キリトリ線上の空事
作者・水沢さやか
共同編集者・水倉綾音
※この作品は舞台台本用に書いたものです
*屋敷の前にて
真昼「おっはよーございま〜す!」
優龍「おはよう」
弥白「今日は早いねえ」
律「いつもこのくらいに来てくれたらな」
真昼「あ、あれでも頑張った方なんだからね!」
弥白「まあまあ」
真昼「じゃ〜レッツゴー!」
みんな「お〜」
(言い方に個人差あり)
暗転
*別れ道にて
律「えっと…今日はこっちかな」
優龍「まって、そっちは49日前に一度行って穴が空いて落ちたとこ」
真昼「え〜そんなことあったっけ〜?」
弥白「日程までよく覚えとるね」
優龍「まあね」
律「メモしてなかったから追加しとく」
弥白「ありがとさん」
真昼「じゃあこっちかな〜」
優龍「そこはまだ行ってないから行ってみようか」
律「ああ」
暗転
*洞窟にて
律「うわ、暗っ…」
真昼「え、そう?」
弥白「ランタン的な物持っとらん?」
律「今日はそこまで暗いところに行くなんて予測してなかったから持ってないな」
真昼「じゃあ私に任しといて!」
弥白「こういう時に夜目が効くのってええなあ」
真昼「でも眩しいとこ苦手」
律「太陽とか嫌いだしな」
真昼「朝日とか綺麗で好きなんだけど目が痛くなるから…」
弥白「あはは…でも、ゆうりは夜目が効いた方がいいんやない?」
律「いや、いろ〜んな物が見えちゃうからそれは嫌なんだと思う」
真昼「ゆうり〜だいじょぶ〜?」
(肩に手を置く)
優龍「ひいっ」
真昼「うおっこりゃだめだ…置いてく?」
優龍「やめて!?殺す気!?」
真昼「殺すってそんな大層な…」
弥白「2人とも落ち着いて…、あ、ほらあそこになんか光が見えるで」
律「あ、本当だな。ゆうり、取り敢えずあそこまでは歩いて」
優龍「あ〜」
暗転
*洞窟最奥部にて
律「明るっなんだこれ」
弥白「大分広い空間やねえ」
(弥白、真昼にサングラスを掛ける)
真昼「大体こういうとこでラスボス出るよね」
優龍「いやまだでしょ」
弥白「もう大丈夫?」
優龍「私に怖いものなんてないからね」
律「あはは…」
真昼「でも結構出るもんだよ〜、お化けとか…幽霊とか」
(脅かせるように後半に向けてクレッシェンド<)
優龍「ゆ、ゆゆゆ幽霊ですって!?そんな非科学的な物信じてるの!?幽霊の定義自体曖昧な物で例えば現世に何かしらの後悔があって魂が成仏出来ずに残っている状態なのだと仮定したら、成仏出来る年数を400年程度とし、人の寿命の100年程で割った時、明らかに幽霊の方が個体数が多いからそんな人数が現世に残っている時点で明らかに人口密度というか幽霊密度が大変な事になるしそもそも幽霊なんてっ」
ガタッ(後ろの方で音がした)
優龍「ひいっ」
律「なんだ!?」
(かまえる)
真昼「…?可愛い…女の子?」
少女「…」
優龍「幽霊じゃ…ない…?」
律「迷子か?にしてもこの服…」
弥白「大丈夫〜?寒ない?」
少女「…」
真昼「声が出せないんじゃないかな?〜」
優龍「…コホンッ、取り敢えず屋敷に戻らない?“収穫”はあったんだし」
律「じゃあ一緒に帰ろうか」
(少女に手を差し出す)
弥白「怖くないからね〜」
優龍「で、誰かライト持ってない?」
暗転
*屋敷にて
真昼「たっだいま〜!!」
弥白「疲れたねえ」
優龍「はあ…私肉体派じゃないからもう無理…」
律「貧弱だな。」
真昼「そうだよこのくらい普通普通」
優龍「私をあんたらみたいな化け物と一緒にしないで…」
弥白「君も大丈夫?」
少女「…」
律「ほんっとに一言も喋らないな」
優龍「どこから来たのかも知らないし…名前は?」
少女「…」
真昼「ダメか〜」
少女「…ゆづき」
弥白「え?」
少女「ゆづき」
優龍「やっと喋ってくれた」
真昼「ゆづきちゃんか〜」
律「いい名だな」
(少女、頷く)
