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光輝、7年ぶりの対外試合⑤~無段と二段の男が対峙する~

「「ありがとうございました。ありがとうございました」」


 光輝(みつき)と佐藤は相手と読手の方を向いて、お互いに礼をして試合終了。光輝は札を持って、受付のところへと向かって勝敗と枚数差の結果を言う。

 しかし、勝つっていうのは楽じゃねーなーと思っていると、次に戦う予定の春日山の仙崎拓矢の試合の結果が目に入った。


 〇仙崎拓矢・二段(春日山) 20枚差 畑山愛・初段(桜花女子)●


(うわー、二束勝ちかー。けっこう、今の試合疲れたんだよなー)


 連戦でこんな相手を迎えるのはなかなかつらいと、気が重くなりながらも、光輝はのそのそと結姫(ゆき)のところへと無言で戻る。まだ、試合をしているところが残ってるため、音を立てられない。そして、上の句が読まれて、試合が止まった瞬間。


「お疲れさま。みーくんにしてはちょっと手こずったわね」


 結姫がジト目かつニヤニヤしながら聞いてくる。

 普段のかるたの大会での結姫はどうも舞と同じく大和撫子キャラで通ってるのか、こういう顔をするのは意外のようで他校の人らは呆気にとられたような様子で見ている。


「ちょっとどころじゃないぜ。もう、中盤ぐらい心折れかけて、マジで負けるって思ったんだからな」


「でも、負けなかった。ブランク明けの大会の試合としては上々の取りじゃないかしら。これから、みーくんの本当の実力を見せてくれるのお姉ちゃん楽しみにしてる」


『今日はいつにも増して世話焼きだな、ゆき姉。とことん、保護者のおばちゃんみたいだな~』とか思ったのだが、口に出すと、A級仕込みのビンタ飛んできそうだから、口に出すのは我慢した。


「さぁ、どうなんだろうね」


「それは次の試合でわかるでしょ」


 そう言って、下の句が読まれ始めて、二人は口を閉じる。残った試合の行方を見守る。


 そして、一試合目が終わった。

 受付のテーブルの上に書かれた対戦表と組み合わせの席の位置を見て、速やかにそれぞれが自分の席へと向かおうとした時だった。


「おい、お前、俺の飲み物も用意してないんかい。気が利かん奴やなー」


「あ、はい。すいません」


「仙崎さん、次の相手の情報とか大丈夫ですか?」


「あ? お前、佐藤に6枚差でやっと勝ってるような奴が相手やろ。そんなんに俺が負けると思ってるんか?」


「い、いえ、そんなことないです」


 なんか、後輩部員に関西弁でイキり散らかしてるのがいる。


「なるほどな、あいつが次の相手か」


 光輝が声の主であるイキり関西弁野郎こと仙崎を認識して言う。


「そっ。まあ、私や舞さんの前じゃおとなしくなるんだけどね。去年まではA級の先輩いたからおとなしかったんだけど、今年は部内だけじゃなく、府内の高校生じゃ今のところ、一番強いから、なんか変に調子乗ってるって噂ね」


(なるほど、内弁慶みたいなやつってことか。なんか、昔の俺みたいだな)


 なんて思いつつも、この面子の中では実力が高いのは確かだろう。光輝は先ほどは自分も試合をしていたため、他のところの試合を見る余裕はなかったが、初戦は20枚差と圧倒していた。確かに場には慣れてきたが、勝てるどころか普通に負ける可能性すらあると思っていた。


「まあ、みーくんが負けたら強化練習の時にわからせてやるけどねー」


 さらりと笑顔で言ってるけど、般若の仮面が見えるのは気のせいだろう。


「俺もやるからには勝たせてもらうけどな」


「おっ、強気」


「YouTuneカード1万円かかってるからな。意地でも勝つぜ」


 光輝は決め顔でそう言った。


「それ、忘れてなかったのね」


 結姫はその様子にほとほとあきれた感じで言うと、なんか力が抜けたようである。


「ま、みーくんなら、()()()()()()()()勝てると思うよ」


「おっ、そう?」


 結姫が意味深に告げたことに対し、光輝がきょとんとした様子で聞くもそこは自信なさげに答え、指定された席へと向かった。

 所定の位置にそれぞれが座り、光輝と仙崎が向かい合う。仙崎は身長170ちょいの普通の体型の長すぎず短すぎずの黒髪が爽やかな男子高校生といったタイプだ。

 見るからに頭が良さそうなルックスでさすがは進学校の高校生という感じだ。第一印象だけなら、さきほどまで後輩にイキリ散らかしてたようには見えない。

 ただ、明らかに光輝とは人種が違うのがわかる。

 光輝は翔国高校の普通コース内では成績上位だが、全国的な模試とかは最低クラスだ。

 よって、勉強もスポーツもダメな光輝としてはそれ以外で負けると、この世界での存在意義がなくなってしまうことになる。意地でも負けたくないところ。


「おい」


 自陣に並べる25枚の持ち札を取ろうと、50枚の札をお互いに混ぜている最中に光輝は仙崎に声をかけられる。


「お前、なんか花山さんや桑野さんと仲良さそうに話してんな、どういう関係なんや?」


「…………」


 たぶん、仙崎は光輝を煽っているのだろう。光輝はそれを無視して黙々と札を混ぜる作業と持ち札を集める。


「おい、聞こえてるか?」


 一応、光輝は聞こえているのだが、単に試合時間は始まってるから、試合に関係のない会話は極力しないようにしただけだ。

 仙崎はそんな様子にいら立ってるようだが、そもそも、この日がお互い初対面の相手に対して、馴れ馴れしくしゃべるものでもないだろう。光輝はそんな様子はスルー。


「こっちに1枚くれないか。そっち、26枚あるだろ?」


「ん? いや、お前、まず、俺の言ったことに……」


「それとも俺24枚、そっち26枚の状態からやってくれるのか? 俺は全然いいけど、それで俺が勝っていちゃもんつけられると困るからな。やっぱ、公平に25枚でやろうぜ」


