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31話 富士機械化要塞

 「あれが富士機械化要塞か……富士山に建造されただけあって規模も桁違いだ」

 富士機械化要塞は旧日本領一の標高を誇る富士山を大阪が改造した大要塞である。

 かつて富士樹海と呼ばれた場所は大阪に切り開かれ、機械の街が築かれていた。


 潜水艦からミサイルで直接移動した私たちは、富士樹海手前に設定された潜入ポイントへと無事に到着を果たす。

 フォビドゥンバレットは小隊として集結を完了、敵地への潜入を開始した。

 そして潜入開始地点から移動すること50km、ついに大阪の領域へと足を踏み入れるのだった。

 《クリア! ムーブ!》

 我々小隊は機械化された街を進む。

 幾何学模様が蛍光色の光を放つ構造物で構成された街は不気味に静まり返っていた。

 街の各所に配置された索敵装置を潰し、騙し、躱しながらその目的地へと近づく。

 《ドローン無力化、センサー解除。ゴー! ゴー!》

 私は手際良く監視ドローンをハッキングによって無力化し、少女たちに前進のハンドサインを送る。

 《指揮官っ、このスーツすっごいね》

 《当たり前ですよアカリ。これは天津の最新技術です。まぁそれゆえに信用できないという見方もできますが》

 スーツの性能を褒めるアカリ、さらりと毒を吐くヘイ。

 少女たちが着用しているスーツには特殊迷彩機能が搭載されていて、カメレオンのようにその場の色へと擬態することができる。

 そのため通常の視認によって敵から発見される確率は低い。

 それは小型化二足歩行戦車カラーギアスーツ――ダイスに搭乗して進む私も同じだった。

 これは私がカラーギアの整備パーツをかき集めて作り上げた――パーワードスーツの延長線上に類する小型機体である。

 少女たちと連携して行動することを前提に造られたため、少女たちの着るスーツと同等の機能が組み込まれている。

 しかし優秀な装備を持ち込んでいても大阪相手に油断は禁物だ。

 やつらは常に進化を続ける生物(機械)なのだから。

 《こちらアオイ。大阪兵を複数確認しました〜》

 《了解した。キサラの狙撃と合わせて制圧しろ。気づかれるな》

 《ヤー》

 富士機械化要塞内部までの道のりには多くの大阪兵が配置されていた。

 それは事前にキサラが望遠スコープで確認済みだ。

 しかしその全てを制圧していては、最短で要塞内にたどり着くことはできない。

 《こちらアオイ、大阪兵を制圧〜》

 《こちらキサラ、こっちも処理完了だよ》

 私たちは富士機械化要塞への侵入ルートを選定し、最低限の敵のみを制圧して先に進む。


 《各員、警戒しつつスキャンを実行しろ。この辺りに古い扉があるはずだ》

 《《《《《了解!》》》》》《……》

 私たちは機械の街を抜けた富士の山中にて要塞内部への抜け道を探していた。

 富士山周辺の一帯は大阪に支配されているとはいえ、その土地は広大だ。

 そこで私は廃棄された坑道を利用して要塞内部へと潜入することを選択した。

 《そこの木影、土に埋もれていますが金属反応があります。形も人が通れる大きさです》

 《――お前たちは下がれ。私がやる》

 ヘイの分析結果を聞いた私はダイスの補助アームで強化された腕を振るい、土と植物の繁茂した古い金属製の扉を取り外す。

 取り外された扉の先――斜面に口を開けた穴には、先の見えない暗闇が広がっていた。

 《よし、先に進めそうだ》

 私は坑道内の地形をスキャンして即席の地図を作成しながら、少女たちと共に暗闇の中へと足を踏み入れた。

 自ら先頭に立ち、少女たちには周囲の警戒をさせながら、暗い坑道を迷わず進む。

 《指揮官、道はこちらで合っているのですか……?》

 《アオイ、指揮官の判断が間違っているというの》

 先の見えない坑道の中で、私たちの前には何度も分岐路が現れた。

 だが私はその度に、迷うことなく右へ左へと指示を出して先に進んだ。

 当然これにはカラクリがあった。しかし部隊の皆にお姉さんにプレゼントしたペンダントの示した場所を目指している、とは流石に言えなかった。

 《坑道の地図は事前に入手し、現在のルートと照らし合わせているから大丈夫だ》

 《それなら安心だねっ。もう〜ヘイは疑り深いんだからぁ〜、さぁいこいこ!》

 《別に私はそういうつもりでは……私だって心配……》

 アカリが明るく笑うその横で、ヘイがぶつぶつと呟き寂しげな表情を浮かべていた。

 《し、きかん。置いてきた、ドローン。壊され、た》

 私たちが坑道を進んで要塞内部へと近づきつつあるこの時、大阪の動きを監視するために機械の街を巡回させていたドローンが、敵によって破壊されたことをミドリが報告する。

 敵に気づかれたことでもう後戻りはできない。

 要塞を指揮する個体を破壊してその指揮系統を混乱させない限り、私はたちは機械が支配する領域から帰還することはできなくなった。

 《大阪に気づかれたか。だがすでに要塞内部は近い、このまま進むぞ》

 《《《《《了解!》》》》》

 だが、それがどうした。

 私は最初から任務を完遂するために、覚悟を決めてここにきた。

 だから後戻りができないことに感謝すら覚える。

 さあ、本番はここからだ。



 富士機械化要塞最深部――火口の真上に位置するその場所は、赤い熱で満たされていた。

 地下から発生する赤いマグマの熱が機械の街を稼働させるエネルギーを無限に生み出し続けている。

 そんな煮え滾るマグマの上に要塞の中枢ともいえる巨大なコンピューターは設置され、そこには要塞のあらゆる場所へと繋がる無数のパイプが伸びていた。

 そしてそのパイプの中の一際大きな一本が、一体の生物へと接続されている。

 脊椎に繋がるように管が背中に取り付けられたその生物は――人間だった。

 その個体の肌には【SHIZUKU】という鈍色の文字が刻まれている。

 ゆっくりと開かれた瞳が要塞内部の全てを監視する映像に注がれる。

 そこには一人の男性と少女たちで構成され、巧みな連携を駆使して障害を突破する部隊の姿があった。

 「プラーズ……くるのね……あなたを、ずっと待っていた」

 自分の意志に関係なく、侵入してきた敵を迎撃するための兵器を起動させる彼女は一人の大阪兵で――その司令塔だった。

 この富士機械化要塞を司る彼女は敵を迎撃するのに最適な兵器を選択する。

 並の戦力で彼らを止めることはできないと、大阪の膨大な処理能力によって計算された結果が出ていた。

 ならば。

 彼らを倒すのにふさわしい兵器は。

 この要塞最深部を守るのにふさわしい兵器は。

 「起動しなさい」

 それは奇しくも一年前、彼女とともに大阪が戦場から回収した兵器であった。

 《……システム再起動》

 機械はその眠りから目覚めた。

 頭部の赤い瞳を爛々と発光させて、来訪者の姿を待ちわびる。

 全ては与えられた命令を実行するために、機械とはそのために存在するものだ。

《あなたを――守ります》

 それは機械が作られたときに与えられた原初の命令であり、それはどこにいても、どのような姿になろうとも、誰に仕えようとも、書き変わることのないコードだった。


 「ずっと待っていた。この時を」


 旧日本領一の標高を誇る富士山の火口、その最深部にて。

 巨大コンピューターに繋がれた大阪兵とそれを守護する兵器は待ちわびる。

 お互いに一人の男性の姿を思い、焦がれながら。

 戦いの時を、待っていた。


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