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みーくん、公認大会へ向けての練習②

 2試合目はC級二段の横田光枝さんとの対戦。来年で60歳と還暦を迎えるシニア選手の女性で、体のキレや体力は落ちたものの、自陣の鋭い守りは健在だ。佐倉や他の高校生選手と違うのは自陣の左側、上段も上手く守る。これらを取るにはけっこう意識を強くして、狙わないと取りにいけない。


(横田さん、さすがの守りだ。強く攻めてこないのはわかってるから、自陣はそこまで意識しなくていいけど……と、言ってもこれが次の試合があった場合だと、本格的に相手陣を攻めるのは早すぎる。我慢比べか……)


 まず、横田さんの陣の下段の札を無理に取ろうとすれば、暗記や体にも負担がかかる。しかも横田さんが厄介なのは単なる守りがるたなのではなく、


「やへむぐらー」


 スパンッ! と横田さんが光輝(みつき)の右上段の札を払い飛ばした。


(上手い! この前、高校生とやったときはここまで鮮やかに取られなかったのに……)


 ベテランの味とはこのことか。上手く相手陣の上段、中段の札も攻めてくるのだ。この辺はさすがに結姫(ゆき)が指導にあたっているというのもある。結姫が自陣敵陣、自在に取れる安定したかるたを取るからだ。

 そんな感じで上手く取られたり、拾ったりで、光輝も思うように取れないままで互角の展開で試合は進む。


(だけど、自陣の守りは舞さんやゆき(ねえ)の方がずっと鋭く、手堅い……!)


 さらに決まり字が短くなるにつれて、ベテラン選手の弱点ともいえるわずかな反応の鈍さが差となって表れてくる。特にここぞのトップスピードはA級上位選手と遜色のない光輝の終盤の猛攻に横田さんは為す術がない。結局、試合は光輝が9枚差で勝利した。

 ちなみに2試合とも結姫が読手を務めた。


「みーくん、お疲れさま」


「ゆき姉もな。ありがとよ、読手2試合もやってくれてさ」


「せっかく、みーくんが本気で大会に向けて取り組んでくれるしね。生の読みがいいかなと思ってさ。聞きづらかったら、ごめんだけど……」


「いや、ほとんど気にならなかったよ。そろそろ、B級公認読手いけるんじゃない?」


「うーん、どうかな。千代先生、厳しい方だし……で、みーくん、2試合取ってみて、どう?」


「どう? って言われてもなー。ご覧の結果なんだけど」


 と、光輝が各試合の枚数差が書かれたノートのページを結姫に見せる。


「読手やってて、あまり試合は見てないけど、佐倉さんの試合はいいペースだけど、横田さんとの試合はもう少し差を広げてもいいかな。まあ、今日は違和感あったと思うけど、いいペースで取れてたんじゃないかしら」


「ねえ、結姫ちゃん。ちょっと、聞きたいんだけど、四条君は私相手に力を温存させて取らせようとしてたの?」


 今の光輝と結姫のやりとりを見ていた横田さんが聞いてきた。それに対し、光輝は少し考え込んで、


「うーん、温存っていうのはちょっと違うかもしれません。確かに佐倉さんの時も取り方は制限してましたが……今日は15枚前後で勝とうと前半は『無理に取りにいかない』ってテーマで取ってたんです。大差で勝たずに、接戦にもならずにって感じで」


 横田さんの結姫への質問に代わりに光輝がそう答えると、「はぁ……私にはわからないわね」と横田さんはぽかんとするだけだった。


「みーくん、疲れは? あと、暗記が残ってるとかはあった?」


「いや、いつもよりもいろいろ考えること多かったから、なんか疲れたぞ。あー、でも、暗記は前の試合のが少し残ってたけど、けっこうクリアーだったかなぁ……でも、横田さんとの守り合いはちょっと精神的にきつかった」


「もう少し、早いポイントで仕掛けてもよかったかもね」


「でも、なんとなくわかったよ。相手が攻めがるたでも守りがるたでもやることは変わんないな」


「そっ。勝ち進む感覚がわかったところで、大会まではこんな感じで練習してもらうから」


 そして、大会までこんなペースで練習で取ることになった。翌週からは指導も兼ねて、木曜の子どもの部でも取ることになった。

 なんか、この前の舞との試合がよほど語り草になったのか、なんか子どもの光輝を見る目がボーっとした冴えない兄ちゃんから、ちょっとすごい兄ちゃんを通り越して、もはや怖い兄ちゃんになっていた。今までの親しみやすさがなくなっていた。

 さらにかささぎ橋での練習の後には毎日の舞との試合も行う。この時は相手にとって不足はなしと、決勝のつもりで本気で取りにいく。そんな日々を2週間ほど過ごして、大会当日を迎えた。

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