優龍「よし!私がゆづきちゃんに美味しいご飯作るね!」
律「いや!ゆうりは作らなくていいんじゃないかな!」
優龍「え、なんで?」
真昼「いや、その〜、ゆうりの料理を食べちゃうと美味しすぎて、倒れちゃう!…みたいな」
(ジェスチャー入れて)
弥白「そうそう!今回はうちが作るからゆうりは食器並べといてくれんかな」
優龍「分かった」
(3人とも安堵のため息をつく)
律「ゆづきちゃんは何の料理が好き?」
少女「…おむらいす」
弥白「オムライスか!ええなあ。ほなお姉さん張り切って作るわ!」
真昼「やったあ!オムライス♪」
弥白「まひるはカプセルやよ」
真昼「なんで!?」
弥白「うちらにそないな栄養要らんやろ、食事なんてただの飾りや。カプセルで十分」
真昼「う〜」
律「まあまあ、いいんじゃないか?たまにはやしろの料理食べたいな」
弥白「りつがそう言うんやったらいいけど…」
優龍「じゃあ、明日はゆうりにた〜っぷり働いて貰わないとね」
真昼「おっけー任せといて!穴掘りでも木こりでもなんでもやる!」
優龍「そこまではいいかな…」(苦笑い)
暗転
*金庫にて
(少女下手からでてくる、何かを探しているようだ)
弥白「なにやっとるん?」(優しげに)
(少女びっくりする)
弥白「そんな気い張らないでええようちしかおらんし」
少女「…なんで」
弥白「う〜ん何となく?君がここにくる気がしたから」
(少女、警戒する)
弥白「じゃあ次はこっちの番。ゆづきちゃん、君は何者?」
少女「…分からない」
弥白「分からない?」
少女「…本当に、分からないの。いつの間にかここに居て」
弥白「…そっか」
少女「…それだけ?疑わないの?」
弥白「君が嘘をついてるようには見えんもん。何か隠してはいそうやけどね」
少女「…」
弥白「ええよ。ここにおり」
少女「…いいの?」
弥白「うちはね。ただし、絶対に帰る事。待ってる人もおるやろしね」
少女「…ありがとう」
暗転
*鍾乳洞にて
真昼「よーし、今日も働くぞ〜!」
律「はしゃぎすぎて転ぶなよ」
弥白「気いつけや〜」
優龍「にしても綺麗な鍾乳石だね。帰りに持って帰ろうか」
弥白「ええね、ゆうりとりつに頼もうか」
律「はあ、しょうがないなあ」
真昼「ん?なんか落ちてる…」
優龍「まって!まひる!そっちは…」
真昼「え」
グサッ(鍾乳洞に真昼が刺される)
少女「ヒッ」
弥白「あ〜」
律「だから気をつけろって言ったのに」
優龍「また帰んなきゃだね」
少女「…!?なんで!何で…そんな落ち着いてるの…!?」
弥白「なんの事?」
律「まあ一回帰って腕の形完全にもどさなきゃいけないのは嫌だけどな」
少女「そうじゃない!なんで仲間が『死んだ』のにそんな落ち着いてるの!?」
優龍「…?ごめんね。言ってる意味がよく…」
少女「…」
真昼「あ〜いったあ〜」
少女「!?」
律「お前はいつも注意散漫なんだよ」
弥白「じゃあ帰ろっか」
少女「な、んで…生きて…!?」
優龍「…ちょっと考えたんだけど、多分、この子私たちと違うんだと思う」
真昼「ん〜?どう言う事〜?」
優龍「ただの憶測に過ぎないけど、ゆづきちゃんは私たちとは別の何処かから来た子で、その場所では、『死んだらやり直せない』」
律「…は?」
弥白「…そうなんやね、ゆづきちゃん」
少女「やり、直す…?…うん」(警戒しながらも頷く)
真昼「そうなんだ〜、…で?」
少女「…え?」
真昼「だって、ここでは『死んだら初めから』だもん」
少女「だからそれがっ!」
真昼「変?違うよ、『普通』だよ」
弥白「…」
真昼「ただ普通に過ごしてるだけ。私ねあなたにはな〜んの興味もないの。あなたにも、あなた自身にも、あなたの世界にも」
少女「でも…」
真昼「だからさ、帰ってくれない?」
優龍「ちょっと!まひる!」
真昼「所詮違う世界の人なんでしょ?じゃあさ、分かり合えるわけなんてないよ」
