表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界の記憶ゼロで詰んだ俺。空耳の夜は楽しく過ぎて行く

作者: コロン

いつも有り難うございます


よろしくお願いします

 

「な?そう思うだろ?」




 その声にハッとして、声のした方へ顔を向ける。

「……山田…?」


 顔を見た時、高校の同級生の山田だと思ってつい名前を呼んでしまった。

 しかし…変だ。山田の頭に角がある。


「え?山だと?」

 山田らしき奴は、目を丸くして口元に手を当てるとしばらく考え込んでしまった。

 山田らし…もう山田と呼ぶ。

 山田が考え込んでいる間に、俺は自分の状況を確認する。


 怪しまれない程度に周りを見回す。


 俺は山田と二人で飲みに来ているらしい。

 岩盤を大きくくり抜いたような薄暗い店内。あちこちに浮かぶ青白い炎。顔が牛のバーテンダーや、飲み物を運ぶホステスにはワニの様な尻尾がある。

 蝙蝠のような顔と翼を持つ客など、どう見ても「人間」ではない奴等ばかりだ。

 店内には大音量で音楽が流れていて、静かに飲む場というよりミュージッククラブに近い。

 山田には角が生えているし、やたらマッチョで上半身裸で…脚は牛だった。顔が山田なだけだ。


 夢。


 …ではない。夢にしてはリアルが過ぎる。

 もしここが異世界とかなんとかであるならば「魔界」ではないだろうか。


 詰んだ。


 自分の置かれた状況を把握して悟る。

「異世界に対応する記憶が一切ない俺は、選択を間違えれば殺されるかもしれない」と。

 とにかく上手くこの場を乗り切ろうと心に誓う。


 そんな絶対絶命状況の俺に山田が明るい顔で言う。

「お前の山から行けとの案は…想像してなかった。山からの案をもう一度検討してみる」

 嬉しそうに笑う山田の口には、ヌラリと光る牙が見えた。

 どうやら「山田」を「山だ」と受け止めたらしい。


「ああ…役に立てたなら嬉しいよ」

 なんのことだか全くわからないが、そう言っておいた。


「お前はあの時もそうだったよな」

 グラスを片手に山田が言う。


「ああ…あの時な…」

 あの時っていつだよ!?なんのことだ!?

 相手が言ってる事がよくわからない時は、笑って誤魔化し話を終わらせるのが無難だ。よし、終わらせよう。と思った…

 …のに!山田は身を乗り出して話を続けた。

「みんなもうダメだと思ったんだ。でも、お前の一言で状況が一変しただろ」

 俺の一言で状況が変わる状況ってどんな状況!?

「ああ…俺もダメだと思っていた」

 今もダメだと思ってるけどな!


「あの時のお前の一声で!だぜ?」

 どう答えればいいのかわからないので、苦笑いをしてグラスの中の飲み物を一気に流し込んだ。


「あれは良かったぜ。…そうだ!もう一回言ってみせてくれよ!」

「勘弁してくれよ」

 マジでマジで泣きそうなんだけど!

 俺は両手を軽く上げ、降参だと示す。


 山田は気にしない。

「なんだよw。じゃあ俺が言うわw」

「やめとけよw」

 ほんとやめて!神様助けて!お願いします!!



 祈り虚しく…山田は立ち上がると大きく息を吸い、口元に手をあて叫んだ。


「g△*S、Bn$+°D≠〆aーーーn!!」


 さっきまで理解出来る言葉で話していたはずの山田は、魔界語とでも言うのか?急に理解できない言葉で叫んだ。


 山田の地の底から響くような声に、店内の炎が大きく揺れ、他の客達も口笛を吹いたりして山田をもてはやす。

 皆、何が始まるのかとワクワクした顔で山田と俺を見ていた。


「ほら、お前の番だぞ」

 満足した顔で山田がこちらを見た。

 視線が早くしろと急かしている。





 はっきり言う。


 山田がなんて言ったかわからない。


 さようなら。

 人生は終わりました。

 もういいや。どうにでもなれと思った俺は、山田が言った言葉を聞こえた通りに繰り返す事にした。



「地味な生姜便所で食うドーリアーーーン!!」



 俺の声は山田よりも太く、ビリビリと空気を震わすほどに響き、照明代わりの炎を一瞬でかき消した。


 静まり返る店内。



 次の瞬間、ぐおおおおーーー!と、割れんばかりの歓声が湧き上がった。


 便所で食うドーリアーーーン!!


 便所で食うドーリアーーーン!!


 あちこちから聞こえる、便所で食うドリアンコール。

 皆、興奮していた。

 翼を持つ者は飛び交い、大きく姿を変える者さえ出てきた。


 山田が嬉しそうにこちらを見て「ほらな、やっぱお前すげえわ」と言う。

 そして山田がまた一言大声で叫んだ。



「b△〃#のzn€tn°÷☆○□ーーーー*」



 俺は聞こえた言葉を忘れる前に繰り返す



「謎の坊さん鈴木がダンボォォォーール!!」



 俺がそう叫ぶと、怒涛の様な歓声が湧き上がった。そして何故か「鈴木」コールが始まった。



 すーずーき!すっずーき!すずーき!すーずき!



 鈴木の法則がイマイチわからなかったが、俺も鈴木コールに混ざる。


「すーずーき!すっずーき!」


 場はさらに盛り上がり、皆一丸となって鈴木を叫んだ。


 そこに「便所で食うドーリアーーーン!!」と叫ぶやつも現れ、ボルテージが一気に上がり、店内で火を吐く奴まで現れた。




 そんな光景を見た山田が言う。

「ほらな。やっぱりお前凄いよ。高橋」





 山田が俺の名前を呼んだ気がしたが…全て空耳だと思うことにした。











楽しそうな山田。

挿絵(By みてみん)

イラスト⭐︎ウバ クロネ様




拙い文章、最後までお読みくださりありがとうございました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 以前から「山田」というキャラ名は何度かお目にしていましたけど、活動報告から気になって来ましたら、ようやくお会い出来ました!(≧▽≦)爆笑させてもらいましたw [気になる点] 普通ならば無理…
[一言] 活動報告から伺いました。 今これを読んで電車の中でニヤニヤしております……マスクしていてよかった……。 なにこれ、なにこれ、むっちゃおもしろいです……(*´ω`*) 山田がウバさんのイラスト…
[良い点] ボロを出さないように極力聞き役に徹して話を合わせ、後はヒアリングした通りに復唱する。 転移先の知識がないなりに発揮した土壇場の対応力が、見事に功を奏しましたね。 当意即妙な機転に満ちた対応…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