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47話 CEMボーグ

 「…………お前たち、いきなさい」

 声を震わせる男から命令を受けたメイドが少女たちから一歩前に出た。

 少しだけ表情を歪ませた彼女が両手でその身を抱いたかと思えば、体の尾骶骨辺りが膨らみ、スカートから触手が伸びて後ろに控える少女たちに突き刺さる。


 「「「「「グルルッ、グルウウウウ、グオオオオオオオオオ!!!」」」」」


 少女の体から人間のものとは思えない叫びが発せられた。

 富士機械化要塞に木霊するそれは少女の口から発せられたものか、その蠢く胎内から発せられたものなのか。

 私の胎内のCEM幼体もその叫びに反応していた。

 怪物には怪物をぶつけるということだろうか。

 「ははははっ、いけ! 私の研究成果たちっ!」

 触手を刺された少女が咆哮しながら怪物へと変態していく。

 その見た目は頭に角が生え、背中に羽が生え触手が生え、体表面が鎧で纏われ、腕がロングソードになり、足が蹄にと――体に起きた変化は様々だった。

 そんな多種多様に変態する怪物たちにも共通点があった。

 それはその体がベースとなった人間の形からは大幅に逸脱していないという点だ。

 だとすればその名称は、怪物というよりも怪人と呼んだほうが適切な気がする。

 「なによ、こいつら。これが人間だというの……?」

 CEM幼体を体に宿しながらも人間の姿を保つプラーズの少女たちと比べ、あまりにも怪物に近づいた怪人たちの姿に私の人間の部分が恐怖していた。

 そのような化け物からプラーズを、ひいては自分自身を守るためには、どうすればいい。

 体を改造しても心は人間のままの私は、どうすればいい。

 この怪人の全てを私一人で相手にするためには力が必要だった。

 ではその力を得るためには――ああ、そうだ。忘れていた。

 「……そうだ、まだ食事の途中だった。私にできないことなんてあるはずがない。私は強い。私は適応できる。私は生き残る。お腹に宿ったCEM幼体――強い私に従いなさい」

 私は自分の下腹部に手を当てて、ヘイの体から取り込んだCEM幼体に命令する。

 CEM幼体は私を新たな宿主と認め、その思考を読み取って体に変化をもたらした。

 尾骶骨のあたりがむずむずしたかと思えば、私の体から黒い尻尾が生えてくる。

 果たして尻尾の一本で何ができるのか、答えは簡単だ。

 「もう動くことのない少女たち、プラーズを守るために私の糧となりなさい」

 「――ッ。あいつの目的はCEM幼体だ。させるなっ!」

 私の体から生えた尻尾は大切な宝物目掛けて一直線にその体を伸ばした。途中で複数の怪物たちがそれを阻もうとしたが、指揮官の指示の遅れに加えて自分が襲われたわけではないという状況に即応することはできていなかった。

