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本の紹介17『ガリヴァー旅行記』スウィフト/著

作者: ムクダム

全ての人間嫌いに贈る風刺の効いた冒険譚

 タイトルは有名だけどしっかりと読んだことがない人が多い古典作品シリーズ(勝手に命名)の筆頭として取り上げられるであろう作品です。児童向けの絵本作品として認識していたので、400貢超の小説作品と知った時はちょっと驚きました。

 主人公であるガリヴァーが小人の国に漂着し、巨人として捕まってしまう話が有名かと思いますが、その他にも巨人の国や空飛ぶ島、馬が人間を飼育している国などのユニークな世界が描かれています。お話としては短いですが、日本渡航記というものも収録されています。作者のスウィフトは17世紀生まれですので、当時のヨーロッパ人にとって日本は空想の国と並び立つような未知の国だったのでしょう。

 ガリヴァーは医学を修め開業医となろうとしますが、不景気の影響などで目処が立たず、船医として船旅に出ることで当面の財産を蓄えています。そして、何度目かの後悔の時に船が難破し、小人の国に漂着するというのが物語の始まりとなります。

 小人の国で散々な目に遭いながらも妻子の待つ陸地に帰還したガリヴァーですが、不思議な国での体験が強く印象に残ったせいか、その後も度々航海に出て、数々の奇妙な国を訪れることになります。

 キャラクタの造形として面白いと思ったのは、ガリヴァーが次第に航海に取り憑かれていくように感じられたことです。彼は元々は陸地で開業医となり、妻子とともに暮らすことを目標としていました。海上での生活はあくまでそのための資金集めの手段であり、また、その生活に飽き飽きし始めている様子だったのですが、小人の国から帰還後は率先して海に出るようになります。

 これは、未知の国での不思議な体験を通じ好奇心が刺激されたという面も確かにあると思いますが、個人的にはガリヴァーが段々と人間のことが嫌いになったためではないかと感じました。

 本作は風刺の効いた作風になっており、ガリヴァーが漂着した不思議な世界で経験するのは、ファンタジー小説的な冒険ばかりではなく、不条理とも言える出来事も含まれます。小人の国や巨人の国など、彼が訪れる国は現実の人間の世界とは明らかに異なる世界なのですが、現実と全く無関係というわけではなく、ある意味で現実の人間世界の嫌な部分、おかしな部分を先鋭化して描写しているようにも思えます。

 例えば、空飛ぶ島で生きる人は学問に入れ込みすぎたせいで頭でっかちになり、いつも頭が左右のどちらかに傾き歩くのがおぼつきません。知識や知恵を頭に蓄え込んでいるため、些細な問題が絶えず気になるようになり、不安な生活を送っています。世界が明日にでも終わるのではないかと本気で考えながら、毎日を生きているようなものです。これは現実での行き過ぎた知性、知識の偏重に対する皮肉のように受け取れます。最たるものが、ガリヴァーが最後に訪れるフウイヌム国で登場する「ヤフー」という生き物です。ヤフーは国の支配者である馬に飼育されている存在なのですが、作者はこのヤフーに現実の人間を投影しているように思います。ヤフーとその主人を取り巻く描写は皮肉を通り越してもはや人間への憎悪すら感じさせます。

 冒険譚というと、主人公が様々な困難を乗り越えて故郷に帰りつき、なんだかんだで幸福な結末を迎えるというのが王道かと思いますが、本作の場合、冒険を通じてガリヴァーの心は故郷や家族、そして人間社会から離れて行っているように感じます。訪れた国々で人間の負の側面をまざまざと向き合うことになったため、そのような方向に進んだのかなと思いますが、そんな捻くれた物語の構成が不思議な魅力になっているのかなと。

 嫌なことがあって人間嫌いになった時に本作を読むと良いかもしれません。ある意味で極まった人間嫌いがここには存在するので、自分の悩みが吹っ飛ぶ感覚を得られる可能性があります。終わり

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