閉会式のようなものの最中の傍らで&エピローグ
~結姫視点~
選考メンバーが発表されている最中、その間に私、花山結姫は山上会長と舞さんのもとへと忍び足で向かう。
「会長、すいません。ウチの四条が面倒をおかけしまして……」
「いやー、変わった男やのう。取りは王道やのになー」
「でも、会長。みーく…………四条君、彼、これから公認大会出るにあたって、さすがに無段というのはどうかと思うんですが…………」
「あー、確かにあの強さだと、ED級の人はかわいそうかも」
私がそんな提案をすると、舞さんも同意してくれた。
「それもちょっと、考えとるんやけどな」
「やはり、会長も推薦による昇段をお考えですか?」
山上会長の考えらしきものを舞さんが代弁する。
実はかるたの昇段基準には大会で好成績を上げる以外にも『各会の代表者が実力相応と認める者』というものがある。みーくんはそれに応じた昇段を検討しているわけだ。
小学生の頃は公認大会に出場しなかったため、みーくんは今まで段位というものを取得したことがない。その当時から、少なくとも初段や二段ぐらいの実力はあったと思うけど……
「私はすぐにA級、四段をあげてもいいと思うけど……」
「ええ!? さすがにそれは早すぎると思います!」
舞さんがそんな提案をすると、私は思わず大声で反応してしまう。
「結姫ちゃん、毎日、練習してて、彼の強さ感じない? 私、ちらっと見ただけでもA級の大会出てポイント獲得できるぐらいの強さあると思ったんだけど……」
ポイントというのはA級の大会に4位以上に入賞することでもらえるもので、選抜大会などのタイトル戦などの出場にも関わってくるA級の実力を表すようなものだ。
「まだ、彼にはいろいろ足りない部分が多いです。ただでさえ、大会経験乏しいですし。それに彼、かなりナイーブなんです。さっきのスピーチ聞いてもわかりますよね!? もし、A級デビュー戦で名人、クイーンクラスの選手に当たってみてくださいよ!」
「あ、あぁ……確かにそれはきついかも」
「それに体力面も不安です。まだ、トーナメントを勝ち抜いた経験がないので……」
「どうも、花山さんは四条君の実力を低く見積もってるようやなー。なら、舞ちゃんが取ってみるか?」
「え? 舞さんと……?」
山上会長の提案に私は驚く。いや、みーくんと舞さんじゃ……
「その試合内容でC級かB級か……A級にするか判断しようやないか。それでええかな? 舞ちゃんも」
「私はそれでいいと思います。実際、ざっと見ただけですが、四条君の取りは今日いた選手の中では根本的に他と違いますし、普通に彼と試合取るのが楽しみです」
とんでもないことになった。
大丈夫かな? 私は楽しみよりも不安の方が先に出てしまう。今日はとてもいい感じでいつもよりも楽しそうにかるたして、躍動してたみーくん。それが舞さんと試合して、束負けでもして自信をなくしちゃったりしたら……
でも、いきなり、E、D級で出るような強さじゃないというのも一理ある。
「結姫ちゃんはどう?」
やや納得しかねる私の表情を慮った舞さんがあえて確認をとる。
「では、近いうちに私の家、花山家の離れでお願いします。せめて、試合をする場所だけでもこちらにアドバンテージをください」
「おう、わかった。じゃあ、それで決まりやな。また、楽しみが増えたわ」
山上会長が上機嫌で了承する。私は楽しみと不安が同居している。せっかく、みーくんがようやくかるたに対して前を向き始めたというのに。
でも…………私以外の人と取っていたみーくんはなんか、私の知らない面も見せた。
他人と試合すると、あんな取り方するんだなって。
特に舞さんが読みを止めた時に『しの』『しら』を払った時なんか、あんなに早く反応しすぎることなんてない。みーくんも久しぶりの外での試合で気持ちが高ぶったんだろうか?
