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加工魔

自分のことを思いっ切り棚に上げて人にケチをつける、この率が高い気がします。

「ねぇ。何でそんな激ヤバ男引き当ててんの!!」

真剣な眼差しで私に語り掛けて来る。私の数少ない友人の吉住加奈子。

その瞳によって喧騒に塗れている激安チェーン店のはずなのに私に静寂をもたらす。

片手に強く握りしめていたジョッキを大きく傾け、空虚を作り出す。

「ですよね……何も返せません……」

「だーかーらー!

自分と真逆なのがタイプと言えど、もっとちゃんと見極めなよ!!

ネタとしては楽しいけど、心配なんですけど!!!」

こんなにも荒れ果ててしまった私の友人の姿には理由がある。

少し時を遡る。

私はマッチングアプリで知り合った男性について酒の肴にしていた。



画面に映し出されたのは大自然に囲まれてBBQしたり、釣りしたりアウトドアな人柄。

そして筋トレ終わりにジムの鏡越しに撮った自撮り。

私自身が引っ込み思案だからこそ、真逆の人に憧れを強く抱いていた。

見た感じ写真は加工されていない、ただ携帯がiPhone11なのを察するに余りはぶりは良くなさそう、そして自己紹介文が《酒とドライブに付き合ってくれる子ぼしゅー。》だからノリいい子が好きっぽい。

私とは似ても似つかないタイプなのは重々承知だけど…いいねを送るのは自由。

そう自分に言い聞かせてリアクションを送った。

コロナ渦になってから人との関わりが本当に減った。

彼氏どころか新しい人間関係も作られない。

こうやってマッチングアプリを利用しても、そこから真面目に対応してくれる人はどれくらいいるのだろうか。

着々と結婚適齢期に近付いていく現実に焦りを感じて、取り敢えず開いて見定める日々。

今日はもうアプリ開いたし、頑張った頑張った。

明日も仕事だし、もう寝よう。

スマホを手放して眠りに着いた。

良い人と巡り合えたらいいな…


大音量アラームに強い苛立ちを覚えながら、手探りで止める。

眼鏡を掛けるとマッチングアプリから通知が来ていた。

《しん さんからいいね!が届きました。》

「えっ、嘘。」

寝起きのまだ覚醒してない脳内にはとても大きな情報量で、処理しきれずに呆然としていると出勤ぎりぎりになってしまっていた。

淡い期待を五感でひしひしと感じながら、会社まで走った。

反応来ると思ってなかった。もしかすると、もしかするかも…!


仕事に疲弊して帰宅途中で携帯を見ると、連絡が来ていた。

『ども、いいねあざっす。』

『可愛かったんでいいねしました。』

積極的に連絡をしてくれる人、貴重だ…と喜びを改めて噛み締めながら携帯を握る。

『こちらこそありがとうございます!』

『早速なんですけど、しんさんはメッセージを続けたい派ですか?

それともすぐお会いしていたい派ですか?』

ここで大きくしんさんとの距離の詰め方が変わってくる。

この連絡になんて来るか…

これまでの少ない経験上、アプリ内のメッセージや電話機能を存分に使って会いたい派かそんなの面倒だからさっさと会ってみたいかでその人の性格が大分見えてくるというもの。

前者であれば男性は潤沢な課金をしていないと不可能、よって割と金銭的余裕があるタイプ。こういう人は直接会っても奢ってくれる率が高い。

後者であれば最低料金しか払っていないので、取り敢えず会ってみて生理的に無理かの判断をする。ただしこういうタイプは待ち合わせ場所の近くから見定めをしてドタキャンをする可能性が激高。

私としてはメッセージで信頼関係を構築してから会いたいのが理想だけど、そんな時間が勿体無いと感じる部分もあるからぐいぐいと引っ張ってくれる人もとても助かるのも事実。

つまりは言い方次第。

どうなるか…

今日はもう連絡は帰って来ないだろうと思い、携帯をテーブルの上に置いてお風呂と家事に専念することにした。

引っ張る人がタイプって言ったら私の話を聞かないで、意見の押し付けだけしてくる自己中心な男に引っ掛かることが増えたんだよなぁ。

人生のパートナーになる人は、互いの意見を聞いた上で二人の折衷案を考えていきたいと思うのは不可能か傲慢なのか……

黙々と手を動かしているといつもより早く終わった。

携帯を見ると返信が来ていた。

『ん~、とりま会ってみらん?』

『やっぱ顔見て話さんと分からんことってあるし。』

方言!!!

改めてプロフィールを見直すと、そこには九州出身と書かれていた。

こうなってくると尚のこと会ってみたい。

周りにいない九州の人、方言直接聞いてみたい!!

私はすぐ返信をして会う約束を取り付けた。

無しって思われてもいい、方言聞いてみたいその一心で約束の日を待った。


デート当日、私はマーメイドスカートにレースのトップスという清楚系の格好をして待ち合わせ場所に立っていた。

ノリが良い子が好きそうというのは分かってるけど、やっぱり最初は清楚系で攻めた方が安牌。

携帯の反射で前髪をこまめに直して待っていると、声を掛けられた。

「友利さん?」

「あっはい!」

反射で思わず大きな声で反応してしまって、俯いていると笑い声で迎えられた。

「元気っすね!

