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真のA級昇級へ、光輝の京都大会奮闘記④

 いい加減、組み合わせも決まったので、光輝(みつき)も試合会場へと赴き、決められた番号のところへ着席。

 準決勝の相手は大学生の男。けっこう上位入賞者の常連だそうだが、5試合目ということもあって、疲労の色が濃い。結姫(ゆき)の同学年ということもあり、結姫は攻めが豪快な選手というのは頭にあったが、この手の攻めがるたをいなすのは結姫がお得意としているところ。

 よって、そのかるたをずっと相手にし、参考にもしている光輝も荒れた攻めがるたは組みやすい相手だ。しかも、相手は疲労で攻め手の精彩を欠き、お手付きも多く、ここまではあった勢いもどこへやらという感じで、光輝は21枚差と悠々自適の一人旅で決勝進出を果たした。

 決勝の相手も大学生の男。結姫情報によると、彼もB級での実績は十分だという。だが、準々決勝以降、際立った強さを見せる光輝にとって、そんな実績は飾りでしかない。この日のB級は3組に分かれたが、残りの2組の決勝進出組の4人は隣で実際に目にして、このB級の組でよかったと感じていたのだった。


「いやー、四条君。結姫ちゃんのお墨付きだけあって、本当に強いわねー」


 大会も終盤に入り、撤収ムードに入った運営側だが、残すは決勝のみなので、受付の仕事が落ち着いた若林はギャラリーをする結姫に話しかける。


「でしょ? 本人は終始、自信なさげで自分の力にも半信半疑ですけど、私はけっこう、自信もって送り出しました。でも、ここまでとは……」


「え? 結姫ちゃんって、彼とほぼ毎日取ってるんでしょ? 強さやどんな取りするかはわかってるんじゃ……」


「うん。でも、普段はもっとおとなしいんです。今日はいつもの練習で取ってる時よりも力強くて、みーくん、こんなかるたも取れるんだって…………毎日、取ってる私でさえ、知らない顔を見せてる。なんか、たったの一日で凄みが増したっていうか……」


 光輝本人は相手のお手付きや払い残し、暗記の乱れなどに乗じて大差で勝利したためしっくりきていないが、結姫にはそれがこの会場内で場違いな取りを見せる光輝が発するプレッシャーに自滅していったものだと感じていた。

 実は今にもA級に上がりそうな勢いのあるB級は下手なA級選手よりも強いことがある。そのため、上位にいけばどこかで苦戦する試合は一つはあるだろうと思っていたが、そんなものは杞憂だった。

 リミッターをはずし、フルスロットルの光輝はすでにA級上位常連選手と同等の実力がある。それほどの実力、オーラを放っていた。


「いやー、私のような底辺A級は戦々恐々だわー」


「そっか、菜々ちゃんは高校からかるた始めたから、四条君のこと知らないのね」


 若林が自虐風味に言った後に年配の女性が続いて言う。


「あっ、妙子さん。お疲れ様です」


 振り返って、結姫が挨拶した彼女の名は山田妙子。京都嵐山会の会長を務めるベテラン選手でもある。ちなみに同会の人たちからは親しみを込めて妙子ちゃんと呼ばれている。


「妙子ちゃんは四条君、知ってるんですか? 私は過去の小学生大会で優勝してたなーぐらいしか知らないんですけど」


「今の高校生世代か花山さんぐらいで小学生の頃にかるたしてた人なら、みんな知ってると思うわ。小学生大会の時だって、今日みたいに段違いの強さで優勝しててね。なんで、この子、公認大会とか出てないんだろって思ったぐらい。聞けば、四条元名人の息子さんでサラブレッド。天才かるた少年って騒がれてたもんね~。あの時でも今のB級ぐらいの実力はあったんじゃないかなー? で、突然、名前も姿も消えてねぇ……」


 妙子はそう言って、結姫の方を向く。


「ま、まぁ……いろいろ、ありましたので。私もその頃は中学に上がって、面倒見る余裕もなかったので……」


 結姫はやや視線を落としながら、口にするしかなかった。光輝が競技から離れていた頃のことは二人とも一言では表せない過去がある。

 その結姫の様子を見て、妙子も深くは言及しなかった。


「でも、今日の彼のかるた見て、びっくりしたなー。あの頃の取りそのままに成長した感じ。ほんと、四条元名人の若い頃の取りにそっくり!」


(そっか。妙子さんはおじさまの現役時代の姿を知ってるんだ。私も現役時代や名人だった頃はかすかに覚えてるぐらいだもんなぁ……そういう比較できないとこ、私、まだまだ、みーくんの知らないこといっぱいあるな……)


