24話 大阪の戦術
「よし、これなら……いける。すぐに彼女を助けて――――え……?」
私は思考を現実に反映させようと、動き出そうとした。
その時、戦場が――動いた。
最初に動いたのは攻撃を無力化された魔女ではなかった。
「「「「「大阪のために、大阪のために、大阪のために」」」」」
その動きを変えたのは、もう一つの敵――大阪だった。
少女のカラーが魔女の攻撃を無力化した事実に、戦場は変化する。
そこから次の一手として大阪が狙いを定めたもの、それは。
「きゃっ、な、なに。いやっ、こないでっ」
大阪兵に狙われたのは――戦場を変えた天津の少女だった。
機械化された兵士たちは無機質な表情のままで少女へと迫る。
しかし大阪兵は、その銃口から少女に対して光弾を撃ち出すことをしなかった。魔女に対して牽制の攻撃を続ける兵士を残して、数体の兵士が少女に向かう。
不気味な沈黙を続けながらも、あくまで少女に対しては攻撃を行わない。
大阪兵は少しずつ、少しずつ、じりじりと少女への距離を詰めていく。
「あいつらは何を狙っている? 大阪兵の行動、その特性――まさか」
大阪兵の行動の意味を理解した私は、即座に機体の兵器を起動して狙撃を実行する。
――頼む、間に合ってくれっ!
「いやっ、いやあっっ。こ、こないでっ! くるなっ!」
近づいてくる大阪兵に怯える少女は拒絶の意思を言葉にする。
しかし負傷して動けないのか、へたり込んだ体勢のまま後ずさることしかできない。
「近づく、なぁっ!!! オーダー・グリーン・サイク――ッ?!」
自身に向けられた銃口に気を取られていた少女は後ろから迫る物体に気づかない。
それは大阪兵の体から伸びる管で、少女の体に巻きつき――その白い首筋に突き刺さる。
「――ッ、――ッ、――ッ!!!」
突然の痛みに少女は目を見開き、言葉にならない声を発した。
その中で何かが、突き刺した管を伝って大阪兵から少女の体に入っていく。
それはドロっとした鈍色に光る液体で、管が突き刺さった首からどくどくと少女の体内に流れ込み、少女の中に広がっていく――戦場に機械音が、響いた。
「くそっ。もう、手遅れだ。彼女は、もう――」
少女に接続した大阪兵を破壊することには成功したものの、私はそれが手遅れだと悟る。
「なにやってんだぁ木偶ども? カラーを使うそいつは俺の玩具だぞっ」
魔女は大阪兵の時間稼ぎに気づき、その包囲の壁を突破して少女へと襲いかかった。
だがすぐにその穴を塞いだ大阪兵たちは包囲網をより強固な二重三重に組み直して、直ちに魔女への攻撃を再開、継続させる。
大阪の兵士が天津の少女を守っている――異様な光景。
戦場において敵対する組織の兵士を守ることなど、ありえない。
それが機械化され、合理的な思考の元に行動する大阪兵ならばなおさらのことだ。
「いやああああああああ!!! 機械、大阪、いやああああ、あ、ああ、aa、a」
戦場に少女の叫びが木霊する。
その叫びに私は先ほどの通信を思い出していた。
最後の言葉は聞き取りづらかったが、いま思えば少女は『大阪になりたくない』、そう言いたかったのではないだろうか。
すでに少女の身体の皮膚下からは機械が顔を覗かせ始めていた。
それは新陳代謝によって新たな皮膚が作られるように、少女の体は急速に大阪兵のソレへと近づいていく。
「おらあ! どきやがれ、木偶どもっ。そいつは俺の、玩具だあああああああああ」
二重三重に敷かれた包囲の壁すら蹴散らした魔女が、変わる少女の眼前に迫った。
そして大地を焼き尽くした炎が少女に向けて放たれる、そして――
「オーダー・グリーン・サイクロン」
誰かがそう言葉にしたことで戦場に再び緑色の風が吹き荒れた。
少女を焼き尽くさんと魔女から放たれた赤き炎は、またも突如として発生した緑の風に掻き消される。
そこに、いたのは。
それを、行ったのは。
そう、機械的に言葉を発するのは。
「全ては大阪のために」
それは全身を機械に犯されて大阪となった、かつて天津の少女だったもの。
