真のA級昇級へ、光輝の京都大会奮闘記②
開会式が行われ、それが終わると、試合会場である研修道場の大広間へそれぞれ移動。なるほど、大広間は畳300畳で、これなら大量に試合を消化できるだろう。それでも総勢200名を越える参加者となれば、この大広間でもぎゅうぎゅうになる。
組み合わせ抽選後、早速、それぞれの選手が組み合わせの番号の席に着く。光輝はこういった人がひしめき合う狭い空間でのかるたは久しく取っていない。いつも、かささぎ橋や結姫との練習では広間を贅沢に使用している。初戦の緊張感、慣れない環境、そこらが懸念材料になるところだが……
(あー、こりゃ、勝てるか……)
1回戦で当たった相手は大学生の女性。おそらく、攻めも守りもバランスよく取れるタイプで丁寧なかるたなのだろう。
しかし、特筆するほどの速さもなく、かと言って、音の聞き分けも抜群にいいわけではない。これが普通のB級の同年代の男性選手が相手なら、試合巧者らしく取ったのだろうが、光輝はリーチも速さも優れ、なおかつ彼女の持つ強みを凌駕するほど、払いや聞き分けの技術も高い。
そもそも、花山結姫という変幻自在のオールラウンダーを日々、相手にしている光輝にとってはこの手のタイプはやり慣れている。
後ろの人に足がぶつかったり、構えをコンパクトにするなど、やや長身の光輝にとってはこの1回戦の試合環境は慣れない面もあったが、それ以上に相手の相性が大きく勝った。
早々に試合を片付けた光輝は受付のもとへと勝利の報告に行く。ここで札を返し、結果の枚数差を言うのだ。
「大阪明星会、四条、17枚差です」
「はい」
朝に続き、受付の若林が光輝からの結果報告を聞き、所属会と選手名が書かれたカードに〇と枚数差を記入する。だが、そのペンを握る筆は震えていた。
(涼しい顔して、勝ってきたわね~。でも、序盤はC級上がりの子もいるから、わからないけど……)
試合結果の報告を終えると、選手控室へ戻ろうとした光輝のもとへ結姫が駆け寄る。
「おつかれー、みーくん。まずは初戦突破だね」
「おぅ、まぁ、なんかやりやすい相手だったかな。いっつもゆき姉と取ってるから、気持ち楽だったわ」
「試合見てたけど、今のは100点満点に近い感じかな」
「でも、優勝まであと5回勝たなきゃいけねーのか。先は長いな……」
この日のB級の参加者は3組に分かれ、それぞれ64名が参加している。そのため、最大6回戦を戦う長丁場だ。
ちなみに以前はB級以上は128名を越えなければすべてまとめて行っていたらしく、その時は一日で最大7回戦を戦う過酷な連戦だったという。今は某漫画の影響で競技人口の増加に加えて、大会の参加人数もパンク気味。以前は誰でも参加できたが、定員を決めて、エントリーするのに抽選も必要な大会もある。
参加する選手にとっては負担は減ったが、参加するまでのハードルが上がった。
特に光輝はただでさえ、大会参加のブランクがある。一応、勝ち抜くための練習は積んできてはいるが、どこまで通用するかは自分でも未知数だった。
続く2回戦は小学生の左利きの女の子。序盤から優勢だったが、リードを広げ、相手陣に札が集まった後半は相手の速い守りになかなか手が出ない。さすがに小学生とはいえB級まで上がってきているだけはあって、自陣の守りや随所に見せる敵陣への反応はかなり速い。だが、序盤で稼いだリードを守り切って、最後は6枚差で勝利した。
(かささぎ橋の子どもたちにはここまで取れるのはいないな…………末恐ろしいガキだったぜ)
などと感心しつつ、とにかく、がむしゃらに、冷静に、自分が今まで得たものを総動員して、それを畳の上で表現するだけ。
続いて、3回戦は兵庫のおばちゃんが相手。おばちゃんの相手もかささぎ橋で慣れている光輝だが、思ったよりも攻めてくるおばちゃんのかるたに面食らう。だが、こちらも確実な攻めと自陣で拾える札は確実に拾う。おばちゃんよりもおばちゃんらしいかるたに加えて、攻め味で上回り、9枚差で勝利。
3戦取って、光輝は疲労感を感じながらもどこか上機嫌で思わず笑みが漏れる。
「みーくん、どうしたの?」
その様子を見た結姫が気になったのか光輝に声をかける。
「いや、ここまで3人の人とかるた取ってきたけど…………かるたって、人によってそれぞれのかるたがあるんだなって思ったんだよ。ゆき姉のような女子大生、かささぎ橋で参加してくれる小学生やおばちゃんたちとかのかるた見てるけど…………
今日、同じような人たちと対戦してきたけど、その人によって取るかるたって全然違うんだな。今日はこの3試合だけで一月分の練習をしてるような感じだよ」
「そっか」
光輝の不思議そうにしながらも充足感に満ちた表情から発する言葉に結姫はただ、一言うなずく。
「みーくん、ずっと私やかささぎ橋の人としか取ってないから、いろいろな人のかるたを見たり、実際に試合して、それが刺激になってるのね」
「刺激?」
「そうよ。ていうか自覚ないんだー? みーくん、総文祭の選考会から本当に取りが変わってるのよ」
「え? そうなの?」
結姫の意外な言葉に光輝は戸惑いを隠せない。
「今は詳しいことはあえて言わないけど、そういう外からの刺激がいい変化をもたらしてくれると思ったのよ。あえてB級からスタートさせたのもそれが狙い」
「はー、なるほどね」
「4位入賞程度で満足しないで、優勝しなさいよ。そしたら、また、一段と違う景色が見えると思うから」
「まーた、よく、わからんことを」
「とにかく、あと3つ。疲れはどう?」
「それほどは。少なくともだるいっていう疲れではないかな」
「じゃあ、残りの3つはエンジン全開でいきましょうか」
「いや、もうちょっと待とうかな。次の8強を勝ち抜いてからだな。エンジンは暖まってきた感じはあるからね。俺って、後半型だったんだなぁって今更ながら思ったよ」
普段は取らない人たちから受ける外界からの刺激、そんな世界で自分を再発見できたことに喜びを感じている。結姫はそんな光輝の姿を見れるのがなによりうれしかった。




