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36話 要塞の外にて

 《こちらタイタンフィールド、ウェルキン・ライト中尉だ。フォビドゥンバレット応答せよ、繰り返す、フォビドゥンバレット応答せよ――くそっ返事をしやがらねぇ!》

 大阪の動きに異変を感じ取った俺たちの小隊は、首都大阪への攻撃部隊から単独で離脱、プラーズたちフォビドゥンバレットを追い、富士機械化要塞に向けて移動していた。

 俺たちの行動の理由――事の発端はプラーズの危機を告げる謎の通信だった。

 その結果として今の俺たちは、敵か味方かも不明な通信を信じて行動を開始したのだ。

 正体不明の相手との通信内容を共有した部隊の仲間に俺は尋ねる。

 《先ほどの通信をどう思う、少尉》

 《は――明らかに怪しいですが、それにしては軍の内情を知りすぎています。私たちにだってプラーズ特務中尉の任務は秘匿されているのに。コモンズもなんとか言ってよ》

 アネットが不満げな口ぶりで話すと、無茶振りされたコモンズがあわあわと口を開く。

 《うん。えぇと……大阪の、策略にしては、なんか人間、臭い……》

 アネットの意見に同意しつつ言葉を付け足したコモンズ、俺の意見も同じだった。

 《確かに。あいつらはもっと直接的に攻めてくるからな》

 通信で欺瞞情報を流して混乱させるにしても、大阪ならばもっと他にやりようがある。

 それこそ直接的にこちらの通信を遮断するとか、な。

 《お前たち、要は俺の命令に不服はないってことでいいな?》

 《まぁそうなんですけど。じゃあ今度〜、酒奢ってくださいね! 高いやつ!》

 《……本部に、何か言われ、たら……中尉のせい、ってことで》

 《コモンズそれいいね。決定決定、サイコー! 酒の奢りも決定ねっ》

 《おまえらなぁ……》

 やれやれ、俺は仲間想いの良い部下を持っちまったぜ。

 プラーズ、お前はどうだ。部下とうまくやっているか?

