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40話 捕食

 「――――――――――――――――――――ッッッッ」

 捕食されたお姉さんの悲鳴は声にならず、くぐもった呻き声のような音だけが響いた。

 尻尾の先からお姉さんの足先だけが飛び出していて、いまも抵抗するように暴れている。

 しかしその足をばたつかせる抵抗も数秒と保たず、尻尾の中へと飲み込まれていった。

 「いま、完全に取り込んでやるぞ」

 お姉さんは――――魔女に喰われた。

 「ああ、あああ、やめろ、やめろっ、お姉さんを出せっ、お姉さんを返せっ!」

 魔女は尻尾の中にいるお姉さんを完全に取り込もうとしていた。

 まだだ、まだ間に合う。

 私はそれを止めさせるべく魔女に向けて銃弾を放つが、銃弾は炎の壁に阻まれ溶けて消えた。

 この手にある銃が魔女に対してなんの役に立たないことぐらい頭では理解している。

 「くそっ、くそっくそっ。なんで、なんで」

 今すぐにあの尻尾を切り落としでもすれば助けられる。

 まだ、間に合う。

 しかし無意味とわかっていても焦りに支配された私にできるのは、この手に持った唯一の武器である銃を撃つこと以外にない。

 だから私は子供の駄々のように、上手くいかないことを叫びに変えるしかなかった。

 私は叫びながら銃を撃つ。撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ、撃つ。

 「ああああああああああああ!!! はぁっ、はぁっ、は……あ、はぁっ、ああっ」

 弾倉内の弾が尽き、引き金を引く――かちゃかちゃとした空虚な音だけが木霊した。

 まだ、間に合――

 「気は済んだか、人間。それじゃあ、いただこう」

 尻尾の先から付け根まで移動した膨らみが魔女の肉体へと入っていく。

 「や、やめろっ」

 そうして取り込まれた膨らみは消化されるように魔女の体の奥深くに収められた。

 いまこの瞬間、魔女はお姉さんの体を跡形もなく、完全に自身の体内へ取り込んだ。

 「そ、んな。お姉、さん」

 私は為す術もなく、その場に崩れ落ちた。

 まただ、また私は何もできない。

 またしても私は大切な存在を失うのか。

 そんな失うだけの人生になんの価値がある。なんの意味があるというのだ。

 「もういやだ。もう辛いんだ。私はこの苦しみに耐えられない」

 無力に涙を流す私の前でぴたりと動きを止めていた魔女は――唐突に笑い出した。

 「そうか、そうかそうか、これが女の味か! これは美味い、美味だ。醜悪な姿を晒した甲斐もあったというものだ! これだけの容量を一人で生み出すとは人間もやるではないか! それにこの純度の味が機械どものせいで劣化した状態とはな。素晴らしい。俺様はいま、この女を食えて満足している! がっはっはっはっはっはっはっはァ!!!」

 興奮冷めやらぬ魔女の体からは超高温の熱が発生していた。

 その熱によって魔女の周囲の地面は焼け焦げ、瞬時に溶解する。

 「おおおおおおお! 滾る、漲るぞ! これほどまでの力、全身が新たな力を歓迎している。俺様の肉が、骨が、魂が! 全てが歓喜し力を解放しろと叫んでいる! 女の力を引き出せと求めている! 女ッッッ! 俺様に最強の力を寄越せ!!!」

 私は力無く、カラーをその身から溢れさせ高揚する魔女を見つめていた。

 つい一時、一瞬、その時までは希望があった。

 ヘイが生きていて、お姉さんが生きていて。

 光り輝く希望が確かに目の前にあったんだ。

 この希望を守るために私は自分の命を使うはずだった。

 だが、お姉さんは魔女に喰われた。

 目の前の輝く希望は取り上げられて、私の願いは叶わない。

 「ふううううう。この力を試してみたいところだが周りのやつらは死に体か。全員でかかってきてくれてもいいが、ソウルコアだけではなにもできまい。うむ……腹の中で女が暴れているぞ。活きがいいとはこのことだな。俺の物にしがいがある。くくくくっ」

 魔女はこの富士機械化要塞の最深部――すでに破壊し尽くされた戦場を見回して溜め息をつき、腹部をさすりながらそんなことを口にした。

 魔女の腹は蠢いていた。

 それはCEM幼体を宿した少女たちの下腹部を私に想起させる。

 まるで、別の生き物が。

 魔女の体の中で、活動している、ような――

 「ふっ、くっ、くく。ははっ、はははははははははははは!!!」

 戦場で私は笑う、腹の底から笑う。

 魔女に負けない大きな声で、世界に笑いを響かせる。

 「なんだ、絶望で壊れたか? 人間」

 魔女が怪訝そうな顔で尋ねた。

 突然笑い出した私は、側から見れば敗北を確信して壊れたように映るだろう。

 「ははは――ああ、いや、すまん。あまりにおかしくてつい、笑わずにはいられなかったんだ。そうだな、私は壊れている。でも絶望はたった今、消えてなくなったよ。私たちはまだ諦めていない。ようやく戦う決意が、お前を倒す覚悟が――できた」

 「私たち、だと? 戦えるのはお前一人だけにしか見えんぞ。他にも仲間がいるのか?」

 私がすでに諦めていた命、勝手に諦めていた命は。

 まだ消えていなかった。

 だったら諦めるわけにはいかない。

 それがどんなに強大な相手でも、仲間と一緒なら戦える。

 どんなに理不尽な相手でも、みんなと一緒なら笑い飛ばして勝利してみせる。

 「ここにいる私が――私たちが相手をするって言ったんだ。お前はお姉さんの力を試したいのだろう? 私もちょうど体をほぐしたいとこだ。付き合ってくれるか――魔女ッッ」

 私は壊れた笑みを讃えたまま魔女に向けて走り出した。その手に武器はない。

 「人間がおもちゃ無しで俺様と戦おうってか。それも1人、生身で? ――ハッ。お前に俺様を笑わせる以上のことができるというのか、やれるならやってみろ、人間ッ!」


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