 結姫は妙子の話を聞いて、そんなことを思うのだった。この大会で自分の知らない光輝がどんどん出ていることに複雑な感情を覚えた。

 しかし、今は決勝の大一番、光輝を応援する気持ちに変わりはない。まずはB級からと提案したのは結姫自身だが、彼女が最も光輝はA級とも遜色ない力があることは誰よりも認めているのだ。

 かくして、A級昇級をかけた決勝戦が始まった。お互いに相手陣を攻め合う出だしとなるが、序盤から光輝が抜け出す。

 やはり、1日に6試合戦い抜く長丁場でさらに連戦、連戦という中で迎えた決勝。疲労がないわけじゃない。さらにここまでの試合の暗記も頭に残っている。ただ、序盤はその負担を軽くするために試合を展開した光輝は決勝になっても取りが緩まない。相手が攻めきれないところを自陣で拾うと、


「ちはやぶる~」


 パシィーーーンッ!!


 相手陣の「ちは」を抜群の速さでその1枚だけを払って、矢のように飛んで行った。ここへきて、ギアを上げる光輝に相手の大学生も「なんて奴だ……」と思わず漏らし、見ているギャラリーもその洗練された取りに圧倒されるしかなかった。もはや、相手の公開処刑に近い決勝戦となっている。

 考えてみれば、自陣の札を精度の高い取りをする結姫と普段から対戦してる光輝。彼女と対等に戦おうとするなら、生ぬるい中途半端な攻めなわけがない。

 さらに結姫は攻めるべき場面では相手陣も的確に取ってくる。そんな攻めも凌げるようにならなければならない。A級五段である結姫相手に遠慮なく取るというのはそういうことである。


「「ありがとうございました」」


 試合は光輝が17枚差で勝利した。相手は意気消沈気味で周囲でやってる残り二つのB級がそれなりに競った試合になってることもあり、「その、相手が悪かったな……もう一度、準優勝すればA級だから、次、がんばれよ」と、大学のかるた会の仲間からは同情の目が向けられていた。

 

 その後、ささやかに表彰式と閉会式が行われた。またしても、結姫は光輝の撮影係になっていた。

 そして、帰りの電車の中。


「みーくんもA級かー。お姉ちゃん、一緒の大会に出れるの楽しみ~♪」


「しばらくは高校生だけの大会に出るけどな」


「…………」


 その事実に結姫がしょぼんとしてしまう。


「それが終わったら、一応、俺、受験生なんで、しばらくかるたはお休みかな」


「え? かささぎ橋の練習も来ないつもり?」


「いや、それは変わらずに行くけどさ。あれだよ、今日みたいな公認大会とかはお休みってだけだよ」


「なんだ、びっくりしたぁ」


「それに10月はゆき姉にとって大事な大会があるだろ?」


「うん、クイーン位挑戦者決定戦の西日本予選ね。今年はみーくんがA級になったことだし、実りある練習ができそうね」


「俺も今回、ゆき姉のおかげでこんな結果が残せた。だから、何か恩返しっていうか、返さなきゃなって思いが強くなってるんだよ」


「そう、楽しみにしてるね。でも、みーくん、それはうれしいけど、ちゃんと受験勉強もしなきゃダメよ~」


「わーってるって」


 結姫は大会を通じて、大きく成長し、自分の知らない姿を次々に見せる光輝に疎外感のようなものを覚えたが、やはり、こうして他愛無い会話をすればいつものみーくんだった。

 そして、光輝はずっと追いかけていた姉のような存在にようやく追いついた。本格的な競技からも外れていたから、その土俵にすら立てていなかったが、いろいろな人の力添えもあり、一気にゆき姉と同じ土俵に立てるようになった。

 かるたの一番の師であり、互いに高め合う戦友でもある。

 何年もの時を経て、二人は同じ景色を見れるようになった。

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