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光輝、7年ぶりの対外試合⑨~試合終了後の一幕~

 一方、仙崎は試合後、顔面蒼白でふらふらした様子で春日山のかるた部が集まったところへと戻った。二試合目の中で試合時間が最も短かったのだが、それでも二試合目を戦った誰よりも疲労困憊の様子だった。


「あ……せ、先輩、お疲れ様です」


「せ、仙崎先輩、どどんまいっす」


 取り巻きの部員たちもかける言葉選びや対応に苦心してそうだ。どちらも見ててつらくなる。


「ま、こういうこともありますよ!」


 一人の部員が楽観的なことを言うと、仙崎がその部員をジロッと睨むが、すぐに「ハァ……」とため息をついて、覇気のない顔で力なく口を開く。


「お前、わかってへんなぁ。今の俺じゃ、あいつと何回やっても同じ結果やわ」


「え……?」


 いつもは自信過剰な様子の仙崎がそんな言葉を発するのが意外だったのか、取り巻きの部員たちは目を疑うといった表情をする。


「ゾッとするわ、あいつ…………試合取ってて、こんな風に思ったのは初めてや。無段どころかA級と実力変わらんのちゃうか? 去年の主将の美由紀先輩もA級やったが、ここまでちゃうかったぞ? 美由紀先輩は差こそあったけど、取れる札もなんぼかあった。でも、あいつから取れそうな札なんてほとんどなかった」


「でも、何枚か取れてたじゃないですか。最初の『む』とか」


「あれは序盤やし、あいつにとっては眼中になかっただけや。そもそもな、今のあいつとの試合、俺は狙ってる札は1枚も取れんかったんや」


 仙崎が真っ青な顔でわなわなと震えた表情で語る。その表情を見た取り巻きもただならぬことだとようやく認識したようだ。


「あいつ、マジでやばいわ……特にあれなんか意味わからん」


 仙崎が思い出したのは、舞が読みを止めたときのことだ。


『いっけね。早く反応しすぎたなー』


 次元が違う。

 目指す場所がわかるからこそ、なんとなくイメージできる。こんな言葉が出るのは彼とは見えてる世界が根本的に違う。

 そこにさっきの試合相手である光輝(みつき)とその横に並んだ結姫(ゆき)が通りかかる。


「まったく、みーくんが来ることわかってたら、お弁当つくってきてあげたのに~」


「がっつりした弁当は胃がもたれて試合に支障出るからやめろ。朝のきつねうどんとゼリーだけで十分」


「もう、そんな食生活してたら、栄養偏るよー。ただでさえ、みーくん細いのに」


 光輝と結姫が昼休憩で昼食を取ろうと、仲良さげにしゃべりながら柔道場を出ようとした矢先に仙崎ら春日山かるた部のグループの近くを通りすぎようとした。


「お、おい!」


 それを仙崎が呼び止める。光輝と結姫が振り向いた。


「お前、さっきのなにが『早く反応しすぎた』やねん!」


 そういうお前らこそ、さっきまでの俺の見下した態度はなんやねん? と言いがかりに対して聞き返したいところだが、ちゃんと会話を成立させようかと光輝は仙崎の言い分に耳を傾ける。

 一瞬、なんのことかわからなかったが、舞が読みを止めて、『しの』と『しら』を払い飛ばした時のことを言ってるのかと光輝と結姫は感じ取った。


「あー、あれか」


「ぼろ負けしてる俺への当てつけか!」


「別に当てつけでもなく、言ったまんまなんだがな~」


 どう説明したもんかと、光輝は頭をひねる。


「あれは57枚目で『うかりける』が読まれた後だったか……まだ、場に『しの』と『しら』が2枚あって、『し』で反応するには早すぎるだろ?」


 光輝が発した言葉に結姫以外の一同が唖然とした。というより、光輝が発した言語が理解できない様子だ。


「で、でも、俺の陣に2枚あったから、『し』決まりになっとるやんけ!」


「じゃあ、なんで『しの』や『しら』でもない『失礼しました』の『し』で反応してるんだって話だろ? だから、早く反応しすぎたって言ったんだよ」


 光輝は「しの」「しら」と「失礼」の「し」は同じ「し」でも全然、音が違うよ、というニュアンスで伝えたつもりだった。

 だが、説明すればするだけ、この感覚的な話が仙崎達には余計にわからないという顔になっていく。


「行こうぜ、ゆき姉」


「う、うん。じゃ、じゃあね~」


 付き合ってられないとばかりにずかずかと歩いていく光輝に結姫は春日山のかるた部の部員たちに手を振ってから、光輝にすぐ追いついてその横を歩いていく。

 さっきまでの無段の光輝なら、何を荒唐無稽なことをとバカにされていたことだろう。だが、仙崎相手に無双した今は違う。


(さすがは6年も結姫ちゃんの相手を毎日してるだけあるわね。あの子、根本的に他の高校生とはレベルが違いすぎる…………)


 そのやり取りを見ていた舞も光輝の異質な何かを感じ取っていた。

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