律「まひる。言い過ぎだ」
真昼「…りつ。はあ、2人がそう言うんならいいよ。でも、私は知らないからね」(知らないからねを強調して)
(まひる上手へ退く)
律「…私はまひるの言う意見に賛成だ。違う場所から来たのであれば帰った方がいいと思う」
優龍「私は反対かな」
弥白「うちはどちらでもいいや」
少女「…私は、帰んなきゃ、だめ?」
(服の裾を握りしめる)
弥白「君は、どうしたい?」
少女「え?」
弥白「うちらは、ゆづきちゃんがどうしたいんかが知りたいんよ」
少女「私は…。私は、ここにいたい」
律「…はあ、少し大人気なかったね。いいよ、一緒に居よう」
優龍「私達はゆづきちゃんを歓迎するよ」
弥白「な?大丈夫だったやろ?」
(弥白少女の前に屈み手を出す。少女もその手を取る)
暗転
*庭にて
(少女、外にて空を見上げる)
優龍「ゆづきちゃん、眠れないの?」
少女「…コク」(頷く)
優龍「…どうだった?まひるの悪意」
少女「…」
優龍「まひる、ああ言うところあるんだよね。私達以外どうでもいいって言うか…」
優龍「…怖かった?」
少女「…うん。大きいナニカと対峙してるみたいに…何も…出来なかった…」
優龍「…悪い子じゃ、ないんだよ」
少女「知ってる。みんなのあの人への態度から想像は出来る。」
優龍「難しい言葉使うなあ。」
少女「…本はよく、読んでたから」(手元にある本を握りしめる)
優龍「その本?…どんなお話なの?」
少女「…優しくて…とても、温かいお話」
優龍「そっか」
少女「お姉さんは?なにか用事があってきたんでしょ?」
優龍「鋭いねえ…じゃあ、一ついい?」
少女「うん」
優龍「君の世界の、『死』について教えてくれない?」
少女「!…死!?」
優龍「…うん。ちょっとだけ、気になっちゃって」
少女「…死は、怖いよ。いつもどこか近くにいて、まるで私たちを狙っているみたい。」
優龍「…うん」
少女「…でも、終わりあるものだから輝いて見えるのかもしれないね」
優龍「…ありがとう。知れて、よかったよ」
少女「そっか…お姉さん、私の大切だった人に似てる気がする」
優龍「え?大切な人?」
少女「…ううん、なんでもない。」
優龍「冷えてきたからもう行こ。ホットミルクでも淹れてあげる」
少女「…電子レンジ使えるの…?」
優龍「それくらい出来るよ!」
暗転
*玄関にて
コンコン(ノック音)
弥白「はいは〜い、どちらさんでしょう、か…あれ、久しいね」
神無「…」
律「やしろ?どうした?」
弥白「ん〜、敵襲?」
律「…誰だ」
(構える)
キサラギ「お〜怖い怖い、そんな睨まないでよ」
卯美「ヒッ、ぼ、僕たちはただお話をしに来ただけですって!」
律「…話だと?」
?「そう警戒しないでくれ」
弥白「わあ、貴方まで来たんやね」
律「…やしろ?」
?「君は…?すまない記憶にないが会ったことがあるのだろう」
弥白「い〜え?ただ、『知ってる』だけやね」
?「不思議な者もいるようだ。」
(部下の卯美、神無を下がらせる)
?「…単刀直入に言う。新を殺したのは、君か?」
律「…あらた?」
真昼「ん〜おっはよ〜」
優龍「2人とも、誰と話してるの?」
文月「ああ、名乗り出るのが遅れた。私の名前は文月。彼らの、上司だ」
キサラギ「ボス、こんな下賤な者どもに名乗り出る必要などありませんよ」
文月「よせ、こちらは訪問者だ。下手に出るのが筋だろう」
キサラギ「はい!分かりましたボス!」
(嬉しそうに)
文月「改めて言う。新と言う人物を知らないか?」
優龍「…?ごめんなさい、話がよく…」
真昼「まって、ゆうり。あの、先程ちらりと聞こえたのですがあらたさんを殺した…って」
文月「…ああ。私共は新を探している。だが、死んだ。」
優龍「…また、『死』」
(小声)
