輝からしてみると普通なのだが、結姫は基本、大和撫子系だけど、天然なキャラで通ってるようなので、こんなミーハーな感じの態度で接する結姫を見る大学の関係者は意外なようだ。
光輝は受付をしている最中、なにやら、ゆき姉の周りが騒がしいと思いながら、受付を済ました。更衣室などは以前と変わらず、浴室の脱衣所、荷物などは中広間に置くところなどはあまり変わりはないようだ。
参加人数がとてつもなく多いので、別会場になる選手は都度、荷物や着替えなどを持っていくという流れのようだが、光輝はそのまま勧学館で試合なので、少し汗で濡れたタンクトップから、代えのシャツに着替えて、その上から光輝のかるた着である白のカッターシャツを羽織って開会式に参加した。
長々とお偉いさん方の話を聞かされるだろう中、開会式の部屋である下の朝日の間はなにか異様な空気となっていた。前日には団体戦がやっていたこともあり、例年ならその興奮冷めやらぬといった感じなのだそうだが、今年は違う。その原因たるものが全日本高等学校かるた連盟の会長の挨拶の最後の方に紹介された。
「ええ、本来であれば、ここから未来の名人・クイーンが誕生することを願ってという言葉を贈るところでございますが、なんと、本日は今年1月に行われたクイーン戦において、最年少タイでクイーンになられた目黒さやかクイーンが参加されています!」
会長の言葉とともにゆっくりと立ち上がったのは黒のTシャツに黒のジャージ、ややウェーブのかかったセミロングの黒髪、夏なのに雪のように肌が白い人形のような女子高生。
軽く会釈をして、会場から拍手が巻き起こったが、基本的に無表情で意に介する様子もなく、無表情でただ段取り通りに応えたという印象だった。そんな仕草も人形らしい感じだった。もちろん、光輝も名人・クイーン戦の配信で目黒クイーンの取りは少しは見たことがある。
(あれが目黒クイーンか……実物で見ると、意外と小柄なんだな。和装じゃないっていうのもあるんだろうけど)
身長は150cmあるかどうかといったところかと見積もる光輝。ほとんどの関心は目黒クイーンに視線が向けられたが、参加するA級選手にとっては楽しみよりも不安が多い。
なにせ、今年のクイーン戦では前クイーンを大差で破り、最年少タイのクイーンになったのだ。そもそも、この2年ほど、公認大会での黒星がない。当たれば公開処刑待ったなしというところだろう。
(クイーンになってからは公認大会への出場がほとんどなかった目黒さんが高校生だけの大会に参加って、どういう風の吹き回しかしら?)
光輝への視線を外さない結姫も目黒クイーンの存在には一目置かざるを得ない。なにせ、クイーンを目指すのならば避けては通れない相手だからだ。だが、すぐに光輝の方へ向き直すが、それは応援する保護者のような眼差しではなく、心配をする親のような視線だった。
(みーくん、目黒さんと当たって、自信なくさなければいいけど…………今の私はもちろん、舞さんだって、まともにやり合って勝つのは難しいのだから……)
特に光輝はこの2週間ほどはスランプに喘いでいる。そんな状況で圧倒的な強さを誇る目黒クイーンに当たって、コテンパンにやられてしまえば、再起不能になりかねない。結姫はとにかく、目黒クイーンに当たらないことを祈るのみだった。
(うーん、四条くんはどこかな? 参加者名簿にはあったから、ここにいるはずなんだけどなー)
目黒クイーンへの注目など、どこ吹く風という感じでもとから関心もない者もいたり、そもそもB級以下は大会のシステム上は相手をすることはできないので天井人と捉えるか高みの見物と決め込んでいた。




