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25話 色と色がぶつかり合う戦場

 「グリーン・αサイクロン――レッド・βサイクロン――ブルー・γサイクロン」


 魔女が終わりを告げた戦場に新たな言葉が紡がれた。

 世界に描かれたのは――それぞれが色の違う三つの暴風。

 この局面において大阪はカラーによる新たな技を繰り出す。

 今までは少女の技を表面的になぞり、模倣と部分的な改良を行っただけだった。

 だがそこへカラーの解析――アップデートが完了したとばかりに色の違う風――緑、赤、青の風を発現、世界を書き換えてみせた。

 三色の暴風はそれぞれ三方向から赤き炎の竜巻へとぶつかって、魔女の技を削る。

 三方向から同時に削られたのでは、いかに魔女の強大なカラーでも無事では済まない。

 「いいぞ、いいぞいいぞ……。もっと……もっと、もっとだ! 全力でこい!!!」

 それでも赤き炎の竜巻は三色の暴風に対抗するように、負けじとその勢いを強めた。

 赤と三色、炎と風、CEMと機械、カラーが生み出した現象がお互いに喰らいあう。その衝突の余波は熱波となって周辺に伝播し、炭化した森にさらなる破壊をもたらした。

 そして戦いの終わりは唐突に訪れる。

 「もっとだ。もっとカラーを高めろ。カラーを引き出せ! おおおおおおおおおおお!」

 「全て、大阪の――ため、に――大、阪――――」

 色と色がぶつかり合う戦場で、どさりと音を立てて何かが地面に倒れた。

 それは――かつて天津の少女だったモノが立てた音だった。

 大阪の意思の元に動く少女は魔女の恐るべきカラー量に対抗し続け、熱波に曝され続けたことで、その体は限界を超えた状態で稼働していた。

 たとえ彼女の体が大阪細胞の力で半機械化され、痛みを感じず命令のままに動くマシンに変わっていても、所詮は人間の延長線上の存在に過ぎない。

 その本質がCEMである魔女とは構造が、もって生まれた本質が違っていた。

 魔女が生み出すあまりの熱量に大阪兵の大半が炭化して、その身を世界に還していく。

 「ふはははははっ。少しは楽しめたぞ、玩具共ッ。この場所では大地からカラーを吸収して回復できないとはいえ、俺とここまで戦えたことは誇っていい。がっははははははは」

 カラーを用いた両者の戦いの行方は、数ではなく種族の差が勝敗を分けた。


 ここに魔女と大阪の激突は決着する――その時、戦場に女神が降臨した。


 「来るのが遅れてごめん! そこの子! いま助けにいく!!!」

 決着を迎えた戦場に響いたのは、私がいま一番聴きたかった声だった。

 しかし同時に、この場所で一番聴きたくなかった声でもあった。


 天津軍補給部隊の専用車、天津製の特殊装甲輸送車がカラーの衝突によって焼け野原と化した戦場を駆ける。

 車体に31と大きく部隊名が書かれた特殊装甲輸送車は、雪のように積もった黒い灰を掻き分けながら、大阪となって戦い――倒れた少女の元へ向かって進んでいた。

 「――――――っ。お姉さん。お姉さんを助けないと、私が、助けない、と」

 私は一向に回復しない通信状態に苛立ちながら、お姉さんを助けに動くことを考える。

 横目にカラーギアの修復率の数値を確認するが――数値は50%にも達していない。

 私は不出来な自分と理不尽な現実への苛立ちで頭がパンクしそうになっていた。

 だがその苛立ちの間にもお姉さんの乗る輸送車は戦場の中心へと進み続ける。

 その少女はもう天津の人間じゃない、危険なんだ。

 もう、助けられないんだ。

 落ち着けプラーズ。今は冷静にならなければ。

 状況を整理して対応しろ――プラーズ・ペイント。

 目の前でお姉さんは生きている。

 そう、生きているんだ。

 これ以上に喜ばしいことはない。

 だから考えろ、絞り出せ――私にいま、できることを。

 「まだ俺様と遊びたいやつがいるのか? いいぞ。まだまだ遊び足りん、こい」

 魔女はくつくつと笑いながら掌を掲げ、火球を生成して放つ。

 その大きさは車両のタイヤほどだが、直撃してしまえば横転するだけでは済まない。

 「あなたが最強の生物だろうがどうでもいい――いい気にならないでよね」

