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32話 最後の痛みをあなたに

 私は少女たちの連携を心から称賛し、改めてその兵器へと視線を向けた。

 「戦場を捜索して残骸が見つからなかったという報告を見たときから、もしやとは思っていたが……やはり大阪に回収されていたんだな、ダイダロス。この場所に配置されていたのは運命としか思えない。だとしても――私が作ったものだ。私が終わらせる」


 《ガガ。しょ、うい。少、尉――》


 その時、機械音(声)が――響いた。

 それはダメージを受けて沈黙するダイダロスから生まれたものだった。

 人工的な声音のそれは、私が作り上げたAIのもので間違いない。

 私が間違えるはずがない。

 そして声は私のことを認識して、あの日のように少尉と呼ぶ。

 それはダイダロスに過去のデータが残っているという証拠だった。

 「驚いたな……大阪に制御を乗っ取られて過去のメモリーは消されたと思っていた」

 かつてのメモリーが残っているという事実に、私の記憶が視界に重なる。

 ダイダロスのコックピットブロックはポッカリと空いて空洞になったままだ。

 それは一年前の戦い、その最後にダイダロスが私を脱出させたからで――。

 いや、しかしこの事実には疑問が残る。

 カラーギアがギアハンドラーなしのAI制御で自立して動き、大阪に乗っ取られて私たちを攻撃してきたはずなのに、過去のメモリーは残っているという不可解な状況。

 「どうも腑に落ちないな……ダイダロス、現在のステータスを報告しろ」

 《各装備完全沈黙。腕部、脚部、ダメージ蓄積、共に行動不能。現在、ダメージによって、一時的に、制御権を、回復して、います。プラーズ、少尉、早急な、退避を――》


 「プ、ラーズ、ププ、ラー、ズズズズ」


 そして――今度は階級ではなく、私のことを名前で呼ぶ声が――きこえた。

 機械的な声と肉声が混じり合った不気味な声は、ダイダロスの後方に鎮座する巨大なコンピューターの中から響いていた。

 「プラー、ズ、プラー、ズ――」

 巨大なコンピューターのパネルが割れたかと思えば、中から緑色の液体が溢れ出した。

 それは要塞最深部の地面に水面を作るように広がっていく。最深部の熱された地面に触れてじゅうじゅうと音を立てるそれは薬剤特有の臭いで辺りを満たす。

 「あれは……研究所で見た培養液と似ている……?」

 それは私も実験に使用していた水槽を満たす液体によく似ていた。水槽内を清潔に保ち、実験体に影響を与えず、その成分が徹底的に管理された――あらゆる実験に必要な環境を整えるためのもの。

 実験用の生物を管理するため、生かすために調整された液体だ。

 それが、ここにあるということは。まさか。

 「――!」

 ぴちゃり、と音がした。

 その水音とともに巨大なコンピューターの中からタコの足のような鋼鉄が伸び、壊れたパネルを引っ掛けるように掴んだ。それから足に遅れて最奥の暗闇から――本体が這い出してくる。

 「やっと、会えたね……お姉さん」

 「よー、ククく、きた、ね。プラー、ズ――さぁ、一つに、一つに、なりーまま、しょ」

 鋼鉄と機械で編み上げられた金属のタコ足は、現れた人型の生物の背中から生えていた。

 それは人間という生物と無機物の機械が融合した姿だった。人間と機械、有機物と無機物、生命とAI、相反するそれら全てを内包する――完成された存在だと直感した。

 「また会えて嬉しい。でもさよならだ。私があなたを殺す。お姉さんの願いを叶えるよ」

 私はあの戦いの最後、雫お姉さんの願いを聞いた。

 ――『わたしをころして』

 お姉さんはそう言った。

 大阪に取り込まれるくらいなら殺してくれと。

 だが私は未熟で幼稚、我儘だったがゆえに、お姉さんが死ぬことを許容できなかった。

 機械に取り込まれてでも生きて欲しいと自分の歪みを押し付けた。

 だからあの時、私はお姉さんの願いを叶えてあげることができなかった。

 それは私に命の選択をする覚悟がなかったからだ。

 でも、今の私は違う。

 私はお姉さんから切り離されていたこの期間に多くを経験して学び、変わった。

 それは紛れもなく少女たちのおかげだ。

 私は今一度自分が誇れる少女たちの姿を見て、己の覚悟を再確認する。

 「今度こそあなたの望みを叶えてみせる。それが私にできる恩返しだから」

 「いい、いのよ。プラ、ーズ。さ、ささあ。こっ、ちに。一つに、なり、ま、しょ」

 お姉さんの声はバグの発生した機械のように壊れていた。

 だが壊れながらも、私を求めてくれていた。

 もしかするとお姉さんもダイダロスのように、その内側では大阪の支配に必死に抗っているのかもしれない。

 そう思うと胸が苦しくなった。

 だって、あの日から。

 あの日からずっと一人で。

 お姉さんは孤独だったのに。

 それなのにまだ、こんなにも。

 私のことを想っていてくれたなんて。

 「お姉さん、ごめん……許してもらえなくてもいい。それでも恩返しをさせてほしい」

 目の前で機械と融合した姿を見せる美しいお姉さんの体には、いくつもの施術痕が残っていた。

 それを見れば、大阪からどのような仕打ちを受けたのかを想像するのは容易だった。

 「くっ、オペレーション、スタート。目の前の敵(お姉さん)を全力で破壊する」

 自分の奥底から湧き上がる感情の全てを噛み締め、私は少女たちに作戦の開始を告げた。

 愛を込めて目の前の敵を破壊する――この手で最期のトリガーを引くために。

 「「「「「了解!!!」」」」」

 今この時をもってあなたを苦痛から解放する。

 これが最後の痛みだ――雫お姉さん!


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