思考と行動を機械に統制された、統合体の元に機能する戦闘マシン。
戦場に立つ少女の顔からは一切の感情が消え失せていた。
無機質なそれは紛れもない――大阪兵の姿だった。
天津の少女が大阪に取り込まれたことで、戦局は一つの転換点を迎えた。
激化する大阪と魔女の戦いに、私が介入する余地は――ない。
大阪は取り込んだ生物の能力、思考および技術を吸収して共有――進化する。
よってカラーを行使するカラードが取り込まれれば、当然その力は大阪のものとなり、他の個体にも共有されるのだ。
「「「「「グリーン・αサイクロン」」」」」
少女が使っていた技を模倣した大阪兵たちが、その声を機械的に紡ぐ。
それは整えられた機械的な合唱で、統一された声が戦場に整然と響き渡る。
淡々と紡がれる言葉に世界は上書きされて、発生した緑の暴風が魔女に襲い掛かった。
大阪の兵士は、この一瞬でカラーという力を会得する。
そして大阪が力を会得するだけでは終わらないことを、長く大阪と戦ってきた天津の記録で私は知っていた。
彼らは会得した技術を既存のものと掛け合わせ、改良、発展、進化させる。
つまり、今までに大阪が取り込んできたカラードの能力、カラー関連の知識が瞬時に共有されることにより、最適化された能力の使用が可能となるのだ。
「おお?! おおおおおおおおぁぁぁぁぁ!」
複数の大阪兵から放たれた風が巨大な暴風となって魔女の巨体を吹き飛ばす。
発生した暴風は魔女の炎を削り取って吸収しながら、なおも巨大化を続けていた。
「はっ、ははははっ! いいぞぉ女。お前のおかげで木偶どもが歯応えのある玩具に早変わりだ。俺も少しは本気を出せるというものだぁなぁ!」
体を逆さまにして宙を舞う魔女は、暴風にその身を切り刻まれながらも、笑った。
攻撃を受けているというのにその表情は涼しげで、この状況を楽しんでいるようだった。
「さぁ――いくぞぉ! これにいいいいい、対処してええええ、見せろおおおおお!」
魔女の掛け声が放たれるのと同時、緑の暴風の中心から赤い炎が爆発的に広がった。
瞬間的に膨らんだ炎は暴風に削る暇を与えず、その中心から逆に飲み込んで乗っ取ってしまう。
そして――戦場に産声を上げたのは赤き炎の竜巻だった。
その竜巻は目の前に存在する全てを焼き尽くしながら大阪兵へと迫る。
大阪兵はカラーを行使できる個体を守ろうと別の個体を盾にするが、レーザーをものともしない炎の竜巻は大阪兵を焼き尽くしながらも、その歩みを止めることはなかった。
大阪兵の主力武装たるレーザーが通じないことが判明した以上、彼らが魔女の竜巻に対抗するためには、カラーを使用した技でより大きな色の風を発生させるしかなかった。
だがいかに大阪が兵士全体に能力を共有させようとも、カラーの素質を持たない個体はカラーの行使ができない。
それは拳銃をどれだけ製造することができても手がなければ撃てないように、大阪兵も共有した個体がカラーの素質を持たない場合は、色の風を発生させることができないのだ。
「「「「「全ては大阪のために。全ては大阪のために。全ては大阪のために」」」」」
大阪兵が恐れを知らず、命を捨てることを厭わず、知識と技術を共有して最適化できたとしても、カラードが行使する技は個々人のカラーに合わせたものだ。
そのため別の個体が同じ技を使ったとしても、それがオリジナルと同じ出力になることは決してなく、個々の威力が低下した劣化コピーにしかならない。
「よくやったとは思うが所詮は猿真似だな。カラーを軽んじるものどもめ。燃え尽きろ」
いま戦場で行われているのは命を浪費して時間を稼ぐ遅延行為であり、定められた全滅を前にした終わりまでの時間を引き伸ばす延命行為だ。
だがそれも魔女の一撃によって終わりを告げられる。
「「「全ては大阪のために。全ては大阪のために。全ては大阪のために」」」
では、どうするのか。
大阪兵はこのまま、ただただ数を減らして全滅する?
大阪兵は機械的に、合理的に動いている。
そこに無駄な行動は――――――一つも存在しない。




