昇段認定試合決着!光輝の段位、昇級認定へ
「あなた、ところで四条君の段位はどうするの?」
光輝がちょっとぐだってるなーって思ってたところに話の本筋を戻しに千代先生が割り込んできた。この人、厳しいことで有名だが、余計な前振りや建前とかなしにハッキリ物事を言うので、実は光輝はけっこう好印象を持っている。
「おー、そうやな。まあ、1度だけとはいえ、今の舞ちゃんに勝ったんやから、相応の段位はあげてもええやろ。どうや、舞ちゃん、相手してみて」
残ったかささぎ橋の会員たちは「まさかA級?」みたいにひそひそ言うが、
「私はA級でも通用する力はあると思いますけど…………結姫ちゃんは試合見てて、どう感じた? たぶん、この中で四条君のかるたを一番知ってると思いますし、最終判断は彼女に委ねるのがいいかな~と」
山上会長から話を振られた舞が結姫に問いかけた。
「え? 私がですか?」
「そうやな。君の判断でもええかな」
「そんな重要なことを私の一存の決めていいんでしょうか?」
「最終的にワシが責任取るわ」
「は、はい…………」
結姫の一言で光輝の競技者人生が大きく変わるかもしれないため、広間にいる全員の視線が彼女に集まる。少し、それでたじろぐが、覚悟を決めて口を開く。
「率直に申し上げますと、今のみーく……四条光輝にA級、四段以上はあげられないと思います」
結姫から出た言葉は他のみんなには意外だったようで、山上会長はじめほぼ全員が驚いてる。
「その理由はなんや?」
「まず、一度でも舞さんに勝ったのもすごいと思います。ただ、本来の実力を発揮して勝ったようには思えません。かと言って、いつも以上の取りができたというのも違うと思います。舞さんの丁寧かつ鋭い取りに対抗しようとして、序盤から飛ばして必要以上に速く取りにいったところ、舞さんの終盤の作戦ミスとかいろいろ重なった結果、たまたま勝ったのかなという感じを受けました。終始、試合を支配していたのは明らかに舞さんだったのには変わりありません。みーくん、そうでしょ?」
「まぁ、勝った気はしねーな。とにかく、引き離されるかと思って必死だったし……舞さんは試合には負けたかもしれないけど、こちとらずっと負け試合のまま最後に運命戦で拾ったんですから」
「本人もこう言ってますしね。とはいえ、随所に見せた彼の取りはD級やC級相手だと、単なる暴力になりかねません。それと、これから競技者として本格的にやっていくのにあたって、ずっと感じていた課題があります。
彼は小学生時代も含めて公認大会の出場や長丁場のトーナメントを勝ち抜いた経験がありません。この前の総文祭の選考会で1日に3試合取ったのも久々でしたし」
実は計4試合取ったってことは黙っておこう……と光輝は思った。
「だから、まずはトーナメントを勝ち抜ける経験を積むところかなと。でも、C級以下は本人や他の選手にも迷惑がかかるかもしれない……なので、B級、三段が私は妥当かなと思います。そこで優勝すれば、文句なしにA級になれるわけですし。これでどうでしょうか?」
結姫が山上会長夫妻と舞に向けて折衝案を出した。
「よっしゃ、わかった。協会にはそれで通しとこうか」
「あ、ありがとうございます!」
「大会の出場は問題ないけど、一気に三段の申請はちょっと時間がかかるから、しばらくは無段扱いやけどな」
「では、用も済んだことですし、私たちはお暇しましょうか」
「あー、そうやな」
話がまとまったところで、会長夫妻と舞が帰り支度を始める。舞はジャージから私服に着替えなおさないといけないので、その時間の間に千代先生が光輝のもとへ近寄り、
「会長直々に特別に昇級したのですから、これからは自覚を持って取り組むようにしなさいね」
「は、はい……!」
「まぁ、頑張りなさいな」
厳しくも暖かい激励のお言葉をいただいた光輝。その一方で、後戻りはできなくなったんだなと改めて感じたのだった。
会長夫妻や舞が帰ることになり、結姫と光輝は残ったかささぎ橋の会員と一緒にお見送りをすることに。その際、光輝は舞から「A級で待ってるわね」という地獄への案内のような言葉をもらったが、舞と光輝は同会に所属することになるので大会で当たることは基本的にない。
