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28話 ヒーロー

 「くっお姉さん。私は・・・」

 自分が戦場で戦う兵士特有の病にでも罹ったのではと疑っていると、背中に声が掛けられた。

 「あんた閑職に飛ばされたんじゃなかったのかよ。無様な元エース様だな」

 「そんな様で戦場に行きたいとはよっぽどのもの好きですねぇ特務中尉殿」

 話しかけてきたのは、いつかの噂話をしていた二人組だった。

 確かにカラーギアのギアハンドラーとして最前線を駆け抜けていた頃に比べれば、私の姿はさぞ落ちぶれて見えるのかもしれない。

 「そうだな。私は無様かもしれない。でも――」

 「貴様らっ! せっかく空軍を追い出されたのを我々海軍が拾ってやったというに。潜水士たるものサブマリナーの矜持を持てとあれほど言っただろう、馬鹿者!」

 「ひいっ、鬼軍曹だっ。逃げろっっ!!」

 私の言葉を遮るようにして放たれた説教に、二人組は脱兎の如く駆け出していった。

 「これは特務中尉殿っ! 部下が失礼をしました。申し訳ありませんっ」

 振り返った視線の先にいたのは海兵の服装をした女性だった。

 私よりも年下のように見えるが、まず確定しているのは彼女が海兵であり、その胸に付けられた階級は軍曹であることだった。

 二人が逃げ出したために、この場は私と彼女だけになっていた。

 彼女は私が絡まれているのを見かねて声をかけてくれたのかもしれない。

 しかし何やら作戦行動中にしては明るく見えるのは気のせいだろうか。

 いや、なんだろう。このキラキラ輝く瞳は……真っ直ぐすぎて落ち着かない。

 「時に軍曹……つかぬことを聞くが、私は君とどこかで会ったことはあるだろうか?」

 「はっ、こちらが遠目にお見かけしたことはありますが、お話しするのはこれが初めてであります! 自己紹介が遅れました。私は天津第三師団海洋偵察部隊所属――メリッサ・コール軍曹でありますっ。ペイント特務中尉におかれましては、以前の侵攻作戦で味方の撤退に多大な貢献をしたと兄から聞かされております!」

 「以前の侵攻作戦で…………か」

 あの戦いにおける私の功績は軍の記録上に存在しない。

 しかし軍曹が兄からきいたと言っているように、権力者がいかに伏せようとも人伝に伝わることは往々にしてあるものだ。

「軍曹、君の兄から聞いた話を他の人に話したか?」

「い、いえ……話していません」

 軍曹の返答に私は安堵する。

 あの戦いでの情報を吹聴することは上層部が許さないだろうからな。

 「よかった。これからも他の人間に話すのは慎め。軍の中で生き残りたければな」

 「は、はい……」

 軍曹は私の言葉に気圧されて声を尻すぼみにさせる。

 しかし強く言っておくのも彼女のため、彼女の未来キャリアを考えれば、ここで威圧的な上官の謗りを受けるくらいは安いものだ。

 「ところで、そのお兄さんは元気なのか?」

 私は純粋な心配からその話題を口にしたつもりだった。だがこれが失言だと気づいたのは、言葉が口から出て彼女の表情を見た後のことだ。

 「兄は……死にました。戦場で負った火傷がカラーによる負傷だったことに加えて、強がりな兄は最後まで他の人を優先的に治療するよう求めた。そのせいで手遅れに……う、ううっ」

 「そうだったか……すまない。軽率な発言だった」

 「い、いえ、いいんです。これは兄が自分で選んだことですから」

 潤んだ瞳を拭ってから軍曹は続ける。

 「特務中尉のことを知ったのは兄が亡くなった後、遺品の中に私宛のボイスメッセージを見つけて、それを聞いたからです。撤退命令が発令された戦場で友軍を助けるために奮闘されたと……兄たちのような補給部隊が魔女に襲われてもなお、天津に帰還できたのは特務中尉のおかげだと……ぐすっ」

 奮闘か。あの戦いのことをそう形容してもらえるのは嬉しいが……。

 「あの時の私は何もしていないよ。戦場に飛び込んでいったのも私的な理由だ」

 私は自重気味に答える。軍規を無視して自分の大切な人を助けようとした――それが全てで事実なのだ。

 彼女はこんな話をする私に失望するだろうか、落胆するだろうか。

 でも、それでいい。戦場に都合の良いヒーローは存在しないのだから。


 「そんなことありません!!! 兄たちにとってあなたはヒーローだった!!!」

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