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光輝、7年ぶりの対外試合⑧~無段のかるた選手が二段の優勝候補に無双する~

(チャンス! 終盤勝負に持ち込ませないようにここで一気に差を広げる!)


 こうして、ギアを入れた光輝(みつき)は快調に札を取っていく。どんどん差は開き、たぶん、一試合目の仙崎がしていたような展開で試合が進んでいるのだろう。場にある札は仙崎陣20枚、光輝陣が3枚と大勢は決したといっていい。ただ、困ったことがある。


(これだけ、リードしてる場合…………どう、取ればいいんだ?)


 いつも、結姫(ゆき)と練習するときは大量リードを奪われるか、勝っててももつれる展開ばかりなので、自分が大量リードした展開というのはほぼ未体験なのだ。小学校までやってた頃はよくあったが、その頃は何も考えずにがむしゃらに相手陣だけ狙っていた。


(これも相手陣、ガン狙い? ただ、まだ、読まれてない空札や決まってない札も多いしな~)


 そうなのだ。そういう事情もあるから、よーいドン! で相手陣を攻めに行くわけにもいかない。

 とはいえ、相手も劣勢で自陣シフトで来てるから、相手陣をシンプルに狙っていくしかなさそうだと光輝は腹をくくる。

 さすがに守りにシフトしたことで、1字札や1字決まりになった札は取る仙崎。

 だが、仙崎が2枚取った後、光輝も仙崎陣を攻めて、仙崎が反応しきれなかった札をタイミングよく手を伸ばして払う。残り2枚。

 光輝は引き続き、相手陣への意識を強くして、勝負を決めに行く。


「はげしかれとはー、いのらぬーものをーーー」


 舞が今の出札である「うかりける」の下の句を読み、次の句を詠もうとする。

 1、2、3……少し、いつもより余韻が長い。だが、光輝は舞から発せられる次の1字目の音に全神経を働かせる。

 他の全員はタイミングが取れなかったのか、喉の調子が悪かったのか、読みが止まったと思ったようで、緊張を解いていた。


「しつれ…………」


 実際に読みを止めた舞が「失礼しました」という言葉を発しようとした刹那、


 パチンッ! パチンッ!!


「「「 !!? 」」」


 何かが炸裂したかのような高い音を鳴らし、仙崎陣の札が2枚左右に弾けるように飛んでいった。それに呆気にとられる目の前にいる仙崎と柔道場内の全員。


「あ、失礼しました」


 その音を立てた張本人である光輝が左手を挙げて言って、払った2枚の札を取りにいく。ちなみに払ったのは「しのぶれど」と「しらつゆに」の札だ。


「いっけね。早く反応しすぎたなー」


「…………!?」


 光輝が左手で頭を掻きながら、飛ばした札を取りに行く。相手にしている仙崎はすでに顔をあげることすらできなかったばかりか、今の光輝のセリフを聞いて愕然とする。

 完全に心と天狗の鼻をポキっと折られた。部内ではお山の大将はその山をも完全に崩された格好になった。


(私の「失礼しました」の「し」に反応したの……?)


(みーくん、ちょっと早くいきすぎかなー? こんな一方的な試合になること少ないしね。というか、そんなにYouTuneカード1万円分ほしいのかしら……?)


 今の取りを見て、舞をはじめ驚くを通り越して、恐怖すら感じている他校の部員たちと違い、いつもの取りと比較できる結姫だけは冷静に今日の光輝の調子を分析していた。


(長身とそのリーチを生かした相手陣への高速の渡り手…………伸びるように加速する手で自陣、敵陣、縦横無尽に払うあのかるたは…………あぁ、重なって見えるわ)


 そんな中、今の取りに目頭を熱くする人物が場内にいた。


(大阪明星会、唯一の名人……四条悟元名人に)


 重ねたのはかつての山上会長の教え子の一人、光輝の父親の若かりし頃の姿だった。


(やはり、血は争えんな。まだまだやけど、成長してかるたも似てきた。舞ちゃんにはええもん見れるからって誘ったけど、ええもん見せてくれたのはワシの方やったな……)


 そんな光輝が巻き起こしたひと騒動の後、気を取り直して、次に読まれたのは「これやこの」。光輝が自陣の右下段にあったこの札を払い飛ばすと、仙崎も自陣の「このたびは」の札を自陣右側の札もろとも払い飛ばしていた。


「ん?」


 いわゆるセミダブとなった。光輝が自陣を取って、1枚減らして、相手がお手付きをしたので、光輝は札を1枚送るということなのだが、出札を取った直後は事態が飲み込めず、出札を取りに行った。


「あ、そっか」


 とりあえず、出札を取って、自分の席に戻ると、自陣に残った1枚を仙崎に送って試合終了となった。光輝と仙崎はお互いに相手、読手へと一礼をして、試合で使用した札を集める。光輝は無表情で「あまつかぜ」の札を上にして、50枚の束を手にする。

 周りはまだ試合をやっている。むしろ、他のところはほとんどが拮抗しており、これからという大事な局面だ。読みが読まれ始めると、光輝は胡坐をかいて、気だるげな感じにひざに右手を置き、手をあごに乗せた。


(不思議なやつや…………試合中とは別人やないか。今はボケーっとした顔してるのに、試合中になると、なんというか…………)


 仙崎は今の気だるげな仕草を見せる光輝を見て、そんなことを考えていた。

 上手く言葉に表せられないが、どうも札に集中している時の光輝の様子はオーラというかなんというか、目つきが刃物のように切れ味鋭いものになるようである。


 一足早く試合を終えた光輝は集めた試合の札を持って、受付のテーブルへと向かう。受付の斎藤先生に結果と枚数差を報告すると、光輝は壁際の方へと身を預けるように座り、他の試合を眺めて時間を潰そうとする。

 そこへ舞が読んでるので、試合進行と見回りの代役を務める結姫が壁にもたれかかる光輝のもとへと近づいてきた。


「何枚差?」


 結姫がややにやけつつ、ドヤっとした顔で聞いてくる。なんか、光輝はその様子を見て、妙に腹立たしさを覚えた。


「19枚差で四条が勝ちました」


「はーい、みーくんの勝ちね。でも、19枚差かー。残しすぎというか……」


「ん? なんだよ」


「最後の方、音に早く反応しすぎたわね。そんなにYouTuneカード1万ほしかったの? 必死で笑っちゃう」


 クスクスと口元を手で隠しながら話す。


「仕方ないだろ。俺、自分から大量リードするっていう経験ないから、最後の方、どう取ったらいいのかわからなかったんだよ」


「あー、そういえば、そうね」


「もうちょい、もつれると思ったから、思わぬ大差でいつの間にか勝っちゃったって感じ。だから、最後は相手陣抜いて、終わりたかったなー」


「その辺は今度の練習でやってみる? 私もビハインドを取り返す練習したいし」


「あぁ、その時はよろしく頼む」


 ここまで、やや見下したように見ていた周囲の他校の部員たちの光輝を見る目はいつしか、畏敬の念を込められたものに変わっていた。

この話にある読手の「失礼しました」の「し」に反応して、「しの」「しら」の友札を渡り手で吹っ飛ばすというのはとある名選手の実話です。

よく配信で某すごい漫画の世界は実在したのかってコメントを見かけますが、マジで実在するどころか競技かるたでは日常の世界です。

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