文月「私の部下が新を見張っていたところ突然新を見失ったと思ったら血痕と肉塊が落ちていた…と言うことだ」
律「…それで?なぜ私達のところへ?」
文月「…それが…あいつが最後に話していたのは、君たちなんだ」
律「…え?」
文月「…本当に、何も覚えてないのか?」
優龍「あの、私達その名前すらも初めて聞いたくらいで…」
文月「…そうか。まあ、今日は確認に来ただけだ。また、後日失礼する」
真昼「…あの」
文月「なんだ?」
真昼「これって、貴方のですか?」
文月「!それは!」
キサラギ「なんです?これ」
真昼「昨日、洞窟で拾って…貴方の指に、指輪の跡みたいな物があるから…」
文月「…サイズが合ってないんだ。」
キサラギ「…ボス?」
文月「…ありがとう。本当に、ありがとう」
真昼「いえ、大切なものは、無くさないように気をつけてくださいね」
文月「…ああ。長居してすまなかった。失礼する」
(文月、上手へ退出)
キサラギ「…私さ〜や〜っぱり納得行かないんだけど、この変な屋敷もそうだけど、話した事がある人物を覚えてないって、そんなの通じる訳ないじゃん?」
優龍「ですが…」
キサラギ「ボスはぁ!やっさしいんですよ!私を拾って育ててくれたボスは、あんたらみたいなクズと違って綺麗でお優しい。そんな方がずっと執着してきた男が何でいとも簡単にお前らみたいな奴に殺されてやがんのか」
律「私たちが…殺した?」
キサラギ「奥に隠れてる奴もいるようですしねえ!」
少女「ビクッ」
優龍「ゆづきちゃん!出てきちゃダメ!」
キサラギ「私の許可なく喋んなよ!」
(優龍を蹴飛ばす)
優龍「痛っ」
真昼「ゆうり!」
優龍「…?」
弥白「知らんもんは知らんですけしょうがないじゃないですか」
キサラギ「ごちゃごちゃうるっせえなあ!!さっさと全員ぶっ殺せば済む話だろうが!ボスの優しさに漬け込んどるんじゃねえぞ!」
弥白「ずいぶん好戦的なこって」
キサラギ「あーあーそうだな。でもそんな私をボスは受け入れてくださった!あんな寛大なボスを、悲しませたあいつを許せねえ。」
優龍「…ニコ」
キサラギ「さっさと死んでくんない?」
(キサラギがでっかい武器振り下ろす)
律「くっ」
(敵に銃を向ける)
真昼「…!」
バン!(銃声)
(優龍が前に立ち銃で撃たれる)
律「え」
神無「キサラギ」
キサラギ「チッ、はあ、わあかったよ」
律「あ、ちょおい待て!」
弥白「ゆうり?どないしたん?また初めからやないの」
真昼「もー私みたいなおっちょこちょいしないでよ〜…ゆうり?」
優龍「…はは」
律「!?なんだこれ血が…血が止まらない!?」
少女「おねえ、さん?」
優龍「ゆづきちゃん、ありがとねぇ」
少女「…え?」
真昼「ゆうり!!」
優龍「やっと、やっと私…」
真昼「ゆうり!何やってるの!?」
優龍「人になれたみたい」
真昼「…ゆうり?…うそだよね…?ねえ、ねえねえねえ!!」
優龍「本当に」
真昼「優龍!!!」
優龍「ありがとう」
暗転
*屋敷にて
(少女、うずくまっている)
少女「…」
トコトコトコ(足音)
(上手から真昼が出てくる)
パァンッ(少女の頬を叩く)
真昼「…ねえ、あれが、君の言っていた死なの…?」
真昼「死ぬってなに…?優龍は?もう、やり直せないわけ?」
少女「…」
真昼「あんたに聞いてんの!!あんたのせいで!優龍は!優龍は…」
少女「…」
真昼「…黙ってないで、何とか言ってよ…言いなさいよ!」
少女「ごめん、なさい…」
真昼「優龍を…返してよ…」
少女「…ごめん…なさい」
(弥白、上手から現れる)
弥白「…まひる、外の空気吸うといで。一回落ち着きな」
(真昼、少女の胸ぐらを離し下手へ駆け足で去る)
(少しばかりの沈黙)
弥白「…ゆづきちゃん」
少女「…わたし、の」
弥白「うん」
少女「私の、せいで!」
弥白「…うん」
