1999年9月平日1:瀬黒の鯉
その日、西岡は自宅の固定電話で、瀬黒の父親と話をしていた。瀬黒は、家業である食肉関連の大きな工場の別棟の地下の汚水処理のフロアで、なんと鯉を飼っていた。
その鯉が給水の方の設備へ昇った事が災いして、その設備に関連する部分が故障して、大変だったという。橿原のドブ川に鯉が棲んでいて、それを瀬黒と西岡と、女の子を含む3名の他校生たちで獲ったのは事実だ。しかし瀬黒がそんな飼い方をしてるなんて、夢にも思わなかった。瀬黒の父親から逆に謝られた西岡は、自動二輪車で遠くの四川料理店に向かった。店の壁紙を確かめる為だった。そして確かに、四川料理店の壁紙は、あのスナッフの映像の和室の壁の模様と酷似していた。山を模しているのか、金色と深緑色の取り合わせをドロップシャドウしたような図柄で、和風といえば和風だし、中華風といえば中華風にも見える。ただ、それだけだった。もちろん、四川料理店に地下階は無いし、6畳ぐらいの広さともう一つの鉄扉付きの謎の一室を隠せる間取りでもなかった。西岡は一人で杏仁豆腐だけをオーダーして食べた。帰りに個室ビデオ店に寄った西岡は、正規のレンタルビデオのコーナーで日本映画のビデオを借りて、そしていつの間にか寝入ってしまっていた。2時間が経過する5分前に店員から1円玉で個室の錠前を外側から開けられ、そして揺り起こされた西岡は600円の損。