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幕間 総文祭メンバー選考会から帰宅後

 ゴールデンウィーク明けに行われた全国高等学校総合文化祭こと総文祭の競技かるた部門・大阪代表選抜決定リーグ戦に出場した四条光輝(しじょうみつき)はグループリーグを1位通過した。

 同じグループにいた今年の大阪府内の高校生ではナンバー1という下馬評もあった仙崎にも圧勝したことで主将の座にも就くことになった。


「おい、約束だぞ。YouTuneカード1万円分と3000円分上乗せな?」


 光輝は春日山高校から帰ってきて、そのまま花山邸で結姫(ゆき)と一試合かるたを取った。そして、そのまま花山家で夕ご飯を一緒にし、テレビを見るとかして過ごした後に帰宅。

 そして、今日の結果報告のために父親である悟に電話をかけている最中というわけだ。


「おう、わかった、わかった。あとでギフトカード送ってやるから。しかし、最初は苦戦したようだが、あとの2戦は快勝だったそうじゃねーか。ほら、言ったろ? 普通にやれば負けやしねーって」


「まあな。最初は慣れない会場や環境に戸惑って、小学生レベルの取りしてたけど」


「柔道場の畳は視覚面でもあまりよくはねーからな。俺も好きじゃないね」


 確かに柔道場の畳は端の方は赤色になっていたのだが、その場所に当たった人は札が見づらそうだった。実際、結姫が言うには東京で行われる学生選手権の会場でもけっこう問題になってるとのことだ。


「そういや、さっきも結姫ちゃんと取ってたみたいだな。花山んとこに電話したら、ちょうど離れで取ってるって言われたぞ~」


(親父、なんだかんだ言って、俺の結果、気になってたのかね……)


「で、どうだったんだ?」


「どうって、なんとも言えない感覚だったなぁ……」


 体はバッキバキだし、疲れもあった。さらに結姫は今日の結果だけで天狗にさせまいと本気で潰しに来るだろうと、光輝はぼろ負けを覚悟していた。

 ところが不思議と頭はスッキリしてたし、動きはいつもよりもキレがよかった。


「…………7枚差で俺の勝ち」


「ほぅ。たいしたもんじゃねーか。結姫ちゃんにそこまでの枚数差つけて勝つとはな。結姫ちゃんがどういうスタイルやテーマで取ってたかは知らねーがな」


「ゆき姉の調子が上がりきる前にそのまま勝ったって感じだったな」


「まあ、今日、3試合取ってたお前とこの日が一発目の結姫ちゃんって差はあったんだろうけどな」


「俺もそう思ってるよ。そんなんだし、なんか勝った気しねーっていうか」


(こいつ、自分では気づいてねーみたいだな。ずっと、外での試合をしてないから、客観的な視点がないのか。ま、会長が一肌ぬいでくれるみたいだからな。俺は静観しておくか……)


「なあ、親父」


「なんだ?」


「今日の俺の試合さ。母さん、見てたら喜んでたと思う?」


 やはり、いつまで経っても大事な家族なのだ。光輝がそう切り出すと、二人に沈黙が生まれる。そして、悟が口を開く。


「あったりめーだろ。俺が名人になったときよりもお前が小学生大会で初めて優勝した時の方がうれしそうだったからな」


 悟はそう言うと、少し上機嫌になったのか声を弾ませた。だが、すぐに沈んだような声を発する。


「あの時は悪かったな。力になれなくて」


 おそらく、光輝が小学生の時の合同練習会の件でかるたから離れた時のことを言ってるのだろう。ただ、光輝自身もあの時は意地を張ってたのか、余計なことをするなと悟の言い分は突っぱねてた。


「昔の話だろ」


「今でも思うんだよ。あの時、柄にもなく、もうちょっと寄り添ってあげるべきだったのか、そもそも母さんが亡くなった時に無理やり、関東(こっち)に連れてくるべきだったのか……」


 悟なりに光輝がかるたをやめたことに責任を感じていたのが今の台詞で読み取れた。

 山上会長づてで結姫からさっき聞いたのが、どうも下山が突然、訪れた日の夜に悟に連絡して、出場への説得を促したそうだ。悟も結姫同様、自分をどこかで復帰させたいと思っていたのだろうと光輝は感じた。

 本当にトラウマになっていたのなら、悟からのご褒美の条件でも出たいと思わなかった。自分でもどこかで大会に出たいと内心、思っていたことに光輝は気づいた。

 だから、結姫との練習に何年も付き合ったのだ。そういう意味ではこの大会は光輝の背中を押すものではあった。


「まー、あの日々があったから、今があるってやつじゃね?」


「お前が人生を語るのは20年ぐらいはえーよ。あ、そうだ。お前、主将になったんだってな。あの二段に束勝ちのボーナスだけじゃなく、主将になったインセンティブで3000円から5000円に追加しといてやるよ」


「え、マジで!? 親父、太っ腹じゃねーか」


 やったぜ! 10連ガチャ5回分できるぜ!

 と、今から使い道を考えるだけでウキウキしてくる光輝。


「だけど、これが最後だな。あとは自力で稼ぐんだな」


「あー、わかったよ。だけど、今回の1万5,000円分は忘れんなよ」


「わかってるよ。じゃあ、切るぞ。今日はゆっくり休め」


「言われなくても、このあと、すぐに爆睡するって」


 そして、電話を切った後、悟から光輝のスマホにポンッとメッセージが飛んできた。

 そのメッセージを開くと、ギフトカードのコードが表示されていた。やけに早かった。

 もしかしたら、親父はこうなると思ってたのか。さすがに考えすぎかと光輝は自嘲する。

 ただ、この時、光輝は知らなかった。大阪のかるた界が四条光輝を中心に回り始めていたことに。


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