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39話 再来

 「感動の再会のようだが残念ながら時間切れだ。いや、俺様も混ぜてくれと言うべきか」


 記憶の奥底を揺らすような声が聞こえたかと思えば、赤い炎が眼前に迫っている。

 「プラーズ!」「っ――お姉、さんッ!」

 気づけば私はお姉さんに突き飛ばされていた。

 その一瞬の後、私たちの間を裂くようにして放たれた炎は燃え上がって柱となった。

 二人を阻む壁となって燃え盛る炎は3mほどの高さで向こう側の状況は把握できない。

 一旦後ろを振り返って様子を確認するが、こちらに敵影はなくヘイは無事だった。

 私はヘイが無事なことに安堵するも、こちらに敵がいないということは、つまり。

 「熱い……この焼けるような熱量を私は知っている。これは火炎放射器の類で生み出されたものじゃない。もっと生物的な――カラーで作られたものだ。この、炎の壁は――」

 私が全ての可能性を検討し、やがて恐ろしい真実に辿り着こうとした時、炎がうねった。

 それは明確な攻撃の意思に操られる――生きた炎だった。

 眼前の炎に浮かぶ人型の影は人間にしてはあまりに大きく強大で、空想の存在として恐れられる悪魔のような姿に――私はひどく見覚えがあった。

 「いやっ、放してっ。プラーズ! あなたは逃げなさい!」

 「まぁそう言うな。こんな場所で再び会えるとは、これは運命の再会というやつだろう」

 お姉さんが叫ぶ。

 その声は恐怖に満ちており、私の頭が出力した最悪の想像を確信に変えていく。

 「あ、ああ――なんで、なんでお前がここに。いま、いまここに、いるんだッ!」

 私は世界を呪うように叫んだ。

 神様というものはあまりに残酷で無慈悲だと、自分の運命を呪わずにはいられなかった。

 私はまだ、あの戦いに。

 全てを失った日に囚われている。

 だとすればこの再会は。

 この運命はすでに決められていたことなのか。

 「おいおい、ここは感動の再会シーンだぞ、泣けよ。それともハグがほしいのか?」

 人型の影が蠢き、猛る炎の中から現れたのは。

 あの日と変わらぬ姿の魔女、だった。

 あの姿、あの態度、あの炎。

 忘れるものか。

 一年前の戦いから今日この日まで、全てを焼き尽くした赤き炎を忘れた日などない。

 「魔女――――――おまえ、は。――死んだ、はず」

 あの戦いで刻まれた悪夢の炎は、今ここに現実となって蘇った。

 そして再び、私たちを引き裂いて、地獄の淵へと追い詰める。

 「ああ、あれは効いた、確かに効いた。だがあの程度で俺を殺したつもりになっていたとは――くっくっく、魔女は単純な攻撃では殺せない。いい勉強になったか?」

 魔女を前にした私は――一年前、なにもできなかった無力な自分を思い出す。

 暴力を前に蹂躙されるだけの自分はひどく滑稽で矮小な存在で――目の前で命が失われる光景を、ただただ見ているだけの臆病者だった。

 「お前が死ななかったのはわかったよ。でもなぜ、いま! この場所にいるんだッ!」

 確かに魔女が死んでいなかったことは人類にとって最悪の結果だ。

 しかしいまの私にとっては魔女が生きていようが死んでいようがどちらでもよかった。

 問題なのは、なぜ――

 いまこの場所に、この瞬間に現れたのか。

 それだけだ。

 「おいおい質問ばかりだな。まぁ運命の再会ついでだ。教えてやっても――」

 「プラーズ! 私のことはいいから! その子を連れて逃げなさい!」

 お姉さんは魔女に体を拘束されながらも必死に抵抗を見せる。

 そして考えるのは自分のことではなく、私たちの安否だった。

 「ふっ。俺の力を知りながらその威勢のよさ。やはり俺の女に相応しい。躾甲斐がある」

 「ああッ!!! ぎ、あああああああああああ!!!」

 邪悪な笑みを浮かべる魔女の手に炎が灯った。

 それはお姉さんの体を鷲掴みにして拘束する部分が燃え始めたことを意味する。

 お姉さんは肌が焼ける痛みで絶叫し、火の点いた部分はじゅうじゅうと音を立てていた。

 辺りが肉の焼ける嫌な臭いで満たされていく。

 「やめ、ろ。お姉さんに、触れるな。私の大事な、助けたい人なんだッ」

 「おいおい、一方的に悪者扱いか。俺様だって被害者なんだぞ。お前たちのせいで力を削られ、回復のために今まで眠っていたのだ。火山のマグマからカラーのエネルギーを補充しても、あの日から今日まで再生の時間を要した。あれからどれくらいの時間が経った? 眠っていてわからんのだが、俺様の質問にも答えてくれよ」

