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少し変わり始めた日常

 翌週の木曜日、光輝(みつき)は自分のクラスの教室内でソシャゲを開いていた。この前の父親からの景品で10連ガチャを5回とログインボーナスなどでためたジュエルを使って、SSRキャラを2人引いた。

 画面の中の和服を着たお淑やかなキャラが「光輝様、お慕い申し上げます」というセリフを発している。自分の名前を入れている部分はさすがにボイスはないが、他の部分はしっかりフルボイス。そして、光輝はイヤホンなどはしないので、今、教室には俺が引いた女の子たちの声が響いてる。


「なあ、四条君。さすがにイヤホンにするか、消音にするかしないかい?」


「あ、悪い。でも、別にいまさらだろ。俺らがこういうソシャゲやってるっていうのは」


 インテリ系メガネBこと清水が言うと、光輝は慌てて消音モードにする。こういうオタクが好むソシャゲは嫌う人も一定数いるのは承知だが、やっぱりBGMやボイスも楽しみたいという思いもある。

 でも、これまで耳は大事にしたいと無意識に思ってて、イヤホンとか使ったことがなかった。最近になって、なんでかわかった。


 俺、ずっと、かるたやりたかったんだな。


 イヤホンやヘッドホンを長時間つけると、耳の劣化が進むという話をどこかで聞いたことがあった。実際、光輝は結姫(ゆき)なんかもあまりすることはないと聞いており、自然とその習慣が身に付いていた。


「しっかし、お前、10連ガチャ5回引いたとかどうしたんだよ?」


「ちょっと、臨時収入が入ってな」


 お調子者Aこと田中が素朴な疑問に対して、光輝は少しドヤっとしたような顔で言う。


「じゃあな。今日もバイトみたいなもんがある日だから」


 光輝はそそくさと教室を後にしようとする。

 しかし、椅子から立ち上がろうとした時、どこか遠くでぽすっという微かな音に光輝がピクっと反応した。

 音の大きさ、種類からして、物が入った入れ物やスマホといった電子機器、または割れ物などではない。おそらく、定期券が入ったパスケースだろう。そして、落とし主は窓際後方の光輝の席より前、教卓付近の席の生徒のものだと、光輝は瞬時に特定した。

 生徒も帰り支度中になにかの拍子で落としたのだろう本人は気づかずに教室を後にしようとする。

 これは困るだろうと、光輝は落とし主の席付近でその生徒のパスケースを拾い、すぐに後を追った。


「山口―。定期入れ、落としてるぞ」


 光輝が山口という生徒が落としたパスケースを渡す。

 山口から軽くお礼を言われるが、それには及ばないと光輝はさっと教室を後にして、帰宅の途へついた。


「なんか、あいつ、基本的にぼーっとしてるんだけど、妙に鋭い時あるよな」


 田中がそう言うほどに、光輝の鋭い聴力は今日も絶好調だ。


「しかし、あいつ、なんか少し明るくなったな。テンションが上がったというか」


「これは夏を前に本格的に春が来たというべきか」


「やっぱり、あいつ、この前の日曜でリアル彼女を手に入れやがったのか!」


 すると、田中が清水の首を絞めて、光輝への恨みごとを言うのだった。

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