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西岡のビデオ  作者:
9/13

2010年12月下旬:他愛のない酒席の話題

社会人になってから、西岡は悪徳医院の内偵という3Kの仕事をする事になる。奴隷に奴隷の採血をさせたり、薬品を調合させて成分未公開で服薬管理したり、少しの仮眠で連続の徹夜を強いたり、土日を丸ごと変な研修会で潰したりする貧困ビジネス組織へ変貌していた悪徳医院を内偵する仕事は、危険にキツイと汚いが加わって3Kだった。しかし西岡がその仕事をするのは、もう少し後年だ。2010年の12月、勝手知ったる悪徳医院の裏手にある鳥貴族で西岡は瀬黒の職場仲間の忘年会に参加していた。色々な貼紙があるトイレだな、という印象が強かった。せっかく八木の名店街なんだから、普段行かないような店にすれば良いのにとも思ったし、近鉄百貨店の近くに楽しい居酒屋も知ってるのに、と思ったけど、タクシーがすぐ拾えてターミナル駅の前でもある鳥貴族の強みも大したものだから、瀬黒たちの判断は正しかったのだろう。

瀬黒の仕事仲間たちは、妙な話に終始していた。妙と言っても、西岡と瀬黒が高校の放課後に話していたような他愛もない空話だ。

先ず、小遊三と魔裟斗が戦ったらどっちが勝つか、という話をした。座敷席でテーブル2つを囲んだ20人弱の成年者の男女が、その上長と一緒に、部外者である西岡を交えて。西岡は当初、小遊三が魔裟斗と何で勝負するのか分らなかった。魔裟斗が落語でも覚えたのかと思ったし、彼らが争訟でもするのか、とも思ったが、いづれでもなかった。小遊三はカランビット2つを持って、魔裟斗と戦う想定だった。小遊三はカランビットを持って―――――。

小遊三は、テレビ番組の「笑点」の『大喜利』のコーナーで、当時いつも左端に座っていた、水色の着物の男の人だ。格闘家ではない。カランビットというのは、コンバット・ナイフ(軍人などが人に向ける目的で作られたナイフ)の名称だ。「なんで小遊三が魔裟斗と戦うんですか?」と西岡が聞いたら、瀬黒の仕事仲間のデブオタクみたい風体の人が何か構える仕草をして、「瀬黒が(小遊三と魔裟斗に)ザウエルを向けて、おどす想定だ」と答えた。

西岡が話の輪に入れなくて、さびしそうにしていると、曙が東京マラソンに出たという話が席に出て、西岡は俄かに沸き立ち、饒舌になった。西岡と瀬黒は高校の頃、曙をフェンシングのフルーレ(※ 当時の西岡と瀬黒は、フェンシングの事故の新聞記事とかロマンシング・サガというゲームの影響で、フェンシングのフルーレについて勘違いをしていた)で追いかけてハーフ・マラソンするとか、ことわざのように「曙にマラソン」(※ 持続性が絶望視される意味)と言って、打ち興じていた。まさか本当に曙がマラソンをするなんて、思っても見なかったし、「そんなん、やらせるなよ、止めろよ」と思い、それを口にも出した。席の誰もが西岡に共感した。しかも曙が東京マラソンでエントリーしていたのはフル・マラソンだと誰かがケータイで検索して、席全体が沸き立った。

だが、程無くして西岡は再び口を閉じてしまった。閉口の意味を西岡は知った。瀬黒たちは「ケイコと魔裟斗はどっちが強いのか」を検討し始めた。西岡は当初、「稽古」というあだ名の人が居るのか、ケイコという名前の道場生が居るのか、そう思っていた。果たして、ケイコとはglobeのKEIKOの事だった。西岡や瀬黒の世代では、芸能人としてすごく有名な人物である。勿論というか、格闘家ではない。瀬黒が言うような、剣道の心得があり、スイッチング(※ 剣を持ち替えるスキルの意味。居合では常用されるが剣道ではあまり聞かない。西岡は当初『まいっちんぐ』と聞き違えていた)が得意な人物、ではないだろう。2024年現在、KEIKO(山田桂子氏)が剣道を能くする人だという検索結果を得た事が西岡には一度も無い。むしろ、著作権の事件の時に頭を殴られたのではないかと心配されていたのを覚えている。それに関しては「低照度の場所で乱戦になったら、メリケンサックで後ろから頭を殴られるのは有り得る」、「ナックルは長物と違って味方に当るリスクを考えずに攻撃できる」というフォローが入った。なお、剣道をしてる人の支給武器が、どうしてスチール・ラックの部品とか白樫の木刀になるのか西岡は疑問だった。こんだけ大人が居て、誰も竹刀を支給武器に挙げないのは不思議だった。

魔裟斗とKEIKOの試合シミュレーションの〆がどうだったかを、西岡は覚えていない。後年、女性問題で姿を見る機会の減った乙武氏を面白がる話題に移った時、その話が大変面白くて、KEIKOの事を忘れてしまった。

………それにしたって、どうして小遊三やKEIKOなんだ。しかも彼らが致死性の攻撃をする設定で。

笑点メンバだったらキクゾー(黄色い着物の人)が確実に強いし剣道の達人だし、globeでもマーク・パンサーは体格が大きくて強そうだぞ。

魔裟斗は、西岡と瀬黒が大学受験の勉強をしている時期にテレビで話題になっていた格闘家で、西岡と瀬黒が30歳を目前にして酒席の肴にしても、ロートルという感じが全然しなくて、西岡の脳内の魔裟斗は瑞々しい世紀末の格闘家だった魔裟斗の姿をしていた。

鳥貴族で、わき腹が痛くなるまでよく食べ、痛飲して、残飯代の割り勘も出して、店から出た西岡を瀬黒たちはクルマで西岡の実家まで送ってくれた。

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