光輝の昇段認定試合 VS.桑野舞六段④ ~決着~
かくして、試合は舞が優勢のまま進む。
ただ、今のセミダブで光輝も息を吹き返し、取って取られてで試合は進み、80枚目が読まれた時点で光輝2-6舞。82枚目の光輝陣にある「あり(あけの)」を舞が攻め取る。
「くっそ……」
舞の陣にある「あしびきの」と自陣にある今出た「ありあけの」でダブルを狙いたかったが、出札は運悪く光輝陣。万事休すか。
舞の陣にあるのは「あしびきの」と中盤に光輝が送った「みちのくの」の2枚。さて、舞はどちらを送り、どちらを1枚残すのか。かささぎ橋のギャラリーはそこまで念入りには見てないが、試合も最終段階、舞の送り札の行方を山上会長、結姫がそれぞれ注視する。
「「「⁉」」」
長考した末に送ったのは「あしびきの」の札。光輝は特になんの疑問もなく受け取ったが、正直、まだ仄かにチャンスありという感想を抱いた。
というのも、自陣に「みか(のはら)」があるからだ。友札が自陣、相手陣に分かれてるのもあって、舞は「あしびきの」を送り札に選択したのかもしれない。
そして、舞は同時に「みちのくの」を自陣右側に移動する。右側の対角線になるように光輝も札を右側に移動させようかと思ったが、右側にはすでに4枚あって重たい。それなら、自陣の定位置にずっと置いてる方がいいとこの配列で勝負することにした。
光輝は残り1枚になった舞の陣にある「みちのくの」の札を視線で捉えつつ、意識は自陣に集中させた。すると、光輝は自陣の「なつ」「ひともをし」と守り、光輝4-1舞と追い上げる。そして、88枚目、「みかのはら」が読まれる。これを光輝が抜群の速さで守り抜く。
舞ももちろん手を伸ばすが届かず。「みちのくの」の札を残した以上はこれは絶対に攻め取りたかったであろう舞にとっては痛恨。
「しまった…………」
思わず、そう漏らして、天を仰いでしまう。
そして、残り3枚とした光輝はもう相手陣は出ないと踏んで、残りの札をすべて自陣右下段に固める。そして、「たま」「おぐ」と連取して守ると、試合は運命戦に。光輝の陣には「あしびきの」、舞の陣には「みちのくの」が右下段の外側に1枚。
「いまーひとたびのー、みゆきまた~なん~~~」
千代先生が下の句を読む。そして、余韻3秒を挟んで読まれたのは……
「あしびきのー」
光輝がスッと囲ってストンと押さえ手で確保し、試合終了。
5枚差から自陣を5連取し、試合をひっくり返して光輝が大金星という勝利にかささぎ橋のギャラリーは「おぉっ……!」とどよめいた。
当の光輝と舞は互いに礼をした後、放心状態でどちらもプレッシャーのかかる試合から解放されたという感にも見えなくない。
ずっと、舞の一流のA級選手が発する独特のオーラに精神をすり減らしながら、光輝はただでさえ細身の体がさらに痩せたのではないかというぐらい憔悴しきった表情で、舞は中盤まで余裕の試合運びもその時の攻め疲れからか、中盤以降はなかなか攻めきれず、最後は光輝に食らいつかれ、追い上げられたりで苦しい終盤となり、重圧を感じていたようである。
「なんや。なんで、『みち』残したんや。『みち』送って、『み』決まりにしたらええやないか。それやったら、最後に『あし』残せるやろ」
「だって、『みち』が出ると思ったんです~。それに『みち』と『みかの』分けたかったんです~」
山上会長が舞になぜ「みちのくの」の札を残して、「あしびきの」を送ったのを問い詰めると、舞がうなだれながら理由を話す。すると、今の後半の理由を聞いて、結姫がピンときた。
「あー、舞さん、もしかして、この前の空札の時の渡り手を意識してました?」
無論、この前の総文祭の選考会で舞が読手を務めたときに舞が読みを止めて、「失礼しました」と言った『し』に反応して、「しの」と「しら」を光輝が払ったことだろう。
「うん。『み』決まりにさせたら、抜くの難しいなって」
「舞さん、みーくんって実は自陣の渡り手は速くないです。そもそも、この前の渡り手ができ過ぎで、あんまりそういう技術がないっていうか……」
「ゆき姉、そういうのは言わないでくれよ。恥ずかしいから……」
「あっ、そうなのね。アハハ、さすが結姫ちゃん、よく知ってるわね~……」
「でも、みーくんが相手じゃなかったとしても、私も『みち』送って、『あし』を残して、相手陣の左右、どちらかの陣を狙いますかね。結果論なので、なんとも言えませんが……」
「しっかし、本当に舞ちゃんは終盤、勝負弱いなぁ……」
「うぅ……滅相もありません」
「え、どういう話? 舞さんって、終盤の粘り強さが持ち味って印象なんだけど……」
光輝が疑問気味に周りに問いかける。すると、結姫が光輝に顔を近づけて、耳打ちをする。どうにも、本人にはあまり聞かれたくないことのようだ。
「全体的に試合の組み立てとかは上手いんだけどね。でも、終盤の送り札のチョイスが絶妙に悪かったり、今日みたいに相手のタイプを見誤って、チャンスを逃して、最後に運命戦で負けることが多いかな」
「あー、そうなんだ。今日、やっててそんな感じはしなかったけどなー」
でも、思い返せば去年のクイーン戦の西日本予選や女流選手権の決勝も運命戦で負けてたな、と光輝は思い出した。普通の公認大会では逆に運命戦で勝ってる印象もあるようだが。
「でも、相手のタイプを見誤るってどういうこと?」
光輝が続けて、結姫に疑問をぶつける。
「たぶんだけど、みーくんは私といつも取ってるから、私と同じようなタイプをイメージしてたんじゃないかな。でも、みーくんって私とは実はちょっと取りのスタイルが違うじゃない?」
「まぁ、俺はゆき姉ほど器用じゃないからな~」
「そういうことじゃないのよねー。上手く説明するの難しいんだけど……」
結姫が伏し目がちにしながら、やや自嘲気味に意味深な発言をした。