会長夫妻が帰った後に残っていた翔太や佐倉なども帰ることになり解散。結姫と光輝の二人で後片付けをすることに。
「B級無段ってことか。なんか、俺らしくていいや。しばらく、近畿じゃ大会ないみたいだし、のんびり構えとくかな~」
光輝が一人でうんうんと頷き納得してると、
「みーくん、そんなこともあろうかと今月末にある京都宇治大会のB級の部にエントリーしておいたから!」
「だから、そういうことはさっさと言えと」
結姫が満面の笑みで大会案内のPDFのページを光輝に見せてくる。
「というわけで、さっきも言いましたが、みーくんにはその間に連戦を勝ち抜けるようなかるたをテーマに練習してもらいます」
「はぁ……しかし、具体的にどういうことするんだ?」
「連戦になると、疲れがたまったり、前の試合の暗記が抜けなかったりっていうことがあるの。勝ち進んでいくと、体力不足で自分の取りができなくて負けちゃうこともあり得るってわけ。大会序盤は体力を温存する負担のないかるた、あるいは連戦に耐えうる体力をつけるか」
「ほう、なるほどねー」
これまで光輝は結姫の練習相手としての強さを保つために必死にやってきただけである。だからこそ、ツキもあったとはいえ舞に勝てるような強さも身につけたのだ。
小学生時代などもペースとか考えずに一試合を全力で取るようにしてきた光輝にとっては未経験の領域だ。
「みーくんは暇さえあれば、1日ゲームしちゃうような人だし、基本的に運動不足だと思うから、連戦に向けて体力強化に取り組むよりも、序盤は体力を温存しつつ、上位の対戦で状態を上げるように試合を組み立てていくのが理想かな」
「要は最初は手抜いて取るってことか? 俺、そんな器用なことできねーよ」
「うーん、ちょっと違うかな。速く取るところと取りにいかないところを分けて試合をするの。取りの強弱をつけるって感じかな。最終的に接戦にならず、でも大差にもなりすぎないっていう塩梅で試合を進めるっていう、ね」
「あっ、それなら、なんとなくわかるけど……」
二人の会話のやりとりだけだと少しわかりづらいかもしれないが、光輝はおぼろげながら理解した。
というのも結姫が光輝と試合する時、そういう取り方をするときがある。
決まり字が短くなる終盤の前までに光輝が抜群の速さで取れる札は無理に取りにいかず、拾える札は確実に拾って離されず、離すことなく、互角のまま試合を進めて、そのまま後半でスパートをかける。そして、最終的に15枚~10枚差をつけて勝ってしまう。
たぶん、今日の舞もそういう試合をしようとしてたんだろうと光輝は思った。A級の上位選手になると、枚数差をコントロールすることができるという。舞や結姫はその次元のレベルのA級選手だ。毎日のように結姫を相手にしている光輝はそれをまざまざと見せつけられている。
特に結姫は大会前とかに光輝を相手にしたとき、1試合目は抜いたような取り方をして、2試合目は初めからフルスロットルで取りに行くというパターンが多く、あれは連戦を戦い抜くペース配分をテーマにしていたことに光輝はいまさらながら気づいた。
「でも、俺、そんな試合をコントロールするようなことはできないよ」
「そこまでじゃなくてもいいし、初めから強い人が相手だったら、何も考えずに全力で行っていいから。今のみーくんなら、相手の取りを見て、そういう判断もできると思うわ。今度から、かささぎ橋の人を相手に意識してやってみて」
「お、おぅ、わかった」
「でも、その前に……」
結姫が広間の押し入れの襖を開けて、木目調の箱の機械を取り出した。ありあけことアーリーだ。
「今夜は最後に私と取ろっか? 今日、私、一回も取ってないし、さっきの試合見てたら、うずうずしちゃって。てへ♪」
結姫がニッコリと笑顔を浮かべる。まだ、舞との試合の疲労感が抜けていない光輝は対照的に呆れた顔を作り、
「…………オニかよ、あんたは」
疲労が抜けきらず、先ほどの暗記も残っていた光輝は案の定、結姫に14枚差でぼこぼこにやられた。この前の倍返しをされた。