 《中尉、間も無く、富士機械化要塞、その麓に、接近しま、す》

 俺はコモンズの報告に、感傷に浸る思考を切り替えた。

 プラーズに危険が迫っているなら死地であろうと飛び込んで状況を打開してやる。

 《――っと、覚悟はしていたつもりなんだがなぁ……》

 開けた視界――そこには大阪兵の海が広がっていた。

 《大阪兵の数――数値は1万、いや、ジャミングの影響を補正――っ、10万、です》

 《主力は首都大阪に集結しているとか言ったやつは誰だ。偵察機は何を見てんだ!?》

 アネットが数を訂正するまでもなく、目の前の大阪兵は波打つように広がっていた。

 やつらはゆらゆらと蠢きながら要塞内部を目指して進軍を続けていた。

 《どれだけ敵がいようとやってやるさ。こちとら弾薬はたっぷり持ってきてんだ。プラーズには近づけさせねぇ! やるぞお前ら! 腹括れッ!》

 《《了解ッ!!!》》


 数ある大阪の拠点の中でも二つしか存在しない大要塞の一つ、富士機械化要塞。

 その麓には樹海を切り開いて作られた機械の街が広がっていた。

 そこに立ち並ぶ巨大なビル群の中で人並みの生活が行われているとは到底思えないが、こと戦闘において大きな遮蔽物があるのはありがたいことだった。

 小隊の先陣を切った俺は両手に装備された180mm迫撃砲を大阪兵にお見舞いする。

 《そらそらそらァ! お前たちの敵がここにいるぞ!》

 目の前に広がる敵は数が多く密集しているため、こちらの砲撃一発で数十体の大阪兵を一気にまとめて吹き飛ばすことができている。

 実に効率的な弾薬の使い方だ。惚れ惚れするぜ。

 《リロード!》《カバー入ります!》

 お互いにリロードとカバーを繰り返し、小隊の連携を最大限に活用して大阪兵を蹴散らしていく。これが通常の戦闘であれば輝かしい戦果なのは間違いなかった。

 《しっかし……全っ然っ数が減った気がしねぇ》

 すでに敵の数を1万近く減らしたはずだが鈍色に蠢く海はいまだ健在だった。

 そしてやつらは反撃とばかりにビーム兵器の雨を降らせてきやがる。

 《ビームがくるぞ、回避だ!》

 俺は建築物の影に隠れて敵の攻撃をやり過ごそうとする。

 しかし敵の攻撃は依然として止む気配がなく、雨に曝される建築物も限界とばかりにミシミシと悲鳴を上げていた。

 《――ヤベッ、!?》

 建物が崩壊するかと思われたその時、大きな閃光が建築物ごと大阪兵をなぎ払った。

 俺はカラーギアの戦域マップに友軍機のマークが一つ追加されていることに気づく。

 《だいじょーぶですー? たいちょー》

 《おせぇよ、ばーか》

 降下してきたカラーギアは友軍機、巨人の名を冠するにはちと小さな新人の登場だ。

 《助けたのにぃ……ひどぃ……》

 クラニー准尉は俺の隊に入って間もない新人の女性隊員だ。

 そのふわふわした態度とは真逆に射撃のセンスはピカイチで、幸運の女神とばかりにタイミングよく支援砲撃を行えるチビっ子だった。

 天津で行われた大規模演習の際に俺が大尉に無理を言って他部隊から引き抜いた人材でもある。今回の作戦では武器弾薬の補給担当として一旦別行動をさせていた。

 《二人は交代で補給を済ませろ。クラニーは引き続きビームによる掃討を行え》

 《人使いも荒ぃ……》

 《俺が援護してやるから我慢しろ。ところでクラニー、エリックはどうした?》

 俺の小隊にはもう一人の新人隊員がいた。

 それは上からの命令でうちの部隊に編入してきたエリック少尉なのだが、彼には富士機械化要塞周辺の先行偵察を任せていた。普通に考えればクラニーよりも合流が早いはず。

 《あー、エリック少尉は、えとー、なんか途中で――きゃあっ》

 会話と一緒にビルが衝撃で吹き飛ぶ、その光を放ったのは一際大きな個体だった。

 《デカブツのご登場ってか。うおっ》

 大阪兵タイプセカンド――ジャイアント。

 生体パーツを統合することで巨大化し、その能力を底上げしたタイプセカンドの一種だ。

 通常なら大阪兵のコアを的確に潰すことでその発生自体を防ぐことができるわけだが。

 《アネット! コモンズ! 敵のコアはしっかり破壊してるんだろう、なっ!》

 《こんな数を相手にできるわけない!!!》《無理、ですっ!》

 生存確認と合わせて活を入れてやろうと煽ったら威勢のいい返事が返ってきやがった。

 よし、こいつらの心はまだ折れていない。

 流石は俺の部下、ガッツあるじゃねぇか。

 《そりゃそうだ。はっはっは。よっし、俺たちはこれからクラニー機を守りながらジャイアントを優先して叩く。あれが増えたら手がつけられな――》

 《も、もう、遅いみたいですぅ〜!》

 俺の言葉を涙声で遮ったのはクラニー。

 そして倒壊するビルの先に、俺は見た。

 《おいおい、冗談にしても限度があるだろ……》

 そこにはビルの影に隠れていたジャイアントがいた。

 その数は1、2、3、4、5――10体は確認できる。

 一つの戦域に1体いれば戦力としては申し分ない個体が、10体同じ場所にいるときた。

 こりゃあいよいよ俺たちも年貢の納め時かもな……プラーズ、すまねぇ。

 俺も隊長になって命の大切さが理解できてきたんだ。

 だからよ――お前のとこに行くのは、ちっとばかし遅れそうだッ。

 俺は現在の状況から友を置き去りにする決断をして、即座に部隊へと命令を下す。

 《小隊各機に告ぐ。タイタンフィールドはこの戦域から即時離脱、繰り返す――》


 《その判断は早計かと。小隊長殿》


 その時、凛とした声が通信に割り込んでくる。

 俺は撤退の指示を差し止めるその声音に聞き覚えがあった。

 《お前はまさか――プラーズの状況を伝えてきたやつか?》

 《はい、そのまさかでございます》

 どうにも胡散臭いのは否定できないが、相手が通信してきたことには何かしらの理由があるはずだと、俺はそう考えて会話を続ける。

 《この化け物どもの軍団相手に何か手があるのか? この戦場を切り抜けるのが簡単じゃないことくらいはわかるよな。俺は部下をむざむざ死なせるつもりはねぇぞ》

 《わ、わわわ! 大型レーザー、きますっ!》

 通信の途中にも関わらず、ジャイアントの1体がこちらに向け大型レーザー放った。

 そりゃあこっちの事情なんて関係ないわな。

 《全員、回避――》

 その威力はカラーギアの装甲を瞬時に溶かすほどの威力を持ち、掠った程度でも大きなダメージとなる攻撃なのだが――結果として攻撃が俺たちに届くことはなかった。

 《簡単なことです。私が道を作りますので――みなさまは要塞内へと突入してください》

 俺が回避の指示を伝達するまでもなく、大型レーザーはジャイアントがその巨体を傾かせたことで空へと放たれていた。

 《何事ですかッ!?》《奥の手が、あるなら、先に》《メイド……好きですもんね》

 目の前で起きた光景に全員が驚愕する。

 敵の脚部を切り落とし、その巨体を傾かせたのは人間――いや、メイドだった。

 その体には小型化されたカラーギアのパーツを纏っているが、どう見てもそのはためく純白のひらひらはメイドの正装で間違いない。

 《さて、ご観覧の皆様方――一介のメイドの身ではございますが、ここに舞踏を開始します》

 その小さな体でジャイアントのコアを射抜き、脚部を切断して転倒させ、大型レーザーは他の個体を盾にして防ぐ――――メイドはその身一つで戦場を蹂躙していた。

 《――なんだこりゃ。はっ、ははっ。一体どうなってんだ……》

 目の前のメイドが複数のジャイアントを相手に無双しているのはタチの悪い冗談にしても意味がわからないが、あいつが味方なのは間違いなさそうだ。

 メイドさんの働きのおかげで敵の陣形に穴が空いていた。

 ここを突破すればプラーズの元へとたどり着ける。

 ああ、やっぱメイドは最高だな。

 《協力に感謝する。全機俺に続け! ――今度こそ俺たちの仲間を助けに行くぞっ》

 《《《了解!!!》》》



 メイドが敵の軍団に開けた穴に向かって4機のカラーギアが突入する。

 しかしその先には想定外の敵が待ち受けていることを、彼らは知らない。

 《なにこの反応――赤のカラー、えっCEM? カラービースト? うそ、なにこれ》

 彼らは気づく。

 ここには大阪とは別の敵が存在していることに。

 《富士機械化要塞最深部――火口に巨大なカラー反応確認! 識別カラーは赤、データベースに該当カラーありッ――対象はCEM、――ッ、きょ、脅威ランク4です!》


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