1.ドラゴンハートを拾った。(1)
会社に出勤して作業道具を取り出し、
人数分の荷物をトラックに積んだ。
俺の仕事はゴミ処理場の清掃。
汚くてキツいだけでなく、魔界では清掃員のイメージが良くないため、他の者はやりたがらない仕事だ。
だが、前世で持っていたスキル「浄化」を使えば、少し我慢するだけでそれほど大変な仕事ではなかった。
道が悪く、トラックの荷台に乗っていると、地面の凹凸が全身に伝わってくる。
ガタンッ。
不満なのは俺だけではなかったらしく、
誰かが運転席に向かって怒鳴った。
「運転ちゃんとしろよ!ケツが痛え!」
返ってきたのは、窓から突き出された中指。
「ぷふっ。」
「ククッ。」
周囲の笑いに、その男は顔をしかめて怒りを押し殺した。
ガタガタ揺れるトラックの上で、しばらく尻を痛めていると、吐き気がこみ上げてきた。
数日前から始まった魔界編入100周年の祭りが昨日終わったばかりで、祭り期間中は酒が安く、つい飲み過ぎてしまったためだ。
浄化を使って酔う前にアルコールを消すこともできたが、酔うために飲んだのだから、そんなことをすれば酒がもったいないではないか。
ガタン。
「着いたぞ、降りろ!」
「お降りくださーい!」
どどどっ。
手際よくトラックから荷物を下ろし、チームを分けて行動することになった。
俺のチームは俺、ハンス、そしてジョッシュ。
ハンスはここ半年ほど一緒に仕事をしている仲間。
ジョッシュはトラックで恥をかいた男で、誰も組もうとしなかったため、経験があるという理由で俺が引き受けた。
一緒に行動するジョッシュが人懐っこく寄ってくる。
「えへへ、よろしくお願いします、先輩方。」
「なんで俺たちが先輩なんだ?お前の方が年上だろ。」
「年齢だけが全てじゃないですよ。有名ですからね、お二人。事務所でも最強のコンビって聞いてます。」
「水に落ちても口だけは浮かぶな。」
ハンスの言葉に、ジョッシュは手を振って言った。
「俺も、そういう口だけのやつ大嫌いです。」
そんな二人を横目に、ゴミ処理場の入り口を守るインプに近づいた。
「今日も来たな?一度も休んだことがないな。実に勤勉だ。」
俺の背丈の半分もないインプ。
下級魔族だが、ああ見えて魔法使い。
俺のような人間がどうこうできる存在ではない。
インプが笑いながら言う。
「ククッ、お前がいつ死ぬか賭けてるんだが、もし死にたいなら教えろよ。あの世への旅費は用意してやるぜ。」
「死ぬつもりはないから、そんな賭けはやめとけ。」
「さあな。弱い人間が死ぬ場所なんて選べると思ってるのか?行けよ。」
入場の許可をもらい、俺たちは防毒マスクをつけて中に入った。
「初めてのやつは、死にたくなければベテランの言うことをよく聞いて、生きてまた会おう。」
他のチームが離れていくのを見送った後、蟻の巣のように広がる通路を先導して歩いた。
ゴミ処理場は文字通り、
都市から出た不要物が集まる場所。
こういう場所はいくつか存在しており、定期的に掃除しないと変異スライムが発生してしまう。
グサッ。
俺は持ってきた電気棒でスライムの核を突いて破壊した。
細長い液体がついてくる。
棒を振って振り払った。
俺たちは周囲を確認しながら、汚染されたスライムを処理していった。
ここはゴミ処理場。
まれに金目の物が捨てられていることもあり、運が良ければ1日分の酒代くらいは稼げる。
そんな中、思いもよらないものに遭遇した。
「これって…あれじゃない?噂でしか聞いたことなかったけど、本物とは…」
「先輩方、この化け物、もう死んでるみたいですよ?」
俺たちの目の前に、通路を埋め尽くすように転がっていたのは、都市の主が宴で使用したというドラゴンの死体だった。
ここまで来る途中、以前よりスライムが少なかったのはこのせいか。
死体にびっしりとくっついて見えなかったようだ。
スライムの集まり方は気持ち悪かったが、
その鱗から放たれる独特な魅力に、つい見惚れていたところ、ハンスが沈黙を破った。
「ぼーっとしてないで片付けようぜ。ひと儲けできるぞ!」
金になると目を輝かせたハンスが、死体に張りついたスライムを倒し始めた。
「ジョッシュ!手伝え!」
「はいっ!」
俺もその列に加わった。
『これ、いくらになるんだろうな…』
どうせやる仕事なら、金も稼げた方がいい。
電気棒を手に、死体にくっついたスライムを突いた。
グサッ。
ジューッ。
すると、それまでと違う濃厚な魔気が顔に襲いかかってきた。
「うっ…」
思わず顔をしかめ、慌てて浄化筒のバルブを押さえた。
不浄のエネルギーを防ぐための防毒マスクをしているのに、鼻と目が痛む。
俺は作業を中断して後ろへ下がった。
「やめろ。」
脳内に直接響くような声。
ピタッ。
二人は作業の手を止めて俺を振り返った。
なぜ止めたのかと不思議そうに俺を見つめる彼らに言った。
「これは俺たちでどうにかできる相手じゃない。人を呼ぶか、上に報告を…」
「ダメだ!!」
俺の言葉が終わる前に、ハンスが叫んだ。
「人を呼べば皆来るだろ?そしたら取り分が減る!俺たちだけで片付けよう。」
「3人じゃ危険すぎる。」
「ユジン、頼むよ!これが最後のチャンスなんだ。これさえ乗り越えれば、もうこんな生活しなくて済むんだぞ…!」
防毒マスク越しに、目をギラギラさせるハンス。
その姿に、背筋に冷たい汗が流れた。
「ジョッシュ、お前もそう思うか?」
「え?ええ!他の奴らにやらせるのはもったいないです。どうせ金手に入れても、博打や酒に使うだけですし、俺たちでやった方がマシですよ。」
ジョッシュまで同意しているこの状況で、ここで引き下がるのは危険だと、俺の本能が告げていた。
「じゃあ、お前の言う通りにしよう。ただし、危ないと思ったらすぐに引き上げるってことで。」
「信じてたぞ!俺だって命は惜しいからな。心配するな。ジョッシュ、早く金になるもの拾え!」
「へへっ、了解です、兄貴!」
再び作業を始める二人。
俺も少し離れた場所で作業に加わった。
グサッ。
ジューッ。
どれくらい作業しただろうか。
腫瘍のように貼り付いていたスライムを大方処理し終えたとき、胸元の浄化筒交換シートが黒く染まっているのが見えた。
俺は慌てて背中のバッグから予備の浄化筒を取り出し、交換した。
カチッ。
シュルルル…。
「ふぅっ…はぁ…」
浄化筒を交換していた間、我慢していた息を吐き出し、荒い呼吸を整えた。
空気が少しマシになった気がする。
少し休もうと思ったそのとき、
露出した胸骨の間から、キラリと光る物体が見えた。
『なんだ、これ?』
後で確認してもいいはずなのに、運命に引き寄せられるような感覚。
気が付いた時には、それを手に取っていた——