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光輝の昇段認定試合 VS.桑野舞六段①

 光輝(みつき)は試合で取る時の座布団を用意し、舞とともに席につく。正座した舞はとてもきりっとして、凛とした佇まいだ。少しあどけなさを残す結姫(ゆき)とはまた違った大人の雰囲気だ。


「「よろしくお願いします」」


 まず、礼をして札を取り出し、100枚ある札を混ぜる。そして、互いに自陣の25枚分の札を取って、残りの空札となる50枚を箱にしまう。そして、自陣の25枚を互いに並べ終える。


「それでは、暗記時間に入ります。この時計で19時32分に始めます」


 千代先生がそう言うと、暗記時間に入る。光輝は少し足を崩して、いつも通りボーっと相手陣、自陣を俯瞰するように眺める。一試合目ということもあるが、スーッと暗記が頭に入ってくる。

 この分なら、送り札や狙い札の作戦なども細かく考えられそうだ。


(舞さんの札の配列の特徴はゆき(ねえ)の話や女流選手権、タイトル戦の配信とかで見たことあるから、ある程度は頭に入ってる。

 基本、攻めがるただけど、自陣下段の速さ、速さの中にも出札を丁寧に払う確実性の高い技術、ボディーブローのように効いてくる送り札、そして、終盤での勝負強さ……

 ゆき姉と同じく落ち着いた正統派のかるたを取ってくるタイプっていう印象だけど…………払い、反応の一つひとつはゆき姉を若干上回る感じだよな。それは実績においては舞さんの方が上なのが物語ってる。

 今回ばかりは本当に大差で負けるとか以前にこの人相手に俺なんかが何枚取れるんだ? っていう試合になりそうだ。

 狙い札うんぬんよりも素直に千代先生の読みを聞いて、できる限り出札に最短距離で手を伸ばすしかないだろうな。おそらく、会長も勝負の結果ではなく、A級相手にどんな取りをするかを見たいんだろうし……)


 そう思ってると、千代先生の読みの声が少し離れた場所から聞こえる。喉ならしをしているが、この時点でいつもの大会などで聞く読みと遜色ない。さすがは何十年も第一線で活躍をする専任読手だ。


(四条君のかるたはこの前の総文祭の予選でも少し見た。自陣の定位置は少し違うけど、結姫ちゃんとずっと取ってるだけあって、取り方、送り札の癖とかスタイルは似ているような気がする。だけど……)


「こいすちょう~」


 ダァーーーーンッ!!


「しつれ…………」


 パチンッ! パチンッ!!


「「「!!」」」


 舞は札の暗記をしつつ、あの時の光輝のインパクトのあった取りを頭に思い浮かべた。


(あの長いリーチを生かした高速の攻め、力強い払いはやっぱり男の子ね。結姫ちゃんにはないものだわ。結姫ちゃんに比べると、しなやかさには欠けるけど、出札だけを正確に払う技術は高水準……

 あのリーチでトップスピードで攻めてこられたら、終盤勝負で接戦に持ち込まれたら厳しいかも。だから、序盤から中盤は取り漏らしだけはしないようにして差をつける。やることは結姫ちゃんが相手の時と一緒だわ)


 初顔合わせの光輝に対しても舞は光輝の定位置とこの前、チラッと見た取りでスタイルを予測し、シミュレーションを立てていく。あとは実戦の中で微調整していくイメージだろう。

 ちなみに子どもたちは何人かは迎えが来ていることもあり、帰った子がほとんどだったが、何人かは舞の取りを間近で見れる貴重な機会と親に連絡を入れたり、わがままを言って残った。その中には翔太と佐倉の姿も。


「しかし、みつき兄ちゃんがいくら強いって言ってもD級ぐらいじゃないの?」


「そっか、翔太は知らないか。光輝先輩って、たまに土曜の大人の部の練習で取ることあるけど、C級ぐらいのおばさんなら軽くひねってるわよ」


「ええ!? そうなの!?」


 暗記時間中とはいえ、試合は始まってるので音を立てないのがマナーの中、お互いひそひそ声でしゃべっていたが、翔太が大きな声を出し、思わず佐倉がシーッと「声が大きいと」人差し指を立てて、翔太を注意する。


「しかも聞いて驚かないでね。私も実際に見たわけじゃないけど、結姫先輩と光輝先輩って、いつも練習後に取ってるみたいなの。さすがに結姫先輩が大幅に勝ち越してるみたいだけど、たまに光輝先輩も勝つこともあるんだって」


「ウソだろ? 結姫姉ちゃんってA級でも強い方だろ? 普通、そんな人にまぐれでも勝てないじゃん」


「そうなのよ。でも、部活に行ってるわけでもなく、月一の明星会の練習だけであれだけの強さをキープできるのもおかしいと思ってたから、光輝先輩が結姫先輩の練習相手が務まるほどの強さだとしたら納得しちゃったのよ」


「でも、相手はクイーン候補といわれてる桑野さんだろ? それでも相手にならないんじゃない?」


「うん、私も光輝先輩の本気のかるたは初めて見るんだけど、さすがに舞さんはきついと思う。それでも、翔太は光輝先輩のかるたを見てた方がいいと思う」


「う、うん」


 翔太にとって、光輝は普段は頼りない兄ちゃんという印象だ。そんな彼が暗記に集中している様子を眺めた。

 凛とした佇まいで座った姿勢も綺麗な舞に対し、普段の気だるげな仕草を見せる光輝の顔つきが明らかに違うのは小学生の翔太の目からもわかった。

 その鋭い目つきはゾッとするほどだった。

 7、8分で暗記がひと段落したのか、光輝が「失礼します」と言って、立ち上がると、広間の隅でスマホをポチポチし始めた。おそらく、SNSのチェックやソシャゲのゲージを消化してたりしてたのだろう。その様子はいつもの光輝と変わらなくて、それに翔太はなんか安心感を覚えた。

 そして、千代先生の「2分前です」で光輝が自分の席に「失礼しました」と言って戻ってきた。

 そして、すでにウォーミングアップの素振りを始めた舞とともに光輝も暗記した札の配列を確かめるように手を伸ばし、静かに腕を振る。

 両者、必要以上に畳を叩かない。ある程度、素振りで感触を確かめれば、試合開始の合図を待つだけ。その間に両者、再び、場にある札を軽くチェック。

 舞は居住まいを正し、光輝は左手で長袖シャツの利き腕となる右側の袖を軽く伸ばして直す仕草をする。ここで直したところで構えに入ってしまえば、すぐに垂れ下がってくるのだが、ルーティンみたいなものなのだろう。


(ただの練習じゃないから、空気がピリピリしてる。だからか、舞さんもみーくんも試合モードだ……)


 光輝がたびたび袖を伸ばす仕草やリラックスしようと力を抜くように座る様子などを見て、


(あの一挙手一投足、本当にあのみーくんが戻ってきたんだなぁ……)


 無段とは思えない空気を纏う試合モードの光輝。かつて、天才小学生と言われていた頃を彷彿とさせる姿に結姫は感慨深げだった。

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