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光輝、7年ぶりの対外試合①~試合のはじまり~

 光輝(みつき)は荷物を置いてから、そそくさと集合場所の柔道場の中心へと向かう。他の人とは違い、かるた部とかの部活に所属してるわけではないので、一人、集団から少し離れて座りこむ。

 ここへ来て、光輝は自分への視線の正体がわかった。単なる疎外感かと思ったら、結姫(ゆき)や舞とつるんでるのを見て、「なんでコイツが」っていう視線を浴びているのだ。しかも男女問わずだ。男子の羨望の眼差しは二人の容姿と雰囲気を見れば仕方ないだろう。

 ただ、舞はその強さと凛とした振る舞いや容姿から女子選手がら目標や憧れにしてる人が多い。女子にも人気があるし、参考にしている人もいるならアドバイスも受けたい、でも、そんなの恐れ多いっていう人もいるだろう。

 光輝は最後にエントリーをした。当然、エントリー表を見て、謎の無段の男がいるというのは確認してるはずだ。そして、こう思ってる奴もいるのだろう。


「なんで、無段のコイツが桑野さんや花山さんと仲良くしてるんだ?」


 ……って。

 どうも、この大会、近年は有段者がエントリーの最低条件になってるらしいから、ただでさえ、無段の野郎が参加してるだけでも気に入らないのもいるってことだろう。


(まったく、俺は今日はこういった空気や視線も感じながら試合しなきゃならないってことか。ゆき姉が言ってた以上にアウェーを覚悟だな、これは……)


 そう思う光輝は今から、気が重くなる。


(親父は『せいぜい、遊んでこいや』って言ってたけど、そんな気分にはなれそうにないぜ。トホホ……)


 そして、会長や高校かるた連盟の会長役の先生の話や大会の説明などの開会式のような行事をあっさりと終えたところで、出場選手の名前とグループ分けされた用紙をもらう。既に試合の割り振りは決まっており、光輝の組のスケジュールはこんな感じだ。


 一試合目 佐藤奈津・初段(桜花女子)×四条光輝・無段(翔国)


 二試合目 仙崎拓矢・二段(春日山)×四条光輝・無段(翔国)


 三試合目 四条光輝・無段(翔国)×畑山愛・初段(桜花女子)


 どうも、光輝のグループの中に今年の世代では一番実力があるという例の二段の選手がいる。要ははずれグループを引いたようである。

 とことん、今日は運がないようだと光輝は辟易する。ソシャゲのガチャで運は使い果たしちゃってるからね、しょうがないねと割り切って、乗り切ることにした。

 そして、早速、一試合目が始まる。


 一試合目の相手は桜花女子高校2年の佐藤奈津。初段に上がって、しばらく経つといった情報をくれた結姫は「普通にやれば勝てるよ」と言ったものの光輝は試合が始まるというのに足を踏み入れた瞬間からの違和感が全く拭えない。

 というのも、この柔道場の畳、柔らかすぎるのだ。

 ぶよぶよしてるわけでもないし、フローリングの上に御座を敷いたみたいに固いわけではない。膝への負担はそこまでなさそうなのだが、この柔らかさが問題だ。いつもの和室の畳に比べると、柔らかさに張りがないのだ。

 さっきから、手を突いたりして、感触を確かめたりして調整してるのだが、どうにもしっくりこない。もう、お互いに札を25枚ずつ並べ、暗記時間にも入っているのだが、全然、暗記に集中できない。


(あれ? みーくん、いつもは5分ぐらいしたら、ほとんど、暗記し終えるのに……どうしたのかしら?)


 相手が結姫以外だから、相手の札の定位置が慣れないものだとしても、それにしても時間がかかりすぎてるどころか、全然、頭に入っていない様子だ。

 結姫が直接、光輝のもとへと行きたいところだが、もう、今は試合中。部外者が勝手に干渉するわけにもいかない。光輝自身も目の前の札の配列の暗記にも集中しなきゃで考えることが多い。そして、さらに光輝は重大なポカに気が付いた。いつもに身につける備品のようなものを忘れたのだ。


(しまったぁ…………アレ、持ってくるの忘れてきたぁ。いつもゆき姉のとこには絶対にあるもんだから、持ってくるという概念がなかった…………)


 この暗記時間中、久しぶりの対外試合の光輝はずっと頭を抱えたままだった。


「2分前です!」


 大会運営をする舞からそんな声が上がる。この2分前の合図から、素振りなどのウォーミングアップなどをしてもいいことになっている。みんなが激しく素振りをする中、光輝は依然として胡坐をかいたまま相手陣の札を頭に入れているが……


(いや、ちょっとでも、ここでの取りの感覚も叩きこまないと……)


 もう、暗記をしながら素振りをするという付け焼き刃もいいとこだ。そんな時間も十分に得られないまま、


「それでは、始めます! 読手は今年の読手部門に出場する桜花女子高等学校・殿山三枝さんです」


 舞による開始の合図。さらに読み手は選手たちと同じく公認読手ではない高校生。聞きやすいといいんだけど……と光輝の不安要素がさらに増えた。場にいる全員がお互いに「よろしくお願いします」の挨拶を相手、読手の順にする。


「なにはづに~~~、さくやこのはな~、ふゆごも~り~」


 柔道場に殿山の高めの声が響く。


(うっへぇ…………申し訳ないが、これなら読み上げアプリはおろか昔のテープのが聞きやすいな~)


 全然、読みができない自分も言うのもなんだが……と心の中で突っ込む。

 緊張で声も上ずっている。序歌を聞いてだけでもそれがなんとなくわかる。

 光輝はなんか、余韻がビリビリとすると感じた。けっこう、これが聞き分けに影響してくる。これは慣れるまで苦労しそうだなと思いながら、光輝は慣れない読みの声と不完全な暗記ながらも試合に入る。

 1枚目、自陣にある「おおえやま」の札を光輝が抑え手でキープ。手が泳ぎかけたが、決まり字が比較的長い札で取ったというよりは拾っただけだ。とりあえず、まずは1枚取れて、光輝も隅で見てる結姫もホッとした。

 光輝は緊張よりもこの環境にしっくりこず、慣れるのに必死でそれどころじゃないが、結姫は自分が試合をしてるかのように緊張していた。

 その後は一進一退。基本的に光輝が自陣の決まり字の長い札を守り、佐藤は1字や2字などの決まりの短い札を取りに行くが、早すぎてお手付きをするなどしている。光輝はそうやって、なんとか札を減らし、相手陣は無理に攻めていかない。なかなかペースを掴めないが、相手陣の暗記や自分の払いや取りのフォーム、読み手との波長がしっくりこない以上、まだ序盤で無理をする必要はない。


(自分でいうのもなんだが、なんともじじくさいかるたをしてるな、俺……)


 あと、そういうじじくさいかるたをしてるのも、ここにはない忘れものをしてきたからだ。これはフィジカルにも影響を与えるため、慣れない柔道畳に加えて、膝にも負担がかかってきており、ずきずきと痛み出してきた。


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