それなら、舞さんのような超A級と対戦したら、どうなるのだろう? そんな興味や期待も私の心の奥底にあった。
***
「あー、さすがに疲れたなー」
帰りの電車に揺られながら、光輝は独り言のように漏らす。考えてみれば、普段の日曜はイベントでもない限り、昼過ぎぐらいまで惰眠を貪る。朝7時前には起きたのだから、かるたの試合抜きにしても疲労と眠気はきつい。しかも1日で3試合取ったのなんていつ以来だろ? と思うぐらい久々だった。
「起こしてあげるから、寝ときなさい。帰ったら、私とも一試合取ってもらうんだから」
「はー? さすがに今日はきついだろ」
「みーくんは取ったかもしれないけど、今日は私、試合だけ見せられて試合してないんだから。言っとくけど、私も明星会の練習で4試合した後もみーくんと取ってる日あるんだからね」
「ゆき姉、タフすぎるだろ……」
こう言ってる以上は帰宅したら大会後の反省会かるたは避けられそうにない。あきらめるかと肩をすくめると、光輝はおもむろに制服の左の胸ポケットに入れていたお守りを取り出す。
「みーくん、それまだ持ってたんだ?」
光輝が手にしていたのは「幸福守」と書かれた薄い青色をした近江神宮のお守り。これは10年ぐらい前に行われた小中学生選手権に二人が初出場したときに光輝の母がお守りにと光輝と結姫に贈ってくれたもの。ちなみに結姫にはピンク色っぽいした方を渡していた。
「母さんの、形見みたいなもんだからね」
「今日はご利益あった?」
「いや、なかったなー」
「あら、そうなんだ」
光輝はお守りを指先でつまんで、それを見つめながら言う。10年前は手を丸々使って握りこんでいた。
(いつも大会ではこのお守りを握って、母さんの顔を見てたっけ? 正直、お守りよりも母さんの喜んでる顔が一番、ほっとしたし、落ち着いたよな。だから、今日はそんなことを思い出したなぁ……)
と、光輝は試合中のころころと表情や振る舞いが変わる結姫の姿を思い浮かべつつ、それをかつての亡き母の姿に重ねたのか、しみじみとする。
「でも、今日はゆき姉がいたから、頑張れたよ。これがあっても俺一人じゃ心折れてたね。ありがとな、ゆき姉」
不意に光輝が素直に感謝を述べると、結姫はなんか目をパチクリさせて固まる。すると、バン! バン! と光輝の太ももをはたいてくる。
「やめて、痛い! 痛い!」
やめて! 今日、めっちゃその辺、筋肉痛だから! と態度で光輝は抵抗する。
「もーう、バカ!」
電車の中だってのに迷惑を少しは考えろよ、この女は。
(舞さんはともかく、一体、女子高生とかはどこにゆき姉にあこがれる要素があるのやら……)
そう光輝が思っていると、はたいていた手を急に止めて、結姫が静かに口を開く。
「ねえ、みーくん」
「なんだよ」
光輝を呼んだあと、しばらくの間、俯く。
(みーくん、気づいてないかもしれないけど、久しぶりに楽しそうで充実した顔してたのよ。私ね、そんな、みーくんの顔を見たら、泣きそうなほどうれしかったの。今日は結果を残してくれたことよりも、それがなによりもうれしかった。私はみーくんがかるたを大好きなこと知ってるから、その好きを表現してくれて……この日々が少しでも長く続いてくれるといいな)
心の中でそのように語った。
「ううん、なんでもない」
「なんだよ」
結姫は含みのある言い方をしたが、光輝は特段、追及しなかった。
そして、帰宅後、今夜も激しく取り合った。光輝にとっては激動の一日だったが、最後は変わらぬ日常だった。
これで、一旦、1章のようなものは終了です。ここまで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。
もうちょい、ストックありますので、そのあたりまではあげようかなーと。




