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23話 反抗の兆し

 そのように私が逃避と思考停止をする中で、戦場をモニターする画面が明滅する。

 明滅する光――戦場に動きがあったのだ。

 光の線が画面内で瞬いたかと思えば、それは怪物目掛けて殺到する。

 「おっと? 新手か。まだ楽しめるということでいいんだろうな、人間!」

 その光の正体はビーム兵器で、それは魔女に対する明らかな敵対行為だった。

 そしてそこには魔女を恐れることなく立ち向かう人型の集団が、人を超越した兵士で構成された軍隊が、魔女を取り囲むように布陣していた。

 いや、そもそも恐れる以前に――彼らの感情は停止していた。

 その軍隊は感情を持たず、ひたすらビーム兵器による集中砲火を魔女に浴びせ続ける。

 軍隊に属している兵士たちの姿形は紛れもなく人間の造形をしているが、鎧を脱ぎ捨てた彼らは性別も年齢も背格好もバラバラで、軍隊としての統一感がまるでなかった。

 そんな衣服すら纏わない軍隊の共通点は、体が生物としての有機的な部分と機械としての無機的な部分に分かれており、配線のような管が至る所で繋がっていることだろう。


 「「「「「全ては大阪のために。全ては大阪のために。全ては大阪のために」」」」」


 それはまるで壊れたラジオのように、機械的な声を繰り返し戦場に響かせた。

 その言葉に主張こそあれど熱はなく、ただただ冷めた文字の羅列が並ぶ。

 皆一様に淡々と粛々と、その目的に向けて邁進する。

 与えられた役割のためだけに、己の全てを捧げて命令の元に回転する歯車たち。

 彼らはかつて人間だったものであり、すでに人間ではない。

 個別の意思で行動せず意識の統合体から発せられた指令でのみ動く、いわば人形。

 その意識はバックアップされ、有能な個体は再度肉体を与えられて復活するという。

 彼らは死を恐れない――生死などすでに克服している。

 彼らは心を制御する――感情などすでに停止している。

 感情の制御に加えて死という概念の超越――人間における体と心の進化の果て。

 人類の長い歴史の中で偉業とされるその技術を最悪の形で実現した国家――大阪。

 「はッ! いいぞ、かかってこい。木偶どもォ!」

 集中砲火が起こした粉塵の中から勢いよく飛び出した魔女は、余裕の笑みを浮かべたまま大阪兵を殴りつけ、蹴り飛ばし、頭部を掴んで焼き殺した。

 魔女に顔面を掴まれた兵士は一瞬で燃え尽きて炭化、その体は灰となって霧散する。

 普通の兵士には耐え難い、目の前で起きた仲間の死――だが、大阪兵は動じない。

 仲間の死を悼む感情を廃棄した彼らは仲間の死などお構いなしというように、陣形の空いた場所を直ちに埋めて部隊を再編成、魔女への集中砲火を継続する。

 そこに感情の色はなく、ただただ敵を抹殺する目的のために行動する兵士の姿があった。

 「「「「「全ては大阪のために」」」」」

 大阪兵の軍団はその命を散らしながらも、強大な敵――魔女との激戦を繰り広げている。

 私は呆然としてその戦いを見守っていた。

 いや、動けずに固まっていたというほうが正しいのかもしれない。

 「あ、ああっ……」

 常識を超越した異次元の戦闘を見せつけられ、これが本物の戦場なのかと思い知る。

 私は施設にいたときも、訓練学校にいたときでさえ、心の中では周りを見下していた。

 それはきっと、自分だけが世界を理解した気になっていたから。

 しかし戦場に出てみればどうだろうか。

 訓練用のシミュレーターから逸脱した状況に動けない、何もできない。

 私はそんな自分という存在の小ささを嘆き、コックピットの中で無力に震えていた。

 眼前の大阪兵のように味方が殺されようとも敵の力を削ればよしとして、対局的に判断して動かなければ――それくらいの覚悟がなければお姉さんを救えないのだろうか。


 いまの私に――その覚悟はあるのか?


