42話 全てを込めた一撃
「アカリ、キサラ、ミドリ、アオイ――力を貸してくれ。みんなの力でヘイを守ろう」
私の呼びかけに応えた四つの色が私の周囲に集まり、発色する。
強い魂の輝きが周囲を満たした。
少女たちのソウルコアは各々の根源であり色――少女たちの魂そのものだ。
ヘイを守りたいというみんなの意志が力となり、それは色として世界に現出する。
「まだなにかをやる気みたいだな。いいぞぉ、こい。人間ッ――」
笑みを浮かべてその場で構えを作る魔女は、どうやらこちらの攻撃を受けてくれるらしい。ありがたいことだ。
「おおおおおおおおおおおおおおお!!! いくぞ、みんな!!!」
私は雄叫びと共に魔女の元へと走り出し、その拳を構える。
そしてその勢いのまま――魔女の脇を通過した。
私は防御の構えをとる魔女を無視、そのまま遠ざかるように駆け抜けていった。
「はぁ? ここにきて今更、逃げるのか、ガッカリだ――なら、終わりでいいよな」
一連の行動を見た魔女は、どうやら私が逃げたと勘違いしたらしい。
確かに目の前で走り去られたらそう勘違いしてしまうのも無理はないだろう。
だが、私の行動には明確な理由があった。
それから魔女は溜め息混じりにこちらを追って駆け出すが、私の行動に拍子抜けしていたせいか駆け出すタイミングは遅れていた。
そしてその遅れは私に一瞬の猶予を与える。
あとは愛機の――相棒の力を借りるだけだ。
「お前のことも忘れていない。みんなで一緒に勝利を掴む――」
駆け抜けたその先――私は破壊され尽くした愛機の前に立っていた。
それが大阪に利用された結果だとしても、お前がお姉さんを守った事実は変わらない。
ダイダロス、お前は私の愛機で――誇りだ。
だから最後に、もう一度。
その力を私たちのために。
「頼む。私に力を貸してくれ! ダイダロス!!!」
私の言葉が通じたのか、バキンと金属の音が響いた。
ダイダロスに装備されていたカラーブレードの欠片が落下する。
私は相棒から魔女を倒すための最後のピースを受け取った。
それは愛機に装備されし、敵を屠るための刃だった。
「みんなの力を一つにして、ここに掻き集め、眼前の魔女(強敵)を倒すための一撃を生み出す!!!」
私はダイダロスから受け取ったカラーブレードを両手で抱えるように持ち上げ、その刀身を天に向けて掲げた。
掲げた刀身に少女たちのソウルコアが吸い込まれ、ここに四色の輝きを放つ――色めく大剣が作られる。
「面白そうなことをやってるじゃねぇか。人間、お前に対する落胆は取り消してやる。お前は俺様の女の大事なやつだ。だったら最大限に楽しませてくれるはずだもんなァ!」
その顔に笑みを取り戻した魔女は、その身に纏う赤い炎の勢いを爆発させた。炎を纏いながら突撃するその姿は、魔女の存在そのものが巨大な火の玉になったかのようだ。
それは先ほど切断した大火球とは比較にならない莫大なカラーを秘めている。速度、濃度、密度に至るまでの全てが桁違いで――圧倒的に強化された最強の一撃だった。
「それがどんなに困難な壁でも打ち破ってみせるさ。この力は私たちが歩んできた道――そこで得た経験、繋がり、想いの結晶で――そしてそれを未来に残すための――一撃だッッッ!!!」
四人分の魂で色めくカラーブレードを強く握ると、そこから皆の想いが伝わってきた。
仲間の想いが重なることで奇跡は起きる。
そこにあるのは、本来一色ずつしか使用できないカラーの制約を打ち破り、混ざるのではなく四色全てが同時に存在することで為された多色の顕現――想いの奇跡。
それはカラー付与効率を高めて鋳造された愛機のカラーブレードに宿り、放たれる。
「受けるがいい。これが魔女の力だあああああああああああああああああ!!!」
「受けてみろよ。これが想いの力だあああああああああああああああああ!!!」
仲間の想いが結集した奇跡の色と愛機のカラーブレード。
私は皆の想いと力を借り、集め――魔女に向けて振り下ろす。
それは魔女が極限までカラーを高めた極大火球と激突した。
「――――――――――――――――――――――――――――――――斬った」
両者が極限まで高めたエネルギーの衝突に世界は揺れる。
その破壊によって辺りは煙に包まれていた。
私は全力でカラーブレードを振り下ろし、この手には確かに斬ったという感覚だけが残っていた。
結果がどうなったのかまではわからない。
すでに私はこの一撃に全てを込め、力を使い果たした。もう武器を支える力さえ残っていないようで、私は相棒から借りた武器を取り落とす。
破壊が起こした煙に包まれる世界にガラン、と音が響いた。
私は警戒して辺りを見回すが、周囲は煙のせいで何も見えなかった。
少女たちのソウルコアも先ほどの一撃で力を使い果たしたのか、この煙の中では存在をかき消されたように発色が弱々しくなっていた。
「おまえたち、ここまで本当によく頑張っ――」
私は少女たちの魂に労いの言葉をかけようとして、その途中で言葉を失った。
それは、足音が聞こえたからだ。
仮にそれが軽い足音だったならば、まだヘイのものかと思うこともできた。
だが、そのズシリと響く重い足音の持ち主は――。
「そんな――あの一撃を受けて、まだ」
私が音の方向に向き直る頃には、敵はとっくにこちらを捕捉していて、まるで久しぶりに再会する友人のような気軽さで声をかけてきていた。
「よぉ……人間、生きていたか。やるじゃねぇか」
私は魔女を倒せなかった現実に打ちひしがれ、その場にへたり込んだ。
「ふん、言葉もでねぇか。俺様が素直に褒めてやっているというに。俺様をここまで追い詰めたやつは片手の指で足りる。ほら、この通りよ。お前が俺様を追い詰めた証だ」
早く殺せばいいのにと見上げた魔女の体は、両腕の二の腕から先が失われていた。
「すぐに治っちまうが見ておくといい。こんな姿になるのは久しぶりだからな」
魔女は己の姿を見世物にでもするかのように、欠損した両腕を見せつける。その切断面は蠢き、じゅくじゅくと気味が悪い音を立てながら再生を始めていた。
どうやら魔女の言う、すぐに治るという言葉は本当らしい。
「遊んでいないでさっさと殺したらどうだ。もう私に逆転の一手はない。お前の期待しているようなものは何も残っていない」
この状況で魔女に勝つことを諦めないのであれば、再生中の今は絶好の機会なのだろう。
しかし今の私にその機会を活かす力は、立ち上がるための気力は、残されていなかった。
「そうか――そりゃ残念だ。ならば決着だな。俺様は本気でいくぜ。お前は、どうする?」
無駄な問いかけをしてくるやつだ。
そんなことを思っていると、風が――吹いた。
それは高速移動した魔女が生み出したものだった。私がそれに気づくのは吹き飛ばされ、宙を舞った後のことだ。
魔女は強すぎた。矮小な人間が勝てる相手ではないと改めて思った。
「どうした人間、足掻けよ。最後まで抵抗しろ。それがお前たち人間だろう?」