 輸送車はその堅物な体躯に似合わない曲芸のような動きで灰の地面を快走していた。回避のために車体を斜めに傾けたかと思えば、片方のタイヤだけで走行を継続する。

 見事な運転技術には脱帽するところだが、喜んでもいられない。

 なぜなら魔女が放った火球は一つだけではないのだ。

 魔女の掌からは次々と火球が生み出され、車両に向かって放たれ続けている。

 だが、その絶望的な現実に、お姉さんが屈することはなかった。

 迫り来る数多の火球に対してお姉さんの乗る輸送車は右に左にと巧みに回避を続けた。それは時に急ブレーキをかけて一回転し、地面に堆積する泥と灰の塊をタイヤで巻き上げ、魔女にお見舞いするサービスまで行うほどだった。

 そのような運転技術の極地を披露した車両は、ついに倒れ伏した少女の元へたどり着く。

 「やるじゃねぇか。褒めてやる――さぁ戦おう、その命尽きるまで! ぬははははっ」

 魔女は体に浴びた泥と灰の混合物を炎で蒸発させながら、相手をただ称賛し、笑った。

 そこにあるのは怒りではなく、相手への賞賛と戦うことへの喜びのみ。

 「それはどうも。あなたたちがここら一帯を焼け野原にしてくれたおかげで走りやすかったわ。でもね、戦いは結構。私には私の仕事があるもの。医療行為の邪魔をしないで」

 威勢のいい拒絶の言葉とともに車両から影が飛び出した。

 影は車両の後ろ側から地面に倒れ伏した少女を車内へ搬入しようとする。

 「おいおい……俺様のことは無視か。つれない女だな、もっと、楽しませてくれよッ!」

 魔女は片手に巨大な火球を生成しながら下卑た笑みを見せた。

 この一撃を防げるかと、かわせるかと。

 だが、その光景を前にしても影は臆することなく黙々と作業を進めた。

 影は少女の搬入を終えて自身も車内に退避しようとしている。

 そこで巨大化を続ける火球――その大きすぎる明かりが影を照らした。

 明かりに照らされたことで影の正体が克明になる。


 その姿はやはり――雫お姉さん!


 私は先ほどの声からその存在を確信していたとはいえ、その姿をはっきりと目視したことで自分の中の何かがガチリと噛み合ったような気がした。

 お姉さんに向けて放たれた大火球は車両を飲み込むほどの大きさがあった。

 それでも、私は迷わない。

 鉛のように重かった体が、お姉さんの姿を目の当たりにして羽のように軽くなる。

 私はカラーギアを駆り戦場の中心へと突入していた。

 機体腕部に装着されたカラーブレードが魔女の放った大火球を真っ二つに両断する。

 「雫お姉さん。助けにきたよ。あとその子はもう――」

 数年ぶりのお姉さんとの会話、それが叶ったのがまさか戦場でなんて。

 これはきっと私とお姉さんの運命なのかもしれない――そんなことが頭によぎる。

 そんな運命よりもまず少女のことを伝えようとするが、すでに車両は発進していた。

 「ありがとうプラーズ、あなたのこと信じていたわ。この子は――これでいいのよ」

 ああ、お姉さんが生きている。目の前に、生きてそこにいる。

 お姉さんの温かな声が、凛とした美しい瞳が、私だけに向けられた。

 その事実は魔女への恐怖を吹き飛ばして有り余るほどに、弱い私を鼓舞した。

 お姉さんの存在が私に勇気を与えたことで戦うための闘志が湧き上がってくる。

 結果、お姉さんのために戦う意志で満たされた私の思考は、お姉さんがこれでいいと言ったならばそれでいいと、大阪となった天津の少女の状態を頭の片隅に追いやっていた。

 「おいおいまた新手か。だが――飛び入り参加は大歓迎だ!!!」

 「おまえはここで食い止める。お姉さんには指一本触れさせやしないっ」

 私の搭乗する機体――ダイダロスの修復率はようやく50%を超えたところだったが、自身の操縦技術と相棒の性能ならば、魔女が相手でもやれるはずだ。

 私が培った技術を、自分の機体を――信じる。

 私の操縦技術は機甲大隊で単独行動を許可されるほどのもので、そんな私がお姉さん以外に一番向き合ってきたのは人間の誰でもなく、この機体――ダイダロスなのだから。


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