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みーくん、公認大会へ向けての練習①

 というわけで、早速、週末の月2回開催の土曜のかささぎ橋かるた会。この日は主婦やシニア層のおっさん、おばさん、希望者は一部、小中学生の参加があり、木曜よりも年齢層が幅広い。そんな中で結姫(ゆき)が組み合わせを決める前に鶴の一声を出す。


「さて、みーくんが今月末の京都宇治大会に出場するので、今回は練習を見るのは私だけです。なので、皆さんでそれぞれ取ってください」


 練習に集まった一同、主におばちゃんたちからは「あら、珍しいわね」という声が漏れる。

 実を言うと、大会の参加こそしていなかったが、この土曜連では人数が半端になったりした時とかに光輝(みつき)か結姫が練習相手になることがある(木曜の子どもの部は札だけ並べる係をして、実質、一人取り)。


「ちなみにみーくんが出場するのはB級です。大会のブランクこそありますが、それぐらいの強さは持ってると思って試合してください。そのうえで誰かやりたい人、いますかー?」


 さすがにこの前、舞に勝利してるという事実だけは伏せておいたが、子どもと一緒にギャラリーをしていたお母さんもいるため、それも周知されている。

 そもそも大人の部の人は光輝のかるたがちょっとやそっとの強さではないことを知っている。

 尻込みして、誰一人やりたいという人はいなかったが……


「はい」


 そう言って、スッと手を上げたのが佐倉さんこと、佐倉綾子。子どもの部にも参加しているこの春から中学生にになったD級初段の女の子だ。


「私はこの前の舞さんとの試合を見ていますが、やってみたいです。光輝先輩は練習にならないかもしれませんが……」


「うんうん。普通の大会は佐倉さんのような中学生とも当たる可能性はあるから、そういう相手とやるだけでも経験が足りないみーくんにとっては十分、練習になるわ。佐倉さんはみーくんと直接、試合をするのは初めてよね?」


「はい」


「どんな結果になっても、佐倉さんにとっては得難い経験になることは私が保証するわ。私はあの試合を見ておきながら、取りたいと思う佐倉さんの心意気を買いたい。だから、みーくんもそれに応える形で取ってあげてね」


「無理難題、押し付けるなよ。自分の調整もしつつ、指導なんて器用なことできねーぞ、俺」


「調整とか考えて取ってると足元掬われちゃうよー? 逆算して、最終的に勝てるように取ってよね」


「うへぇ、また、難しいことを…………」


 光輝が結姫のリクエストに対して、面倒そうに顔をしかめながら言う。


「佐倉さん、というわけだ。俺も大会に向けて取るから、手加減するつもりはないぜ。そっちも遠慮なく取ってくれていいからな」


「はい! こちらこそ、胸を借りるつもりで試合させていただきます!」


 佐倉が一礼をしつつ、元気のいい声で言う。

 かくして、光輝と佐倉以外の組み合わせも決まり、それぞれ相手に面して座り、15分の暗記時間をこなして、試合が始まった。ちなみにこの試合は読み上げ機のアーリーではなく、結姫が読手を務める。これもたまにある。


「なにわづにー、さくやこのはなー、ふゆごもーりー」


 結姫のいつもはあどけなさも残す声と違い、やや低音気味に力強く序歌を詠む姿は読手としても上級者の域に達しているといっていいだろう。ただ、千代先生はもちろん、舞と比較すると声の通りが悪いか。


「めぐりあいて~」


 いきなり1字札が読まれ、光輝の自陣左下段にある出札を佐倉が勢いよくバシィっ! と左下段の何枚かを払い飛ばした。


「よしっ!」


 1字札をいい形で抜いて、幸先のいいスタートを切った佐倉は手ごたえを口にする。


(速い……! 純粋な感じなら、絶対に俺より速い!)


 中学生になり身長も伸びた。リーチが長くなったことで、その速さをさらに生かせるようになった。


(だからこそ、この札は取らなくていい。そうだろ? ゆき(ねえ)


 光輝が読手を務める結姫に自身の考えを目配せするように見る。結姫はその様子を横目で見下ろすように軽く眺め、次の読みに備えていた。


「あまのはら~」


 先に手を出してきたのは佐倉。だが、その手は出札のある光輝の右側の上で手が止まってしまう。時間としては1秒もないのだが、光輝が3字で決まるドンピシャリのタイミングの速さで佐倉の手の下を掻い潜り自陣中段を払う。


「くっ……!」


(佐倉さんは1字目への反応はいい。だけど、こういう3字札や決まりの長い札は手が一旦、止まってしまう。再び払うか、抑える時に、わずかだがタイムロスが発生する。中盤まではこういう札を中心に取って、自陣を減らしていきたいとこだな)


 思惑通り、決まりの短い札は佐倉に取らせて、光輝は長い札や友札を中心に取って札を減らしていく。


「あさぼらけ……」


 さらに大山札が出た際には光輝が素早く鉄壁の囲い手を見せると、それに対し、佐倉は手は伸ばすものの、入り口を塞がれたような囲い手に面食らってしまう。


「ありあけのつきとみるまでーにー」


 パンッ!


「あっ……」


 札を払い飛ばす音が響く。払ったのは佐倉だが、その札には「あらはれわたる せせのあしろぎ」という下の句が書かれていた。お手付きだ。

 一方の光輝は空札とわかると、囲い手を解除するように払いを空振る。その払いに釣られるように佐倉が触ってしまった。

 まだまだ、反応にまかせた直線的なかるたしか取れない佐倉と年齢に似合わないベテランのような味のあるかるたを取る光輝の差が如実に出ており、差をじわじわと広げていた。そして、光輝の陣が10枚前後になったところで光輝もペースを上げていく。


(それに速さと取りの迫力や切れ味なら、この前の仙崎って奴の方が上だった。さすがに初段と二段の違いはあるけど……)


 ここからは佐倉も驚くほどの速い取りを見せて、2字札も取りにいくようになってきた。とはいえ、まだまだ決まりの長い札もちらほらあるため、無理にスピードは上げない。そんなペースで試合は進み、最終的に13枚差で光輝が佐倉を下した。

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