5.迷惑な訪問者(1)
頭がくらくらして、こめかみをそっと押さえた。
少し休んでからまた道を歩いていると、どこからか三人の男が飛び出してきて道を塞いだ。
「うちの縄張りに誰が入っていいって言った?」
からかうような声に顔を上げた。
角刈り、モヒカン、そしてスキンヘッドの男が目の前に近づいてきた。
「飯を食いに行くところだ。お前らの許可がいるのか?」
「この野郎、言ってくれるな。ここは俺たち“ビッグ・ジョー・クラン”の縄張りだ! 通るなら通行料を払うのが当然だろ」
「ふざけんな。飯食いに行かなきゃなんねぇんだよ」
「まだ食ってなかったのか?」
「ああ」
三人は同じ孤児院の同期だ。
血気盛んな男たちがありがちなように、三人は稼げる仕事を探して、クリスタルを売る仕事に手を出していた。
危険だが稼ぎは悪くないらしい。
「飯は重大事項だからな」
「俺たちも食いに行くか?」
「お前、さっき食っただろ」
「夕飯を先に食っておくのも悪くない」
「ヒヒ、こいつ頭おかしいな」
バカどもが言い合っているのを見ていたら、余計に疲れてきた。
「腹減ってんだよ。いちゃつくなら家でやれ」
「おう、すまん」
「ところでお前、この時間に仕事してねえなんてどうした? 頑張ってたのに、もうクビになったのか?」
「疲れたから今日は休むって言ったんだ」
俺が休むって言ったら、三人とも驚いて道を開けた。
「金の亡者がそんなこと言うとはな」
「太陽が西から昇るな」
「顔見たらマジで疲れてるっぽいな。飯たっぷり食えよ」
「じゃあ、またな」
俺は「またな」と別れの挨拶をして歩き出した。
数歩も歩かないうちに、後ろから呆れた声が聞こえた。
「おい! つらいなら言えよ! 俺たちと一緒に仕事すりゃいいんだからな!!」
その言葉に、俺は手を挙げて中指を立ててやった。
「ふざけんな」
異世界でも金さえあれば大抵のことはできるって言うけど、あんな仕事に関わりたくはなかった。
次の日、俺は仕事に行くために朝早く事務所に向かった。
出発時間までかなり時間があったから、ソファに寄りかかって目を閉じていると、ゴブリン所長がその日の出来事についてさりげなく聞いてきた。
「どうしたんだ?」
「何がですか?」
「とぼけるな。ハンスとジョッシュのことだ」
「二人とも死にました」
二人とも死んだという言葉に、所長は苛立ちを見せた。
「チッ、最近使える奴を見つけるのも大変なのに、やっと少しはマシになったかと思ったら…どうして死んだ?」
「死ぬのに理由が要りますか。バカなら死ぬんです」
もちろんドラゴンの死体という大きな理由はあったが、死んだ者に口はないし、実際に俺の言うことを聞かずにバカなことをして死んだのだから、大差ない。
「お前が一緒だったのに?」
「言うことを聞かない奴に、俺が何かできるとでも?」
「チッ…バカならせめて体くらい丈夫じゃないと、使えねぇ奴らだ」
「それ、俺に言ってるわけじゃないですよね?」
「ふん。奴らが使ってた道具は?」
電撃棒のことを言っている。
「持ってきました」
「よくやった」
それも最下級ながら一応アーティファクト。
中古でも一本買おうと思ったら、週給ぐらいは飛ぶ。だから持って帰ってきたのだ。
自分が使ったわけでなくても、持ち帰らなかったら、同じチームだったってだけで俺に金を請求してきてもおかしくなかった。
人が死んだとはいえ、所長に金銭的損失はなかったので、二人についての話はそれ以上出なかった。
ちょっとした事故の後も、仕事は着実に続けた。
契約のせいか、働いてもあまり疲れを感じなかった。
そうして二週間ほど経ったころ。
どこかで風邪でももらったのか、元気だった体に寒気が走った。
体からは冷や汗がにじんだ。
俺はスプーンを持つ気力もなく、飯も食わず、ベッドに横になってじっとしていた。
***
頭に牛の角を持つ獣人・ミノは、大きな金棒を手にユジンのワンルームを訪れた。
手に大量の鍵の束。
その中から一つを鍵穴に差し込み、ドアノブを回すと、扉が開いた。
カチャ。
ギイイ…。
部屋に入ったミノは、ベッドにうつ伏せになっているユジンに向かって、深く息を吐いた。
「ユジーーン!」
「!!」
バッ。
布団を頭までかぶって寝ていた俺は、雷でも落ちたような大声に驚いて体を起こした。
「?」
なんだ?
あいつがなぜここに?
家賃の支払い日にはまだ余裕があるはずなのに?
状況がよく分からなかったが、とりあえず布団をどかし、床に落ちていたズボンを拾って履いた。
「ミノ、突然こんなふうに来るのはどうかと思うぞ?」
「はあ?」
俺の言葉が気に入らないのか。
鬼神のように顔を歪めた。
興奮しすぎて、息をするたびに鼻息が荒い。
「俺が来ちゃいけないとでも言いたいのか?」
顔が怖くて怒っているのは分かったけど、入居者の権利を守るため、勇気を出して言った。
「お前がオーナーなのは知ってるけど、それでも入居者のことを考えてくれよ。こんなふうに急に来られたら俺も困るんだ」
俺の言葉が図星だったのか、顔だけでなく首まで赤くなった。
かつては有名な傭兵だったらしいけど、ちょっと怖いとはいえ、俺は悪いことしてないから堂々としていた。
だが、少し言いすぎたのかもしれない。
ミノが建物が揺れるほど怒鳴った。
「ユジン!! この野郎!! 今まで一度も家賃を遅らせなかったからって、俺が甘く見るとでも思ったか? 本当なら昨日来る予定だったんだぞ。お前だから一日猶予をやったんだ。家賃、もう二日も遅れてるんだぞ!!」
「はっ?」
ミノの言葉に俺は驚いた。
飯も食わず、ベッドで寝込んでいたら、あっという間に数日が経っていたとは?