じゃ、どっか入りましょっか。」

実際に会ったしんさんは、私と目線が変わらなくてジムに通っているという割にはそんなに身体が大きくなく写真はやっぱり加工だったことがよく分かる人だった。

移動中足早に移動するので、私は息が上がってしまっていた。

「……足遅くね?さっさ歩かな。」

この時点で方言を聞くというミッションはもう満たしたので、帰ろうと思ったが流石にこのまま帰るのは癪だと思い意地でカフェが立ち並ぶエリアまで向かった。


大型ショッピングセンターに入り、ご飯エリアへ向かおうとエレベーターに乗り込む。

何となく気まずくて外を眺めていると、衝撃の一言を言われる。

「…………ボタン押さんの?

いや、それはないやろ。」

明らかにボタンに近いのはしんさんだというのに、わざわざ後ろにいる私にボタンを押させようとして来た。

ドン引きしていると、まだ文句が言い足りないのかぶつぶつと小声で何か言いながらボタンを押していた。

まじかこの人。

もしかして今の時代にそぐわない考えをお持ちな感じ?

うわぁどうしようもう帰りたい。

お店なんか入らないで、帰りたいからここのお店全部満席であれ……何かよく分からんイベントあって大混雑であれ……

30分以内にここを出ることを目標にすることを心の中で固く決心していると、エレベーターが音を立てた。



「あ~、あの店にしますか。」

「あっ、はい。」

残念ながらお店は混雑しておらず、普通に案内された。

いつもなら絶対待ち時間あるのに何でこういう時だけ…

ソファー席とカウンターチェアーのあるテーブルへと案内され、私が店員さんにお礼を言っている間にしんさんは迷うことなくソファー席へ座っていた。

私の方が荷物多いんだけど???

カバンも持ってきてない様な軽装の癖に何故そっちに座る??

ていうか何で店員さんにお礼とか言わないの???

この一瞬で湧き出てきたはてなマークを今は見ないふりをして席に座り、メニューを見ることにした。

テーブルを見渡すと、携帯から注文するスタイルだったらしくバーコードを読み取ってメニューを確認していると不機嫌な声が店内に響いた。

「……いやいやいや、俺には見せんの?

あんた自己中過ぎん?」

余りの出来事に私は思わず目を見開いてしまった。

自分が手に持っている物を利用せず、何故一緒に画面を共有しなければならないのか。

というか先に座って携帯を触っていたのだからもう勝手に眺めたいたと思っていた。

何も反応をしない私にいい気になったのか、わざとらしく深い溜息を着いて聞いてもないのにべらべらと語り始めた。

「あんたさ~いくら何でも初対面にこんな気使わせるなんて、女としてまじどうなん?

歩くのおせぇしさっきのエレベーターでもボタン押さんし、お店入ってからもたらたらしよってさぁ。

そして極めつけは、メニューを自分でしか見ないと来た。

そりゃ~モテんわ。」

言いたいことを全部言えてすっきりしたのか得意気になり、氷入りのお冷を音を立てて飲み干す。


プツン、と私の何かが切れる音がした。

私一番の笑顔を見せつけると、相手は更に下に見ようとしたのか口を開こうとしたがすかさず口を挟んだ。

「自分の行動は省みれないのに、他人に対しては大変厳しいんですね。

その1000分の1でもご自身に関心を持たれてみては如何ですか?

きっと、遊んでくれるお友達がなんで少なくなったのか理由がすぐ分かりますよ。」

反撃されると思っていなかったのか、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。

その間に私が続ける。

「言わせてもらえば、まず自分のペースでしか歩かない人なんて誰に合わせることも出来ませんよね。

エレベーターの件だってボタンを押せる様な位置に立っていらっしゃったの、そちらですよね?

可能な人がする、という頭がないようで大変驚きです。

案内をして下さった店員さんへの対応がお粗末だなとは感じていましたが、そちらの出身ではそれが普通なのでしょうか?

後、初対面の人間と携帯の画面を共有するほど私は人懐っこい人間性ではないもので。」

肴の様に音も出さずに口を開閉している姿を見てまた笑っていると、ようやく言葉を発して来た。

「はっはぁっっ?!!?!

お前何様なんや!!大体お前みたいな愛想も良くないブスに言われたないわ!!!」

「じゃあお前は人に物言える顔してんのかよ。鏡見て言えよ、加工魔ニキビ面が。


…これ以上はお時間の無駄になりますので、失礼。」

後ろで何やらわめいていたが、足早に店を後にした。

その後マッチングアプリを通して『ふざけんな!クソ女!!』みたいなのが大量に来ていたが、運営に今日の会った態度のことも併せて即刻報告したのできっと今ごろはアカウント停止されているだろう。

折角普段よりお洒落したのに、このまま帰るのは何か寂しいなと思っている所に加奈子から連絡があって冒頭に戻る。


「友利さぁ~、こんだけ可愛くてスタイルも良くて良い女なのにさぁ~~

なんでそんなに馬鹿みたいな男引き寄せるんだよぉ~~

幸せになる気あんのかよぉ~~!!!!」

すっかり酒に飲まれてしまいつつ、私の為に怒ってくれる友人に照れながらも介抱していると隣の席の人から声を掛けられた。


「本当に、勿体ない。

俺ならそげんこと絶対せんのに。」

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