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真のA級昇級へ、光輝の京都大会奮闘記③

「準々決勝はじめまーす!」


 大会役員の人からそんな声が上がった。


「じゃあ、行ってくるぜ。相手によっては全開でいっていいんだろ?」


「うん。まあ、それでその後の試合で負けたら、まだ所詮そこまでの選手だったってことだしね」


「はは、違いねーや」


 光輝(みつき)の準々決勝の相手は福井の石田麻実さん。中学生か高校生ぐらいの女の子が相手だった。ここまで、1回戦18枚〇、2回戦13枚〇、3回戦21枚〇という戦績……

 

 やばくね?


(さて、B級でここまで大差で勝ってるというのはどうしたもんか……)


 とりあえず、相手の札の配列を見てみる。福井白雲会はかるた王国・福井でも名門中の名門だ。

 多数のA級上位の選手を輩出し、子どもはほぼ全員がかるたに触れたことがあるほど、盛んな地域。その源流は前会長の人が大阪明星会に所属していたこともあり、かるたの系統は大阪明星会のものと似ている。ただ、それを攻めに特化させたものとなっている。

 ということは攻めが強烈なかるたを取る、と9割方思ってた方がいい。光輝はそう思っていた。あとはどういう風に勝ち上がったか、暗記時間中にイメージする。

 配列はやはり、オーソドックスなもので、相手のミスを誘うといったものや相手の攻めを鈍らすといったものではない。

 真っ向勝負という感じだから、序盤先行型か?

 などなど、考えを巡らせ、暗記時間中にも戦略を練る。序盤から離される展開もありえる。でも、そこを踏ん張って中盤まで食らいつき、終盤勝負に持ち込めば好機が訪れる。この試合が山場となりそうだ。

 試合が始まると、予想外の展開で始まった。なんと、相手が初手でお手付きをしたのだ。労せずして、札を送る。相手側は26枚スタートになった。

 その後、光輝陣の短い札を2、3枚ほど攻め取るのだが、どうにも暗記がうまく入っていない様子で抜け札や払い残しもあり、光輝はあまり狙ってない札を中心に拾ってリードを広げる。

 さらにお手付きも多く、光輝が思っていたのとは違う大量リードの展開で試合は進んでいく。そして、最後は相手陣の右の外側の札を攻め取って16枚差で勝利した。

 枚数差としては圧勝だが、光輝はどうにも自分の力で大量リードを奪ったとはいえず、相手の自滅という内容に「これでよかったのか?」と首を傾げた。

 最後の方だけ攻めが忙しくなったため、少し体と頭の休養が必要だ。早々に試合が終わったので、残りの3試合がもつれて時間がかかることを光輝は祈る。

 時間にして30分ぐらいだろうか。光輝(とその応援をする結姫(ゆき))は準決勝の試合場所へと向かう。準決勝からは人数も絞られることから、大広間とは別の54畳の広間に場所を移す。その移動中に二人は少し見知った顔を見つけて、ピタリと足を止める。


「よっ」


「お前は……」


 二人が足を止めたと同時に軽く声をかけたのは春日山と書かれたTシャツを着たあの仙崎だった。


「俺のこと覚えとるか?」


「あ、あぁ……」


 光輝はこの前の選考会で力を認めてもらえていたとは思っているが、やはり、この前の横柄な態度を取った印象が拭えず、やや身構える。


「聞いたで。この前、練習かなんかで桑野さんに勝ったらしいな。それで今日、B級で出とるんやてな」


「あんなの、まぐれだよ。100回、いや1000回に1回のクジが当たったようなもんだ。内容は俺の完全な負け試合だった」


「はは、相変わらず謙虚なヤツやなー。四条君と取った人なら、桑野さんが相手でも勝っても不思議に思わへんって。大体、まぐれでも勝てるB級がそんなにおるわけないやろ」


「仙崎君もここにいるってことはこれからC級の準決勝?」


 結姫が仙崎に聞く。


「はい」


「そっか。じゃあ、B級に上がるのね」


 B級までは3位入賞以上で昇段、昇級の条件を満たす。この準決勝進出はその条件にあてはまる。A級はB級優勝か準優勝2回という条件があり、これがなかなか厳しい。

 3位入賞まではくじ運次第という面もあるが、A級への昇格は本当の強さが必要になってくる。


「本当は優勝以外では昇級せんとこかなと思ってたんですが、今は早くB級に上がって、A級に挑戦できるチャンスをつかみたいんですわ。厳しいとは思ってますけど、高校選手権の個人戦でB級優勝してA級に上がりたいんです」


 仙崎が殊勝なことをいうものだから、光輝はこの前のキャラの違いに毒気を抜かれる。


「そしたら、俺と四条君でA級2人になるやないですか」


「え? 俺、まだ、あんたと違って、この大会で上がれると決まったわけじゃねーぞ」


「いや、四条君はこんなとこにいるようなレベルの選手ちゃうって。ここまでも圧倒的に勝ってるみたいやないか」


「危ない試合もあったけどな」


「まあ、俺もやるからには優勝めざすで! 明日のA級は花山さん、桑野さんが続いていけるように俺らで勢いつけてやろうや!」


 そう仙崎が力強く言って、光輝の左胸をグーで軽く小突いて、ニカっと笑いながら、試合会場へと急いでいった。


「なんか、あいつ、変わったな」


「そうなんですよ」


 光輝がボソッとつぶやくと、隣にスーッと春日山のかるた部の顧問である後藤先生が現れた。少し光輝と結姫はビクッとする。


「実はね、あの選考会の後から、仙崎のかるたへの取り組みの意識が変わったんですよ。自分は改めて、みんなを盛り上げようと、お山の大将を気取って、リーダー風吹かすのは間違いだとわかったようで……」


「そっか。あの態度は過渡期という声が多い中での彼なりの強がりだったってわけですね」


 結姫が仙崎を見送った方向を向きつつ言う。


「私の指導力不足と言われればそれまでなんですが……」


 後藤先生は肩を落として言う。


「でも、そこに四条君の素晴らしいかるたに完敗して目が覚めた。やはり、自分が実力を上げないとチームも引き上げられない、と。仙崎が変わったことで部内も今はいい雰囲気で練習できています。あの時、仙崎が四条君と取っていなければ今のうちはボロボロだったと思う。四条君、本当にありがとう」


 そう言って、後藤先生は光輝に深々と頭を下げる。


「いやいや、俺なんて、そんな……!」


「決して大阪府選抜のためじゃないです。私個人があなたに期待しています。準決勝、勝ち上がれば決勝、がんばってください。応援してます」


「あ、ありがとうございます……やるだけやってみます」


 光輝は後藤先生に激励の言葉をいただき、やや照れ気味に頬をかきながら礼を言う。長年、自分がこんなに期待、応援してもらえる立場になることが慣れておらず、むず痒かった。

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