 「おそい」

 私の自在に伸縮する黒い尻尾は大切なプラーズの安全を確保しつつ、もう動くことのない少女たちの体に絡みつき――先端の口を開いて丸ごと飲み込んだ。

 尻尾の中を通ってプラーズと少女たちを合わせた五人分の体が私の中に入ってくる。

 私はそれを感覚として理解した。

 「気持ちいい」

 同時にプラーズの周囲に散らばっていた少女たちのソウルコアも吸収する。

 自分の体中が色に満ちてぽかぽかする。とても心地のいい感覚だ。

 「ただの人間が……複数のCEM幼体を従えるなど、そんなことが……」

 私が行ったのは己の胎内にプラーズと少女たちを取り込むこと。

 それはさきの戦闘で魔女が私にやったように、生物の体を丸呑みにして体内に取り込む行為だった。

 私はそれを完全に再現してみせた。

 「私の中は安全よ。体を癒しながらゆっくり眠っていてね、愛しいプラーズ……」

 当たり前の話だが、人間の体の中に同じ大きさの人間が入ることはありえない。

 それも噛み砕くことなく、消化を行うことなく、そのまま丸呑みにできるはずがない。

 しかしそれを行うのが人間でないのなら話は別だ。

 禊雫は人間をやめていた。

 人間だった禊雫は死んだのだ。

 「くそっ、あいつが力を取り込む前に仕留めろっ」

 「ふふっ、だからおそいって」

 プラーズと身体機能が停止していた仲間の少女四人の体、合計五匹のCEM幼体を捕食して膨らんだお腹は、私が撫でてやると元の大きさに戻っていった。

 その行為により私が負っていた身体中の傷は癒え、カラーも補給できた。

 私は強化された身体を使い、悠々と襲いくる怪人の攻撃を弾いてみせる。

 「捕食完了……さあ始めましょうか」

 これで全ての準備は整った。

 複数の怪人たちが目の前に迫っている――戦いの幕開けだ。


 「お前たちはどこまで僕を愚弄するんだ……禊雫っ――プラーズゥゥゥ!」

 白髪の男の叫びとともに戦いは始まった。

 すでに怪人たちが私を取り囲んでいる状況に、私は戦力差を計算して笑った。

 「まだまだ力を馴染ませるのに時間がかかりそうだけど――お前たちを殺すくらいは、簡単そう」

 私は射殺す瞳で全ての怪人を捉える。

 迫る怪人の鎧に反射して映る私の姿、瞳は取り込んだ少女たちの色が重なっていた。

 カラーを通して見る世界は鮮やかで、その感覚の差異に自分が生まれ変わったことを自覚する。

 私はもはや人間というよりも魔女に近い超然的な存在なのだ――負ける気がしない。

 「僕の研究が、才能が、こんな淫売に負けるはずはない! CEMボーグは最強だ!!!」

 私を襲ってくる怪人はCEMボーグというらしい。

 まぁ名前なんてどうでもいいか、プラーズの命を脅かす敵は殺すだけだ。

 「ん……効いてない、かな?」

 先ほどから殴る蹴る尻尾を叩きつけるの三拍子で攻撃を加えているが、相手はひるみはするものの倒れる気配がない。

 どうやら鋼鉄のように硬い怪人の体表は普通に殴るだけでは効果がないらしい。

 私は早々に理解する。

 また相手の攻撃一つ一つの回避は視えているので容易いのだが、その数とコンビネーションは非常に厄介だった。

 流石は軍隊と褒めるべきなのか、敵の連携を見誤ればすぐに前後左右を囲まれて滅多打ちにされた。包囲から脱出しようと敵の隙間を抜ければ、待っているのは弾丸の集中砲火、見事に嵌められたわけだ。

 こうなれば用意された隙に飛び込むのではなく、自分で活路を切り開かなくてはならない。大事なお腹だけはしっかりと守りながら尻尾を振るってそのまま跳躍、そこから壁を蹴り尻尾をバネにさらに跳躍して、ようやく怪人たちの包囲から脱出する。

 「ぐっ……がっ、あぐっ。ふふっ――この体のこと、敵のこと、わかってきた」

 打ちのめされた傷を瞬時に回復させながら私は笑った。

敵の圧倒的な手数と連携に押されつつも、変化した自分の体への理解を深めていくのが楽しくて堪らない。

 それに並行して怪人たちの分析を進め、そのパターンを研究して対応策を構築する。

 この体はあまりにも完璧で、徐々に戦場の全てが把握できるようになっていた。

 そこで嫌でも目に入るようになった白髪の男の存在、彼は隣にアイリスという個体を侍らせながら私の戦いを観察していた。

 「くくくっ、威勢がよかったのは最初だけのようですねぇ。その体も所詮は付け焼き刃の産物でしかない。CEMの研究に関しては特務中尉よりも僕のほうが上なのだから!」

 私が防戦を続ける中で自分達が優勢と見たのか、白髪の男は嬉しそうに語り出した。

 「特務中尉が完成させた個体はあくまで人間を主体に進められていた。僕はそこに着目して考えた。この逆を試してみるのはどうか、と。そしてCEM幼体を主体とし実験体に改造を施した――余計な思考を捨てるために海馬を切除して、肉体はCEM幼体が改造しやすいように遺伝子からCEMと混ぜ、戦闘経験を機械学習装置によって獲得させた。さらに上位種のCEM幼体を持つアイリスによって完全に制御、支配する。自ら考えることはなく、痛みさえ無視して命令のままに戦う。ただただ私の命令とCEM幼体の要求に従う従順な肉の奴隷であり最強の兵士――それこそがCEMボーグなのだっっっ!!!」

 「長いご高説どうも。はぁ……そういうことね。通りで殴っても切断しても反応がないわけだ」

 こちらの攻撃が効いてないのかとも思ったが、どうやらそうではないらしい。

 ダメージを受けてもそれを認識していないということか。それならやりようはある。

 私は引きちぎった怪人の腕をポイと投げてから次の行動へ移ろうとした。

 「CEMボーグの研究成果で僕はネイチャーヘッドに入る。今度こそ僕の夢が叶う。一度はプラーズに壊された夢が、プラーズを踏み台にして蘇る。――最高だ。この時、この瞬間をどれだけ待ち焦がれたことか……これは運命なのかもしれないねぇ、雫お姉さん?」


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