 光輝の淡々とした受けごたえに毒気を抜かれたのか、仙崎は「チッ」とあからさまに舌打ちをして、不満顔で光輝に1枚、投げ捨てるように渡す。光輝はそれをパシッと空中で指で挟んで受け取る。

 仙崎は周囲からは「お前、札投げんなよ」っていう視線や空気を感じているのだろうか。

 それとも知ってて、ただ鈍感なのだろうか。自分なら、この空気は耐えられない。

 しかも、礼儀とかに厳しい山上会長や重鎮、舞、結姫といった精鋭が見ている中で、だ。

 むしろ、こいつ、けっこう大物なんじゃないか? と光輝は思うようにすらなった。


「それでは、2試合目、暗記時間に入ります!」


 舞が通るような声で言って、各選手が暗記に集中し始める。光輝も足を崩して、胡坐をかき、両手を背中の後ろの方で突き、札の配置を俯瞰して見ながら、頭に入れていく。

 彼なりの集中法なのだが、人によってはやる気なさげに見えるし、行儀が悪いと言われても仕方ない。みんなも胡坐とまでは言わなくとも、足崩してる人は多いのだが。女子とかいわゆる女の子座りの人もいる。


「あの人、さっきの試合勝ってたよね。無段だからE級らしいけど、山田君、知ってる?」


「いや、1月や2月に出た大会では見かけなかったけどなー」


「E級って言ってもD級ぐらいの実力はありそうだけど、仙崎先輩なら余裕でしょ」


「ああ。仙崎先輩、今はC級だけど、三段クラスの力だからな。今日も調子良さそうだし、勝負になんねーよ」


 春日山の部員がひそひそと展望を語っているが、全部、丸聞こえなんだよなーと光輝は暗記に勤しむ。

 ただ、そう思うのも無理はないだろう。先ほど、チラッと部員間での様子を見ていたが、仙崎は少し人格的には問題あるのかもしれないが、今の春日山では実力的には抜けているから、慕っている人もいるようだ。まして、相手は無段の光輝で大会の出場は久しくないときた。

 光輝は札の暗記と同時に相手陣の札の配列を見て、相手の対策と試合のプランを思案する。


(さっきの試合では初段相手に20枚差で勝ってる。考えられるのは平均的な初段の選手よりは確実に強いってことだな。高く見積もって、以前で言うA級に近いB級と考えた方がいいか……

 ここまで差が開くということは序盤の感じがいいスタートダッシュ型、あるいは決まり字に対し、同じタイミングで満遍なくとれるタイプか? ……と、なると、どちらにせよ、さっきの試合のように序盤は様子見の中盤から終盤勝負のプランか。俺が終盤勝負できるほど食らいつけるかわかんねーけど)


 (この四条ってやつ。段なしみたいやが、定位置を見た感じ、ただのE、D級の選手ちゃうな。浮き札使った配列しとるし、かるた始めて、1、2年とかそんなレベルやないな。子ども会とかで昔はやってたけど、高校に部がないから、大会に出てなかったってだけちゃうか……? でも、さっきは桜花の佐藤に接戦でようやっと勝ってたみたいやしな。普通にやれば負けへんやろ)


 光輝が仙崎の取りのタイプを考えながら暗記している頃、光輝の目の前にいる仙崎は無段だと見下しながらも、札の配列を見て只者ではない無段だと思っていた。さすがに二段なだけあり、ほかの選手よりも実力差に関しては敏感のようである。


 ついでに大阪の年下のかるた選手にとって舞や結姫が見てる中での試合は緊張感と同時にみんな、二人に一目置かれたいという欲も出る。それは仙崎も同様だった。


(それにしても、今日は運がええな! 桑野さんだけじゃなく、花山さんまでこんなローカルな予選会に立ち会ってる。俺の力と素質をアピールして見せるで!)


 この場にいる中で純粋に競技と向き合っているのは意外と少ない。みんな、それぞれが思惑や邪念がある。


(ま、でも、こいつに勝てればグループリーグ1位通過、YouTuneカード1万円分に大きく近づくわけで。しかも束勝ちなら3000円分上乗せ! まずは勝てるかどうかもわからないけど、狙えるうちは狙っていくか!)


 いや、この男が一番、試合に向かっている目的が不純かつ不誠実であった。

 光輝は自虐気味に苦笑いを浮かべつつも、父親からの景品を楽しみにしながら、上機嫌で札の配置を頭に入れていく作業をリズミカルにするのだった。

舞台が大阪なので、一人ぐらいは関西弁しゃべるキャラを付けた方がいいかと思って、仙崎は関西弁にしました。当初はもうちょっと、性格もゲスい感じのチンピラにしようと思っていましたが、進学校だとそういう人は少ないと思うので、少しマイルドに変更しました。

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