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光輝、7年ぶりの対外試合③~結姫サイド~

 私、花山結姫(はなやまゆき)はみーくんの試合開始前からの異変に気が付かなかった。

 彼にとって、こんな柔道場のような環境、音の通り具合、かるた歴は出場者中、最長クラスでも全てが彼にとっては初体験。

 しかも、大会らしいものも久々……実力を発揮できる要素がほとんどないといっていい。

 なんで、私はそこに気が付かなかったんだろう。気が付いたのは暗記時間が始まってから。

 いつもは札の配置なんて、5分あれば暗記できるのに、席を立つ気配がなく、拳を畳に突き立てたりして、この慣れない環境に順応しようと必死で集中できていない様子だった。

 そして、試合が始まると、1枚目を自陣で抑え手で取った時からおかしい。

 どうも、読み手とも波長が合ってないようだ。確かに緊張で声が上ずって、余韻にノイズが入るのは気になるけど、それでも全然競技に支障が出る程じゃない。

 だけど、みーくんは普段は専任読手の声が吹き込まれた「ありあけ」を主に聞いている。

 しかも、リズムもまだ若干不安定なところもある分、彼にとっては今の殿山さんの読みは相当に聞き取りづらいはずだ。

 一方、同じ高校の佐藤さんは殿山さんの読みで練習したりするときもあるだろう。

 みーくんとは反対に有利な条件が揃っている佐藤さんとこれまで培ってきた技術で佐藤さんの抜け札を拾って、みーくんも離されない。試合は一進一退の互角の状況で進んでいる。

 しかし、20枚目の「おぐらやま」でみーくんの取りだったのに佐藤さんが揉めた結果、佐藤さんの取りになった。


(いや、明らかにみーくんの取りでしょ、あれ)


 試合が終わったら、彼女に指導も兼ねて注意をしておこうと思う。大阪明星会は舞さんを筆頭に強さだけでなく、正確な技術に品行方正さも求められる。

 あんな試合を毎回させられては大阪明星会や指導している山上会長などの品性が疑われてしまうからだ。ただ、原因の一端はみーくんが力を発揮できていないのと、彼が揉めることに慣れていないから。

 これは私もちゃんと軽く教えておくべきだった。普段の練習では揉めることなんてないし、そもそも、普段のみーくんなら、()()()()()()()()()()()()

 だから、取りで、しかも初段相手に揉めるっていうことは普段の力とは程遠いということ。

 どうにかして、普段通りの力を発揮させてあげたいけど、試合中だし、「がんばれ~」なんて言えないから、祈ることしか…………

 ん?

 ふと、少し横にずれて、みーくんの方を見る。そして、私はある物がないことに気が付く。


(ああ!)


 むしろ、なんで今まで気が付かなかったんだろう。私は思い立ったが即、立ち上がり、会場である柔道場を一旦出た。

 学校内を駆け回る。少し方向音痴な私は入り組んだ校内に迷いつつも、なんとか校舎の入り口の事務所みたいなところを探し出し、なんとか見つける。そして、事務員の方に尋ねる。


「すいません! ここ、和室ってありますか!?」


「うちは和室ないのよ。かるた部も視聴覚室に置き畳を敷いてやってますしね」


 事務員のおばさまが申し訳なさそうに言う。


「そ、そうですか……わかりました。失礼します」


 和室のない学校ってあるのね。

 でも、がっかりしていられない。確か駅前にデパート入ってそうなビルがあった。

 その中にもしかしたらアレが売ってるかもしれない。こうしちゃいられない。急ごう。

 私は校門を出ようとしたところで、事務所の中にある職員さんの使ってる椅子の座面に置いてあるものが目に入った。それは私の探してたアレに近いものだった。


「すいません! ちょっと、それ借りていいですか!!」


「え? それってこれのこと」


「はい、そうです! あのー、終わったら返しますので」


 私が突然、アレを指さして必死な形相で言うものだから、事務所のおばさまも不思議そうな顔をしつつも、「別にいいけど……」と、すんなり私に手渡してくれた。


「ありがとうございます! 帰る時にお返ししますので」


 ちょっと、小さいけど十分だと思う。これで、少しでもみーくんが落ち着きを取り戻して、力を発揮してくれれば…………そんな思いを込めて、私は例のブツを持って柔道場へ戻ることにした。

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