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26話 AIの選ぶ最適解

 「おおおおおおおおおおおお」

 大火球を両断した勢いそのままに、魔女の体へとカラーブレードを叩きつける。

 人間と比べれば巨大な魔女も、カラーギアと比較すれば大人と子供ほどの差がある。

 「女を逃がすつもりか、まぁいい。まずはお前からだ。俺様を失望させるなよ」

 カラーブレードを軽々と受け止めた魔女は、涼しげな顔で反撃に転じてくる。

 こちらが体格差を利用して攻めようとも、怪物はその存在が、その密度が違っていた。

 これは単純な体格差だけでは勝てない戦いだ。

 私はそれならば、ともう片方の腕に装着されたカラーブレードを魔女に叩きつける。

 一撃でダメなら二撃で。体格差と手数の二方面から攻める。

 叩きつけた二つのブレードが魔女を切断して――

 「いい機体だ。前に見たやつよりも二割ほどパワーが出ている。自分より大きなやつを相手にするもの悪くない。だが、いいのか――女が窮地だぞ? 俺様は構わんがなァッ」

 魔女は冷静にこちらのスペックを分析しながら、交差する二本のブレードを回避した。

 私は魔女の反撃を警戒して機体を後退させ――いや、そんなことよりも。

 こいつは今、何と言った――――――女だって?

 この戦場にいる女、生きている人間は。まさか。

 「プラーズ!!! 助けて!!!」

 私が状況を確認した時、すでにお姉さんの乗った輸送車は停止していた。

 いや、あれは停止させられている、という表現が正しいだろう。

 車両のタイヤは今でも前に進もうと回転を続けている。

 しかしそれを押し留めるモノが、そこにはいた。

 赤いモグラ。車両と同程度の体格を持つその全身は赤茶けた体毛に覆われ、両手には鋭利な鉤爪が生えており、その爪と口元は――べっとりと赤く濡れていた。

 確かにその赤だけでは、それが誰のものかまではわからない。

 だがそれでも確実に言えることがあった。

 それはこの怪物が人間を殺していて、それがいままさにお姉さんへ襲い掛かろうとしている――ということだ。

 《解析完了――CEM。種別カラービースト、脅威ランク3に該当》

 「CEM――!!! こんな時にッ!」

 私はCEMの出現に、少女が残した通信にあった言葉を思い出した。

 『地面から……突然……』

 私は大阪と魔女の戦闘の中で魔女以外のCEMがいる可能性を考慮していなかった。

 敵の戦力を見誤っていた私は自分の不甲斐なさと絶望的な現状に唇を噛んだ。

 いまお姉さんを助けに動くことは魔女の攻撃を背後から受けるのと同義だ。機体の修復率が50%の現状では、魔女の攻撃で機体がバラバラになってもおかしくはない。

 それに対処すべきCEM――赤いモグラの数は1匹ではなかった。

 その数は――1、2、3、4、5……5体の赤いモグラが車両を取り囲んでいる。

 「どうやら周辺の敵を片付けて俺の元に戻ってきたようだなぁ。それに多少のつまみ食いをして強くなっている。全く仕方のない奴らだ。くっくっく」

 魔女はさぁどうするといわんばかりの楽しそうな顔で、CEMに囲まれた車両を眺める。

 おい待て。周辺の敵を片付けた――だって?

 確かにこの場所は救難信号の発信地点付近にもかかわらず、他の味方が駆けつけない。

 これは自分の独断先行だからと決めつけていたが、そうではなく――ま、さか。

 「救援が遅すぎる。ここにはもう、味方はこない……」

 魔女の言葉からたどり着いた答えはあまりに残酷で、それは私の精神を打ちのめした。

 「おいおいどうした、仲間が死んで寂しいか。一人じゃ生きていけないか、人間!」

 お姉さんがCEMに襲われている。

 私は魔女をこの場に押し留めておくのに精一杯で――動けない。

 機体の内外ともに温度が急上昇して、コックピット内に警告音が鳴り響いた。

 操縦桿を握る手だけは離すまいと必死になるが、どこか思考は朧げになり始めている。

 《警告――ギアハンドラーの意識レベル低下、バイタルに異常。機体ステータス危険域》

 ダイダロスが何か言っているようだが、それは頭に入ってこなかった。

 「あぁ……やめてくれ……。もぅ、やめてくれよ……」

 赤いモグラが5体、その鋭利な爪でお姉さんの乗る輸送車を攻撃している。

 そのたびに車両の装甲板が一枚、また一枚と引き剥がされ、車体に穴が開けられていく。

 もはや車両はその原型を留めておらず、ただの鉄の塊となりつつあった。

 その光景は私の戦意を削り取り、心を壊す。戦う理由の根源を目の前で壊されていく現実に、私の心は軋んで、歪み、がらがらと音を立てて壊れていく。

 だが、この心が壊れる前に私は死ぬだろうと思った。

 それは現在の機体状況を見れば明らかだろう――熾烈な魔女の攻撃にカラーブレードは折れ、レーザーの砲身も溶けて歪み、シールドは全損している。

 これではお姉さんを助けに行くどころか、魔女の足止めさえままならない。

 私と相棒――カラーギアダイダロスの限界がすぐそこまで迫っている。

 だからこの心の痛みは死を前に受ける鞭のようなものだと、私はその光景と痛みを諦念とともに受け入れ始めていた。だが、そのとき――響く、声が。


 《緊急脱出シークエンス起動、並びに自爆機能を実行》


 警告ランプによって赤く染まるコックピット内に冷静な声が響いた。

 私は発せられた内容に瞠目する。

 「ダイダロス……? 何をしている、私はそんな命令は出していない」

 《緊急時に際し最適解を判断。ギアハンドラーの生存を優先》

 「そんなことをしても状況は変わらない! もう、お姉さんは助からないっ……!」

 《天津第31補給部隊所属、医務官禊雫の死――不確定。戦況判断、周辺の天津部隊の壊滅――不確定。当機の起動限界――確定。以上の要素により判断しました》

 「ダイダロス……わたしはお前を――」

 こいつは私に生きろと言っている。

 確定していないことを諦めるなと言っている。

 そのために自分を犠牲にすると言っているのだ。

 だが私は、お前に死ねとは言えないッッ。

 《グッドラック、マスター》

 私が何か言葉を形にする前にカラーギア起動用のキーが排出され、私はコックピットブロックごと外へ放り出される。

 そこに無駄なやりとりは一切なく、AIが導き出した最適な言葉だけが選ばれていた。

 「まだ何か見せてくれるのか人間。いいぞ。最後まで足掻け! 生を謳歌しろ!」

 魔女は急に外へと弾き出された私の存在に一瞬だけ気を取られた。

 その隙にダイダロスは自分自身を操作し、ダメージが蓄積したボロボロの機体――その全てを使って魔女の全身を包むように抱きしめる。

 「実に最期らしい無駄な足掻きを――――――いや」

 終始笑みを絶やさなかった魔女の表情が剣呑を孕む。

 気づいたのだ。自身の体を包み込んだ機体のエネルギーが、収束し続けていることに。

 「すまないダイダロス……ありがとう、ッ――」

 機体から弾き出された私はCEMが群がる車両へ向かって駆け出した。

 コックピットブロックを変形させたパワードスーツを身に纏い、お姉さんの元へと急ぐ。




 直後、後方で強力な爆発が起きた。


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