 魔女が語る言葉の真偽は定かではない。

 こいつは何を言って――。

 「ああ、ああああああああああああああ!!!」

 私はお姉さんの絶叫で我に帰った。

 いまは魔女のことを考えるよりもお姉さんの解放を優先しなければ。

 私は地面に転がっていた銃を拾い上げ、魔女へとその銃口を向ける。

 「お前の事情など知ったことか。いいからお姉さんを離せ、それから質問に答えてやる」

 「俺様がせっかく質問に答えてやっているというに。お前らには誠意がないな。それで? そんなオモチャでこの俺様をどうにかできると思っているのか?」

 やつはあの時と一切変わらぬ傲岸不遜な態度でこちらを見下し、笑っていた。

 だから私は精一杯の虚勢で魔女を睨め付け、叫ぶ。

 「お前の相手は私がしてやる。だからお姉さんを解放しろ!」。

 魔女は強すぎる。やつに対して銃が脅しになるはずがない。

 それでも目の前で焼かれるお姉さんの姿を見ては叫ばずにいられなかった。

 「威勢がいいのは嫌いじゃないが、お前に用はない。くはっ、さぁここからだ」

 「ぐがっ、がッ、あがッ、があああああああああああああ」

 魔女は私にまあ見ていろと言って――痛みで痙攣するお姉さんを自分の頭上に放った。お姉さんの体は、まるでボールを投げたときのように勢いよく見上げる高さまで飛んでいく。

 「な――」

 私は魔女の突飛な行動に反応が遅れる。

 それでも私の頭は行動の意図を思考せずにはいられない

 やつがお姉さんを解放した?

 いや違う。魔女は何かを企んでいるはずだ。たとえそれが快楽を得るためだとしても。

 だがその可能性の全てを検討する暇を私は与えられていなかった。

 巡らせた思考のせいで一瞬遅れつつも、私は走り出す。

 「俺様自身、これをやるのは少し気味が悪くて趣味じゃねぇ。だがそれでも極上の素材を手に入れたとなれば、試してみたくもなるというものだ」

 こいつは何をしようとしている?

 いや、なんでもいいから間に合えっ!

 「うっ、ぬぅ、おお、うお、おおおおおおおおおおおおお」

 魔女が雄叫びを放った。それに合わせて体に変化が現れる。

 それは魔女の背中よりも下の部分に起きた変化であり――人間ならば尾骶骨のあたりが隆起して、そこから棒状の何かが飛び出したのだ。

 「一体、何をする気だ」

 魔女から飛び出した棒状の物体は生物における尻尾の部位に見えたが、棒状の先端はまるで口のように開閉――伸縮して自在に動いている。

 その尻尾の形状は、別の生物が体から生えたような不気味さと歪さを感じさせた。

 魔女が何をやろうとしているのかわからないが、それでも今から行われる行為によって、こいつがお姉さんをどうにかしようということは、直感的、本能的に理解していた。

 「さあこい、俺様のものになれッ」

 そしてこれが人間の理から逸脱した行為だという予感が、一年前のあの戦いを生き残った私にはあった。

 その予感はもはや確信となって、急かすように私を突き動かす。

 「待てっ、動くんじゃない! お姉さん、今助けに――ッ」

 私は魔女に向けて銃弾を撃ち込みながら宙空のお姉さんの元へと跳躍を試みる。

 「邪魔だ」

 しかしその行動は魔女が新たに生み出した炎によってあっけなく制されてしまう。

 そして。

 魔女の背中の下から生えた尻尾のような何か――その先端が口のように開閉する穴となっている棒状の何かは、宙に舞い上がったお姉さんの体が重力に従って地面に落下を始めたところで、その口を大きく広げ――お姉さんの全身を丸呑みするように、捕食した。


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