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俺は無段のかるた選手だったが、何年もクイーン候補の幼なじみとの練習に付き合ってたら、いつの間にか有段者相手に無双するどころか名人級の選手になっていた  作者: かるたー
俺は無段のかるた選手。初出場した高校選手権で無双して、無敵の現役女子高生クイーンにも勝利してしまう
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高校選手権個人戦までの練習の日々(下)

 ただ、光輝(みつき)は大会に本格的に参加することになって、数をこなす練習もしたいというのも本音だ。とはいえ、練習ペースを変えたくもない。

 そこで結姫(ゆき)から提案されたのが、大阪明星会の日曜練習だ。朝の10時から夕方まで行う。4試合ぐらいは行うためまとまった試合数をこなせる。

 というわけで、7月の中旬の日曜。高校選手権個人戦の開催前、結姫にとっても8月に行われる大学選手権が控えていることもあり、このタイミングでの日曜練習は好都合だったようだ。


「じゃあ、今日は舞ちゃんとやってもらおうか」


 山上会長のしゃがれた声とともに差し向けられた刺客は大阪明星会のエース・桑野舞。


「よろしくお願いします」


「よろしくね」


 一応、同じかるた会であるが、ゲスト扱いの光輝と結姫は舞とそれぞれ2試合ずつ試合が組まれた。

 結果はこのように。

 7月某日 大阪明星会日曜練習

 一試合目 四条光輝×桑野舞(A級) ●14枚

 二試合目 四条光輝×城野由子(B級) 〇15枚

 三試合目 四条光輝×桑野舞(A級) ●9枚

 四試合目 四条光輝×松山健司(A級) 〇6枚


 この前のお返しとばかりにコテンパンにやられた光輝。2試合目は束負けを阻止するだけで精一杯だった。山上会長夫妻が見てる前での試合で緊張感が桁違い。さらに舞の無言の重圧までかかるのだから、一試合目は自分の取りにならなかった。

 ただ、四試合目の松山とのA級対決は最終的には6枚差とそれなりに納得のいく取りができたと手ごたえを得た。また、B級相手なら格の違いを見せつけている。少なくとも周囲はそう感じているようだ。

 四試合目の隣でやっている結姫と舞の試合を光輝は眺める。試合は舞が残り1枚、結姫が2枚と競った試合展開。舞も緊張感を持った凛とした佇まいだが、結姫もあどけなさの中に凛とした空気を纏っている。


(ゆき(ねえ)、舞さんと取ってる時、これだけ気合い入れてるんだな……)


 それは普段、かささぎ橋や花山邸で取ってる時の穏やかで自然体な姿とはまったく違った。

 舞と対戦した時に感じた威圧感のようなものを結姫も纏っているのだ。やはり、そこはA級トップクラスの選手であることを思い知らされる。


(俺と取ってる時は…………やっぱり、まだ余裕があるな)


「わびぬれば~」


 千代先生が読んだ歌を舞は自陣右下段に残していた「わび」を音もなくスパっと鮮やかに振り払った。結姫も懸命に払いにいくが、自陣と相手陣、リーチの差か一歩、届かず。舞が2枚差で結姫を下した。

 勝負がついたので舞と結姫が互いに礼をして試合が終わる。少しゆっくり目に礼から顔を上げた結姫の表情には少し無念さが感じ取れた。


(舞さんは西のクイーン候補と呼ばれてる……だけど、ゆき姉もクイーンを目指す立場の選手だ。俺にはこのレベルの勝負はまだできない……)


 自分の右手の手のひらを睨みつつ、光輝は毎日のように練習相手になってる自分がクイーンを目指す結姫にとって足枷になっていないだろうか。そんな気持ちに苛まれた。

 もちろん、A級での戦いが甘くないことはわかっているし、光輝は自分の現在地を理解できただけでもこの日曜練習に参加した甲斐があったと思うのだった。ましてや、今度の高校選手権の個人戦で簡単に勝てるとは思っていない。

 

 でも、このままでいいのだろうか?

 

 この日以降、光輝の日頃の練習に取り組む姿勢がまた一段と変わった。それを一番に感じ取ったのが本人よりも結姫だった。高校選手権の個人戦まで一週間を切った頃、夜に結姫が光輝の親父こと悟に電話を入れた。


「おじさま、私です。結姫です」


「おう、結姫ちゃんか。どうだ? 光輝はしっかりやってるかー?」


「はい、ちゃんとやってます。逆にちょっと入れ込みすぎてて、それが心配で…………」


 実は最近、結姫は光輝の取りに力強さがついた反面、強引な取りが目立つようになったのを気にかけていた。

 5月の総文祭の予選に参加してからというもの力強さが増した感があるのは重々、理解してたが、光輝らしくない雑な取りも目立つようになった。そのため、光輝の取りに迷いが生じているような状態だと結姫は感じ取っているようだ。


「もう、調整していかなきゃいけないのに取りが崩れてるような気がするんです…………」


「いや、いい傾向かもしれないぜ。それは」


「え?」


「これまで結姫ちゃんに付き合うように取ってたあいつがようやく自分の取りっていうのを確立し始めてるんだよ。今までは結姫ちゃんの相手を務めるためのかるただったからな」


 なるほど、と結姫は頷く。おそらく、きっかけはこの前の明星会の日曜練習での結姫と舞の試合を見た時だと結姫は気づく。普段、光輝と取る時とは違う結姫のかるたを見せてしまったからだ。


「これまでの話を聞いていた限りだと、取りのスタイルの土台はもともとあったはずだ。最近の変化がどう作用するか。この一週間で整理できるかどうかだな。もし、それができるようなら…………」


 悟がそう言って、一呼吸置く。


「あいつ、かなりのところまでいけるぞ」


「はぁ…………ところで、私はどう取ればいいですか?」


「これまでと変わらずに接してやってくれ。調整と本気、この二つを使い分けてるうちに遅かれ、早かれ、あいつなら気づくだろう。まあ、しばらくは悩むだろうが、大会になれば頭と体が細工して、勝つための最適な取りをするようになるから、当日は心配しなくていい」


「は、はい……」


 いまひとつ、要領を得ないまま結姫は空返事をする。


「じゃあ、結姫ちゃん、あいつ頼むわ。あ、このことはあいつには言うなよ。余計、混乱するだろうし、俺が言ったって知ったら、素直に聞かないだろ」


「そうですね。必要であれば、私がニュアンスを変えて伝えておきます」


「いつも、すまないなー」


「ありがとうございます。では、おやすみなさい」


「おう、おやすみー」


 そう言って、悟の方から電話を切った。


「…………今の私にできることってなんだろう? 私もみーくんのこと、よく知らないんだな」


 結姫は自分がA級になった頃に思いを馳せつつも、自分の現在地を思い出し自虐気味につぶやく。この一週間は迷いなく接しよう、と覚悟を決めた。勝負の結果はどうなるかわからないから。

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