少女「お姉さんはっ…」
弥白「…そうだね」
少女「うう…」
(顔を埋める)
弥白「あなたの価値観は、この世界には要らなかったんも知らへんね」
少女「…コク」
弥白「…でも、ゆうりは”それ”を知りたがってたよ」
少女「…え?」
弥白「あの子は、ずっと、終わらせたがってたから。この幸せのまま。永遠に」
少女「…っ。じゃあ私は、どうすればよかったの…?」
弥白「…それはうちには、わからんなあ」
少女「…」
弥白「君の選択は、君にしか出来へんもん。誇りな、それが一番の償いよ」
少女「…はい」
(掠れた声で)
暗転
*屋敷入り口にて
(この時点から律は腕を引っ掻き続けている)
律「…今日も、冒険に行こうか」
弥白「ごめんね、まひるが部屋に引き篭っちゃって…心配だから私はここにいようと思う」
律「…ああ、分かった」
(少女うつむき加減で黙っている)
律「…じゃあ、いってきます」
弥白「いってらっしゃい」
沈黙
弥白「…おるんやろ?神無」
神無「よく分かったね。さすが相棒」
弥白「けったいなことすんなや、うちらの仲やろ」
神無「ふふ、それもそうだね」
弥白「今日はどないしたん?まあ、聞かなくても分かるけど」
神無「あの、少女をいるべき場所へ帰す」
弥白「ええよ、別に」
神無「そりゃそうだ。僕たちにみんな以外必要なんてないんだから。イレギュラーは始末しないと」
弥白「ちょうどあの子のせいで1人死んだ後や、始末はそっちに任しとく」
神無「うん分かったよ。うみ君にはもう言っといたからなんとかしてくれると思う」
弥白「ああ、そや、相棒、先にあっち行っとってくれへん?」
神無「え?」
弥白「あの子らももう死ねるみたいやし主人公のいない物語。もう生きとる必要なんてあらへん」
神無「そっか、やり直さないとだもんね。分かったよ。」
弥白「あんがと」
(銃の奴カチカチしといて)
神無「にしても、死を理解すれば人になれるなんて、面白いこと考えるよね。まあ、その作者さえも君たちが主人公を殺すなんて考えてもみなかっただろうけど」
弥白「はは、そんなんうちらも驚きやわ。手が勝手に動くんやもん。そんでもって記憶を消されるってよほど強い感情が働いたんやろうね」
神無「うーん、世界って不思議。何回生きたってそう思うんだからきっと一生分からないものなんだろうね」
弥白「せやね。あ、準備できたよ」
神無「うん。じゃ、またあっちで」
バアンッ
暗転
*とある道にて
(しばらく沈黙が続く)
律「…ゆづきちゃん」
律「君には、大切な人はいる?」
少女「大切な…ヒト?」
律「うん。幼い君にそんなこと聞くのもどうかと思うけど」
少女「…いた、気もします。家族で…大切な」
律「そっか。じゃあさ、分かってくれるよね」
少女「え」
(剣を投げる)
壁に突き刺さる
卯美「ひえっ、危なっ」
少女「ビクッ」
律「あんたはこないだの…」
卯美「ああ、こんにちは…私の名前は卯美。今日は貴方を倒しに来ました」
律「すまないな、私は“まだ”死ぬ訳にはいかないんだ」
卯美「いえ、今日殺しに来たのは貴方ではなく…」
少女「…私?」
卯美「ええ」
律「なぜだ!彼女は関係ないだろう!」
卯美「…それが、関係あるんですよ。イレギュラーは始末しないと」
律「…イレギュラー」
卯美「私は命令には逆らえません。逆らう気もありません、私は私の道を行くだけ。ただそれだけです」
律「…逃げろ、早く!」
少女「!…ダッ」
卯美「逃げても、無駄ですよ」
(手裏剣を飛ばす)
少女「ヒッ」
(腰が抜ける)
卯美「ごめんなさい、私も貴方みたいな子供を殺したくなんてなかった。でも、私は私の決めた事に誇りを持ちます」
卯美「…あの人が、居なくなったら誰が私を救ってくれるんでしょうね」
グサッ
律「グッ、痛ったいなあ、はあ、私も優龍とおんなじか」