 その問いを自分に投げかけた時、大阪兵が放ったビームを魔女が太い腕で弾き飛ばした。

 弾き飛ばされたビームは進行方向を強引に変えられて、少し離れた場所の岩を砕いた。

 ビームの着弾によって岩が砕けるのと同時に声が上がる。

 「――っ?! ああっ、あっ。はっ、はっ、はっ」

 大阪兵にしてみれば数ある攻撃のうちの一つを防がれた程度のことだったし、魔女からしてもただの防御行動に過ぎなかった。

 しかしそれは――戦闘の恐怖に取り憑かれ、岩の影に息を潜めて隠れることしかできなかった弱者の運命を変えてしまう。

 それはいつか訪れる機会がたったいま訪れただけのことかもしれない。

 だがそれでも当人からすれば、岩の影に隠れてやり過ごすという選択肢が消滅した運命の分岐点であり――自分という命の行末が定められた決定的な瞬間だった。

 「いやっ、殺さ……ないで。死にたく、ない、よ」

 岩の影から姿を現したのは軍服を身に纏う少女だった。

 その軍服はひどく汚れているものの、先ほどプラーズが発見した天津の少女と同じものであり、ドクロに花が添えられた部隊章が付けられていた。

 それは彼女が、すでに息を引き取った少女と同じ部隊の生き残りで、天津所属の人間ということを意味していた。

 その首元に付けられた白色のチョーカーも同一のもので間違いない。

 魔女を前にして恐怖に歪む少女の顔には悲痛な感情が滲み出ている。

 人間という生き物は脆弱だ。

 魔女のような肉体の頑強さもなければ、大阪兵ほど感情を制御できているはずもない。

 結局、この地獄のような戦場において人間の少女にできた唯一の行動が、岩の影に隠れてやり過ごすというものだったのだ。

 「みの、がして、ください」「「「「「大阪のために、大阪のために」」」」」

 大阪兵の軍団は怯える少女のことなど気にも止めずに魔女への集中砲火を続ける。

 現在、大阪兵は天津の少女を無視して魔女と交戦中だが、天津と大阪は敵対関係にある。

 天津所属のプラーズに少女を助ける理由があっても、大阪兵には助ける理由がない。

 むしろ敵対関係にある少女が狙われていないだけでも僥倖なくらいの状況だった。

 大阪兵が天津の少女を狙わないのは、純粋に敵の危険度を判断する上で、魔女よりも優先度が下だったというだけの話に過ぎない。

 仮にこの戦場から魔女がいなくなってしまえば、大阪兵の標的は少女へ移行するだろう。

 戦場で孤立した少女に与えられたのは一時だけの安寧。

 だが、そんな気休めの安寧になんの意味があるだろうか。

 ここは血と鉄と灰にまみれた戦場だ。

 真の意味で心からの安寧をくれるのは、己の強さだけなのだ。

 「ぐははははっ。燃え尽きろ、焼け死ね、木偶どもッ!」

 一方の魔女は興味がないのか少女を視界に入れることすらせず、構うことはない。

 その視線と攻撃は大阪兵に向けられ、手からは大地を焼き払う灼熱が放たれる。

 しかし構うことなく行動するというのは、無視するという意味と、巻き込まれようと知ったことではないという二重の意味が含まれていた。

 魔女が放つ無慈悲な灼熱は大地もろとも大阪の部隊を焦土に変える。

 それは座り込んで動かない少女もまた、例外なく運命を共にする――はずの一撃だった。

 「なに……何が起きた、これは――風?」

 魔女の放った灼熱が数mと広がらず、宙空で世界に溶けるように消えた。

 灼熱が解き放たれた瞬間に緑色の風が巻き起こり、炎の熱を奪ったのだ。

 その、色を孕んだ風を起こしたのは。

 異次元の戦いに転機の風を吹かせた者は。

 「はぁ……はぁ……はぁ……オーダー・グリーン・サイクロン」

 魔女、大阪兵、プラーズの視線の先に。

 そこには、震えながらも二本の足で立つ天津の少女の姿があった。

 震えて座り込んでいた天津の少女はいつの間にか立ち上がって、その力で風を起こして魔女の灼熱を無力化、戦場に変化を起こしたのだ。

 「うぅ……はぁ……はぁ……。――うっ」

 天津の少女は先ほどの風を起こしたことで力を使い果たしたのか、前方へと強く突き出していた右腕をだらりと降ろし、自身もその場にへたり込む。

 それから体を休ませるように、肩で息をしながら荒い呼吸を繰り返している。

 「あの風は兵器が起こしたものじゃない。あれはカラーの力、あの少女がカラーを使って起こしたものだ。あの子はカラーが使える……カラー使い、カラードなんだ」

 プラーズは訓練校時代の研究で得た知見から、少女がカラーを行使したことを看破した。

 「彼女は怪物を前に震えながらも立ち上がった。ならば私が動けなくてどうするっ」

 私にはやるべきことが、果たすべきことがある。

 いつの間にか手の震えは止まっていて、少女の勇姿に私の何かが動き出そうとしていた。



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