表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ドッキドキ♡大好き過ぎる先生と秘密の特別授業♡

作者: キラ子
掲載日:2026/01/03

「霧島先生、好きです……」


……やらかした、と思った。


放課後の廊下。

外は雪、なのに。顔どころか全身熱い。

世界がピンクに染まる。

そうして、言葉が口からこぼれてしまった。



振り返った霧島先生が、私を見つめる。

恐ろしいくらい美しい切れ長の目が、いつもよりほんの少しだけ見開いている。

霧島先生の視界に今映っているのは、私だけ。



「……そうですか。」


大好き過ぎるテノール。

振られるよね…。わかってる。大丈夫。ちゃんと、青春の1ページにできるから。


「では、特別授業をしましょう。ついて来てください」



……え?


え??


そんなこと、私の人生にあっていいの…?

世界で一番好きな人と、二人っきりで、“特別授業”……!?


足下がふわふわして、とびっきり贅沢な夢を見てるみたい。


案内された空き教室。

霧島先生が、丁寧な手つきでドアを閉める。

一切ヨレのない真っ白なワイシャツのカフスが眩しい。


どうしよう、密室で、二人っきり。


使ってない教室の埃さえ、夕陽に照らされてきらきら、燦めいて……


黒板に、淡々とチョークで文字を書く先生の無骨に骨張った手に、目が釘付けになる。


そうして黒板に綴られた文字は……




『未成年に手を出す男はろくでなし』


霧島先生は教壇に立ち、棚に置いてある本を開く。


『児童の性的虐待について』






……授業内容それ!?



「まず落ち着きなさい。さあ、席に着いて。」


促されるままに 私は 席に着く。

先生に一番近い席。授業内容はこんななのに、硬い椅子が、最高級の特別席みたいで。



「あなたの感情は自然です。思春期ですから。しかし、大人として、それには応じかねます」


思わず俯く。

わかってたのに、わかってたはずなのに、期待しちゃった。

酷い。

私の気持ちを、「思春期のありふれた暴走」なんかにしないで……。

私はもう先生の気配だけで、頭がぼうっとしちゃうのに。

胸が締め付けられて、小さく溜息が漏れる。



「…あなたがまだ諦められないのは、表情で分かります。」


私は溜まりすぎた熱を発散するように、椅子に座ったままバタバタと足を動かしていた。ローファーが床にぶつかってカタカタと鳴る。


「でも好きなんですもん!!

やだやだ!!すきすきすきー!霧島先生!!」


こんなに叫んでるくせに、ちゃんと姿勢は座学フォーム。

大人しく座って駄々こねるという新境地。


「……落ち着きなさい。まず深呼吸を」


「はい…」


「感情は自由ですが、実際の行動に移すには、責任が伴います。ですから、あなたの感情は否定しません。しかし“未成年への踏み込み”は大人側のアウトです」


「アウトにしないで下さいよぉ〜〜!」


「私に言われましても、法律です」


ばっさり。ロジカルすぎて泣く。


「いいですか。未成年を恋愛対象にする成人男性は、同年代の女性と対等に向き合えない場合が多い。精神的に未熟と言っていいでしょう。

 自分より幼い相手を選ぶのは、自分が優位に立てるからです。」


私の恋心が、社会的事実でバッサリ切られていく。


「……ふ、不純すぎませんか……?大人って汚い…」


「そうです。だから私はそうしない。あなたの純粋な熱を、私の汚い不純で汚す権利は、私にはありません。」



霧島先生は歩み寄り、机の上に手を置いて私を見下ろす。大きい手に、目が釘付けになる。私のより、ずっと骨張って長い指。少しささくれた大人の手。


「あなたは私の大切な生徒です。ですから、私は黒板と教科書を以て全力で止めます」


「やだやだやだお願い止めないでぇ……!」


私は頭を抱え、悶え転がる。

止められて止まるような気持ちなら、私今こんなに無様になってないのに。


「というか!!そんな真正面に立ったりしないでもらっていいですか!?

本当に恥ずかしいし、本当に好きになっちゃうから!!

近いんですよ!!距離が!!」


思わず声が裏返る。


霧島先生はぴたりと動きを止め、淡々とした顔で黒板へ戻った。



「はい、適切な距離感について。

これが結論です」


「いま私、教材にされてません!?!?」


「教材として有用でしたので」


「やめてえええ教材にしないでえええ!!!」


羞恥で死ねる。

人の恋心をなんだと思ってるの、この人!?



霧島先生は黒板に追記した。


『距離は、より未熟な側が安全に感じるラインに合わせる』


「……距離、いるんですね……」


私は小さくつぶやく。


霧島先生は四角い眼鏡を押し上げ、静かに言う。


「必要です。しかし、それは必要以上に離れることではない。

あなたが安心して話せる距離。それが“適切な距離”です」


その言葉に胸がぎゅっとなる。

霧島先生の正論は、正しすぎて、淋しい。


「……はい……」


私からこんなか細い声が出るなんて、知らなかった。

でも、こんなところで引ける恋じゃない。


私はバッと手を挙げた。


「質問です!!」


「どうぞ」


「逆に!大人になっても霧島先生のことが好きなままだったら、そしたら私は……霧島先生に迫ってしまっても、いいんですか…!?」


心臓がドクンと鳴る。

もう、何もかも熱くて、止まらなくて、仕方ない。


霧島先生の呼吸が止まって、瞳孔が、開いた気がした。第1ボタンまで締められたシャツの上の黒いネクタイが、喉の動きに合わせて動く。


でもそれは一瞬で、すぐにいつもの霧島先生に戻る。



「自分で選べる年齢になったら、そのときの行動は自己責任です。」


「……つまり?」


無意識に、唾を飲む。

どうしよう、先生に聞こえてたら……。


霧島先生はまっすぐに私を見た。


「大人になり、自分の人生に責任を持てるようになったら……

誰に好意を向けるかも、行動も、あなた自身が決めることです」


霧島先生のさっきのあの表情、「気のせい」なんかにしたくない。お願いだから……本当のことを教えて、先生。


「じゃあ……今の私のことは、どう思ってますか?」

思わずスカートを強く握りしめる。



霧島先生は言った。


「私は教職にあり、あなたは未成年です。

 “好きかどうか”という視点であなたを見ること自体、私にはできかねます。」


正論が刺さる。


「で、でもじゃあっ……大人になった私が本気で迫ったら、霧島先生は……」


言いかけたところで、霧島先生は制した。


「その答えは、今ここで言うべきではありません」


「えぇーーー!?なんでですか!?」


霧島先生は淡々と言った。


「未来の関係は、未来の自分たちが決めることです。

あなたはまだ成長途中で、そして時間が経てば感情は変化するものです。


しかし、あなたが大人になっても、変わらず同じ気持ちを持ち続けていたなら……

その時は“あなた自身の意思で取った行動”として、改めてお話を聞きます」


胸の奥がドクンッと跳ねた。


「……聞いてくれるんですね……」


「ええ。


……必ず。」



やだ……

なんでそんな言い方するの……

狡い。ひどい。

そんなんじゃ私、先生との未来ごと想像して、期待して、本当に好きが止まらなくなってしまうのに……人が人をこんなに好きになれるなんて私知らないのに。

私これで、本当に霧島先生から、逃げられない。


私は為す術なく、熱すぎて多分大変なことになっている顔を両手で隠した。


「……はぁぁぁ………


好き……」


「聞こえています」


「きゃーー!!!!」


おしまい!!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