卯美「ああ、ごめんなさい貴方が死ぬ必要はなかったのに」
律「はは、もういいんだよ。だってなあ」
(卯美の腕を引っ張る)
グサ(短剣)
律「守れたんだからなあ」
卯美「かはっお、まえ…」
ドサ
律「…ゆづきちゃん、ごめんね本当は人が死ぬのなんて見せたくなかったんだけど」
少女「そ、そんなことよりお姉さん、手当しないとっ…」
律「んー、もう無理じゃないかなあ。傷も深いし手遅れだと思うよ」
少女「そんなっ、なんで…」
律「…私さあ、自分の手で優龍を殺した後、凄く怖かったんだ。自分の価値を示したくて生きてるのに、その手で人を、それも友達を殺すなんて」
少女「そんなっ」
律「でもね、今、君を守れた。生きてた意味は、あった」
少女「ちがう、違うよお姉さん。みんなは貴方に生きていて欲しかった!」
律「っ…」
少女「だって、あんなにみんな幸せそうだった!それは、貴方が生きていたからだよ」
律「…そっか、私…生きててよかったんだぁ」
少女「…」
律「弥白をよろしくね。あと真昼も。あいつ、けっこう先走るから」
少女「そんなのっ、お姉さんが止めてあげてよ!」
律「私じゃダメだった。止められなかった。だから次は、貴方の番だよ」
少女「…お姉さん。」
(袖で拭う)
暗転
*屋敷にて
弥白「!おかえ…」
(少女文月人でいるのを見た)
弥白「り…、」
少女「…」
(俯いている)
弥白「…ゆづきちゃん。部屋、行っとり」
少女「…コク」
(少女、下手へ退場)
コンコン(上手から)
真昼「…律は?」
(ドア越しに)
弥白「…」
ガチャ(上手)
真昼「また、『死んじゃった』の…?」
弥白「…うん」
真昼「…ねえ、教えてよ…。『死』ってなに?何で突然、『死ねる』ようになったの?」
弥白「…もう、とっくに分かってるんやろ?」
真昼「え」
弥白「死んでみる?今ならみんなと同じやよ」
真昼「…な、んで」
弥白「…2人は、理解しちゃったんよ『死』を」
真昼「…」
弥白「来世はみんなでハッピーエンド!…最高の終わり方やない?」
真昼「…嫌だ。私は…この世界で生きていたかった。永遠の、この世界で」
弥白「それは、あんたが一番嫌っとったエゴやないの?」
真昼「…それでも。生きたかった。」
弥白「そっか。じゃあ、先に行ってあっちで待ってるね」
真昼「…」
(真昼、上手へ退場)
弥白「は〜あ、うち1人で自殺かいな」
弥白「面白みもあらへんなあ」
弥白「次は上手くやらんとな」
弥白「うーん、ねむ」
(こめかみに銃口を当てる)
暗転
*屋敷の客室にて
少女「…私は、どうすればよかったの…?」
バアン!(銃声)
少女「!?」
少女「お姉さん…?」
ガチャ
少女「ヒッ」
(血痕のみ登場★)
(少女、後ずさりへたる)
少女「…ゆづき」
(何かを祈る)
少女「ゆづき、ゆづき…結月…!」
暗転
*病室にて
少女「あ、やっと来た!遅いよ〜」
?「ごめんごめん。はいこれ、今日は自信作だよ」
少女「やった!結月の物語、本当に大好き!」
結月「妹の為ならばいくらでも書きますよ」
少女「ふふっ」
結月「…紡月、今日は調子どう?」
紡月「今日はね、比較的いい方だよ。ただ、ちょっと咳が多いかなあ」
結月「そっか。じゃあ看護師さんにいって薬出してもらってくるよ」
紡月「ありがと!」
暗転
*葬式にて
(お経SE)
結月「…紡月」
(四角い長方形の箱、棺桶に本を入れる)
結月「…おやすみ」
暗転
*屋敷リビングにて
紡月「…あれ、」
(上手側にあるナニカを手に取る)
紡月「これって…」
(タイトルのわかる本)
紡月「…結月」
(走り出す)
暗転
*屋敷真昼の部屋にて
真昼「…私、これからどうしよ…弥白の言ってた通り、もう生きてる意味なんて…」
紡月「まって!」
真昼「!なんでっ」
紡月「生きて!」
真昼「…え?」
(泣きそうな)
紡月「…生きてよ…」
真昼「そんなのっ」
紡月「あなたがエゴの塊なら、私も私のエゴで対抗するから!」
真昼「っ…」
紡月「…あなたは、生きてよ…」
真昼「もう、いない…」
紡月「…うん」
真昼「私の、生きてる意味は、もうない…」
紡月「そうかもね」
真昼「私しか…いない…」
紡月「そんなこと、ないよ」
真昼「…え」
紡月「終わった世界でも、どんなに進めなくても、あなたの隣に人はいるよ」
真昼「…でもっ、でも…貴方まで居なくなったら私、どうすればいいのよ」
紡月「私は…この世界の人じゃないからもう貴方の隣にはいれないけど…生きるんだよ。それがあの人たちへの1番の、花向けだから」
真昼「ゆづきちゃん…」
紡月「…私の、私の本当の名前はね」
(真昼になにか耳打ちをする)
点滅(紡月が消える)
真昼「…さようなら」
暗転
*町にて
真昼「ふー、ひっさしぶりに街に出たな。結構みんな普通に過ごしてるみたいだけど」
早月「きゃっ」
真昼「ビクッ、何!?」
早月「痛た…ご、ごめんなさい!ちゃんと前見てなくて!」
真昼「あーいや、大丈夫だけど…。どうしたの?」
早月「えっと、ちょっと人探しを…」
真昼「ふーんそっか。」
早月「最近、少し身の回りに違和感を感じるようになってきて…」
真昼「へー」
早月「興味なさそうですね」
真昼「だって興味ないもん」
早月「正直ですね…私、兄がいるんです。」
真昼「お兄さん。」
早月「兄と…兄の親友。私達3人、いつも一緒にいて、家族…みたいな関係で…」
真昼「大切だったんだ」
早月「…はい。でも、束の間の幸せ…って言うんでしょうか。私達…」
真昼「あ、お迎えが来たみたいだよ」
?「早月」
早月「!…また、貴方ですか」
文月「”また”で悪かったですね」
早月「お姉さん。ありがとうございました。私はそろそろ行きます」
文月「お世話になりましたね」
(真昼手を振る)
(早月退場)
文月「…卯美と神無が死んだ。そちらもそうみたいだな」
真昼「うん、そうだね。そちらの部下のせいで」
文月「…ああ。きつく言い聞かせておく。…顔つきが変わったな」
真昼「まあね。…3人が戻ってきた時にあんな顔のままでいたら心配させちゃうから」
文月「戻る…そうか。またそれも一興。不思議な君達だ。きっと叶えてくれるのだろう。」
真昼「きっと、ね。」
文月「不思議な君たちのおかげでようやく踏ん切りがついた…感謝する」
(フード又は仮面を外す)
真昼「さっきのあの子って文月さんの…いや、なんでもありません。」
キサラギ「ボス!そろそろ!」
(姿of)
文月「…ニコ。じゃあな」
(文月退場)
真昼「…こちらこそ、ありがとうございます。みんなが、私が望んだ人生を気づかせてくれて…ありがとう」
真昼「…さーて、今日は何しよっかな〜」
暗転
*終幕
ナレーター「こんにちは、名もなきナレーターです。皆さんは、『死』って知ってますか?この物語は、既にバッドエンドを迎えた物語です。その物語に出てきた子達はその『死』を巡って人生を交差させていきました。『死』を知らない者達が未知の物に触れそして壊れていく。人生とは不思議ですね。人の一時の感情により選択が委ねられる。その中でも、彼女達は選択を重ねて選んだ末に望んだ最後を迎えられたのではないでしょうか。みんな笑ってハッピーエンド…なんて、そんな物語みたいな展開ではないですけど、この子達がこれからも笑って過ごせる事を願っています。ご観覧、ありがとうございました」
〈カーテンコール〉
結月(作者)
↓本を渡す
少女(紡月)
↓みんなが来てそこへ駆け寄る
優龍、律
↓
弥白、神無
↓神無に連れられてオドオドしながら
卯美
↓元気そうに走って
早月
↓早月を微笑ましく眺めながら文月登場(の後を追ってキサラギ)
文月キサラギ
↓舞台中心へ行く
真昼
ー閉幕ー